126 無職の少年、助言
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
勇者との対決に向けての訓練が続けられる
しかしながら、未だ魔法への対処法は見出せないでいた
「まだ動きが固いな」
「済みません」
「……いや、そう言うオレも覚悟が足りてねぇらしい。明日からは、刻印武装を着込んでこよう。そうすりゃ、思い切りやれるだろ?」
「では、ワタシも槍を」
「いやいや、嬢ちゃん。そいつはちげぇ。騎士の剣術に対応させるんだろうが」
「そうでした。済みま──」
「おっと、そう何度も謝罪を口にするな。言葉の意味が軽くなっちまうぜ」
「済み──コホン、気を付けます」
「そうするこった」
本日の戦闘訓練を終え、まずは聖女さんへと声掛けが行われた。
次いで、僕のほうへと歩み寄って来る。
「さて、今日はどうした。他事でも考えてる風に見えたが」
「あ……はい、少し悩んでまして、つい」
「解決できるとは限らねぇが、話せる内容なら話してみな」
「その……魔法への対処方法についてなんですけど」
「魔法、か。そいつはまた、随分と厄介な問題だ。生憎とオレは使えねぇしなぁ」
「……そうですか」
「だがまぁ、騎士団の全員が魔法に不慣れなことは確かだぜ。何せ今まで使えなかったんだしな」
それはそうかもしれない。
だけど、現に勇者は魔法を使ってみせたわけで。
ズキン。
頭が痛む。
「とは言え、門外漢のオレじゃあ、碌な助言もできやしねぇか。他に頼れそうな相手はいるのかい?」
「アルラウネさんにも相談してみました」
「ふむ。他に当ては?」
「魔法協会に住んでる賢姉さんなら、もしかしたら何か分かるかもしれません」
「……剣士? ま、まぁなんだ、そうそう魔法戦に特化できるとは思えねぇ。付け入る隙はあるはずだぜ」
「はい」
「大したことが言えずに済まねぇな」
「いえ、そんな。ありがとうございました」
「だが、訓練の最中で他事は考えるなよ。怪我の元だからな」
「気を付けます」
「明日こそは、気合の入った訓練を見せてくれよ」
昨日と同じく、手をヒラヒラ振りながら、歩み去って行った。
「あの、少しお尋ねしても構いませんか?」
続く自主訓練も終えたころ、聖女さんに声を掛けられた。
「はい、構いませんけど」
「ありがとうございます。ふとした疑問というか、好奇心のようなものなのですが。魔装化している状態では、どちらの意識もあるのでしょうか?」
「えぇっと……?」
何を質問されたのか、よく理解できなかった。
「ボウヤとブラックドッグ、どっちも意識があるのか、って聞いてるんじゃないかしら」
戸惑ってるのを察してか、アルラウネさんが説明してくれた。
なるほど、そういう意味だったのか。
いつもの感覚を思い出してみる。
喋ったり、意識して意思疎通したりはしてないかな。
けど、考えに合わせて形状を変えているのは、ブラックドッグに違いない。
「多分、どっちもあるんだと思います。けど、会話とかしてるわけじゃなくて、考えたら応じてくれるって感じです」
「能動的にはキミが、受動的にはブラックドッグが対応しているんですね」
「そう……なんですかね」
難しくてよく分からないけど。
「もしかしたらなんですが、より素早く反応できるようになれるかもしれません」
「え? それってどういう……?」
「つまりですね──」
「たっだいまぁー」
「おかえりなさい」
居間でぼんやりと考えごとをしていると、姉さんが帰ってきた。
『オヒサ!』
『トモダチ、ゲンキ?』
「あ、スライムたちも一緒だったんだ」
しばらくぶりのスライムたち。
姉さんの腕から跳び下りて、机の上に着地する。
「住処でバッタリ会ってね。弟君がこっちに帰ってるって知って、付いて来たってわけ」
『マタ、イッショ』
『オセワ、ナル』
近付いてきたのを、抱きしめる。
『『ギュー』』
「あらあら、仲が良過ぎて、お姉ちゃん妬けちゃうわ」
ああ、何だかホッとする。
帰ってきたって感じ。
そう言えば、妹ちゃんやオーガ兄にも、まだ会ってないや。
「妹ちゃん、最近来ないわよね。もしかして、帰ってきてるの知らないのかしら」
姉さんも同じことを思ったらしい。
「警備で一緒、ってわけじゃないんですよね?」
「兄のほうは一緒だけど、妹ちゃんは違うわよ。てっきり兄から伝わってるものと思ってたんだけど」
自分の家には帰ったんだし、兄妹仲が良好になったとばかり思ってたけど。
そういうわけでもないのかな?
「明日、行きがけに寄ってみるわ」
そう言うと台所へと向かい、手洗いを終えて対面に座った。
「それで? 今日はどうだった?」
「今日も上手くはできませんでしたね。どうにも魔法対策で悩んでしまっていて」
「そう……何なら賢者でも呼びましょうか?」
「お願いしたいです」
「分かったわ。今日は……流石にもう遅いし、明日にしましょうか」
「はい、お願いします」
正直、賢姉さんでも駄目なら、打つ手がない。
「お姉ちゃんが思うに、魔力を根こそぎ吸収してやればいいんじゃないかしら」
「鎧越しだと無理でした」
「そうなの? 普通は鎧越しだろうが通用すると思うんだけど。もしかして鎧が特別製だったりするのかしら」
「お話し中に済みません。その鎧のことなんですが」
二階に居た聖女さんが、一階へと下りてくる。
「別に構わないわよ。それで、鎧がどうかしたの?」
「どうやら、初代勇者の装備との話でして」
ズキン。
頭が痛む。
「……父の話だと、魔物の所為で所在不明になったって聞いてたんだけど」
ドクン。
胸が疼く。
「教会が保管していたようです。刻印武装ではないようですが、防御力は団長の鎧以上かもしれません」
「魔法耐性も高いって聞いてるわ。それで魔力吸収も防がれてるのかしら……」
話を聞く限り、特殊な鎧らしい。
強敵は強敵のまま。
白刃すら通用するのか不安になったきた。
本日は本編130話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 




