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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第一章
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13 無職の少年、当たり前

 スライムは精霊の住処へ、妹ちゃんは自宅へと帰って行った。


 その夜、騒動は勃発する。


 まずはお風呂の時間のことだった。


 いつも通りに姉さんと入ろうとするところを、アルラウネさんに止められる。



「何を自然と二人で入ろうとしてるのよ⁉」


「姉弟なんだから、普通でしょ普通」


「そんなわけないでしょ!」


「え」



 そんなわけない?


 普通は一緒に入ったりしないの?



「姉さん?」


「アタシの代わりに弟君とお風呂に入ろうって魂胆ね!」


「馬鹿なのアナタ……」


「大丈夫よ弟君。この変態の魔の手から、お姉ちゃんが護ってあげるからね」


「どの口が、そんな妄言を垂れ流しているんだか」


「お風呂は家族の触れ合いの場なの」


「もうボウヤは10歳ぐらいでしょ? いい加減に弟離れしなさいな」


「幾つになっても姉弟は姉弟でしょ。小姑みたいに言わないで」


「誰が小姑よ!」



 言い争いは続けられている。


 ベッドで一緒に寝るのは少し苦手だけど、お風呂は別に好きも嫌いもない。


 当たり前のことに過ぎない。


 でも、他の家族は違うのかな。


 僕たちが変なの?



「あ、弟君が困惑してるじゃない! もう余計なお世話よ。ほら弟君、放っておいてお風呂行きましょ」


「ハァッ……。姉バカが過ぎるわね」



 姉さんに手を引かれ、お風呂場へと向かう。



「って、風呂場の外で服を脱ぎだすな!」



 沢山叱られる姉さん。


 もしかしたら姉さんは、割と常識からズレているのかもしれないと、少し心配になった。






 風呂を済ませたら、今度は就寝。


 ベッドは二つ。


 普段使われているのは一つだけ。



「いつもソレなわけ?」


「そうよ。お互いが抱き枕なの」


「じゃあ、何で服脱いでるの?」


「弟君成分を、肌から直接吸収するために決まってるじゃない」



 何それ、初耳ですけど。


 僕から何かが出てるってこと?


 もしかして、ベッドが汚れないように姉さんが吸収してるとか?


 でも、吸収って抱きつくだけでできるのかな。



「服着てないのはアンタの方じゃない」


「どっかで聞いたようなセリフを……。そもそも種族が違うんだし、つたでちゃんと隠れてるでしょ。アンタとは違うわよ」


「服を着ようと思えば着れるでしょ。露出のへきでもあるんじゃないの?」



 姉さん越しで状況が確認できないけど、何だか空気が重たくなった気がする。



「まったく……どうしてこんな風に育ったのかしら……」


「だって父と母はこう――」


「黙らっしゃい!!!」



 ビリビリと空気が震える。



『何事コロ⁉』


「あ、御免なさい。起こしちゃったわね」



 アルラウネさんの腰かけているベッドに、コロポックルも居た。


 既に寝ていたはずだけど、今の騒ぎで起きちゃったみたい。



「アルラウネはいちいち細かいことを気にし過ぎなのよ」


「アンタねぇ……ッ!」


『喧嘩コロ? 良くないポー』


「ほら、コロポックルもこう言ってるわよ」


「アタシには”コロ”と”ポー”しか分からないわよ」



 アルラウネさんは魔族だけど、意思疎通のスキルを持っていないらしい。


 だから言葉を喋れない魔物や精霊とは、会話もできないみたい。


 コロポックルが実際に喋っているのは”コロ”と”ポー”の二種類だけ。


 基本的にポーで、疑問形がコロな感じ。



「コロポックルもこっちで一緒に寝る?」


『お邪魔はしないポー』


「あら、分かってるじゃない」


『空気ぐらい読めるポー』


「アルラウネとは大違いね」


「何よ。どんな会話してたのよ」



 吹き抜けの空は夜を主張している。


 夜明けはまだ遠いだろうけど、そろそろ寝ないと明日が辛い気がする。


 外、つまりは世界樹を出て地上に行くみたい。


 今度は人族の方じゃなく、世界樹の壁を隔てた反対側。


 魔族側らしいけど、そっちに行くのは初めてだ。


 何だかドキドキしてくる。



「あら? どうしたの弟君、モゾモゾしちゃって。トイレ行きたいの?」


「違います。ちょっと明日のことを考えていたんです」


「楽しみ?」


「はい」


「でも忘れないで。こことは違って危険もあるってことを」


「気を付けます」


「よろしい。まぁ、明日行く集落の中なら安全だと思うけどね」


「優秀な門番も居ることだしね」



 もんばん?


 何のことだろう。



「コラ、ネタバレ禁止よ。明日見てのお楽しみなんだから」


「ハイハイ。悪かったわね」


『楽しみポー!』


「ほら、コロポックルも興奮してないで寝るわよ」


「最初っから大人しく寝てればいいのよ」


「お風呂もベッドも納得はしてないからね」


「アンタもしつこいわねぇ……」


「でも今日はもういいわ。ボウヤの邪魔をしたいわけじゃないしね」


「じゃ、おやすみ」


「おやすみ」


「おやすみなさい」


『おやすみポー』



 褐色の肌が抱きしめてくる。


 鼓動が伝わる。


 落ち着く。


 心音が重なり、自分が溶けて行く感じ。


 眠気はすぐに。


 明日への期待も不安も置き去りに、眠りへと誘われた。






アルラウネは相も変わらず住処の外に出たがりませんが、コミュ力は向上している模様。


本日は本編15話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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