125 無職の少年、全力で
「どうしたよ? えらく動きが悪かったみてぇだが」
「……済みません」
戦闘訓練を終えると、待ってましたとばかりに団長さんが声を掛けてきた。
どこか気まずそうに、聖女さんが応じる。
「その様子じゃ、自覚はあったみてぇだな」
「はい。済みません」
「そいつは何に対する謝罪だ。オレに対してか? それとも、真剣に立ち合えなかった少年に対してか?」
「えっと……」
「まさか、前回もこうだったのか?」
視線がこちらへと向けられる。
今度は僕が問われているみたいだ。
「いえ、そんなことはありませんでしたけど」
「そうかい」
仰け反るようにして頭を掻きながら、再び聖女さんへと向き直る。
「どうにもらしくねぇな。この際だ、聞いてやるから全部話せ」
「……分かりました。実は──」
訓練でやり過ぎてしまったこと、終盤に技を放った所為で、僕の力があわや暴走しかけたことなどを話し終える。
「なるほどな。んで、さっきの有様だったってわけかい」
腕を組む団長さんに対し、肩を落とし俯いた姿勢の聖女さん。
そのまま顔を上げようともしない。
「いいじゃねぇか。手加減などせず、全力で相手してやんな」
「なッ⁉ で、ですが!」
「オレが立ち会ってるのは何のためだ? 嬢ちゃんのやり過ぎも、少年の暴走とやらも、止めてやるよ」
「団長……」
「少年は命懸けの戦いに挑もうってんだろ。なら、今できるだけのことをしてやらねぇてどうする」
「そう……なんでしょうか」
「嬢ちゃんの剣速に対応できるようになりゃ、その分、行動にも思考にも余裕が生まれるだろうさ」
「……分かりました。明日までに気持ちを切り替えておきます」
「そうしてやれ」
今度こそ聖女さんのそばから離れて、こちらに歩み寄ってきた。
「さてと、今度は少年の番だな。見たところ、暴走とやらを恐れてか、踏み込みに迷いがあったように見られた」
「……そうかもしれません」
「さっき嬢ちゃんにも言ったが、明日からは気にせずぶつかっていけ。でなけりゃ、折角の訓練も無駄になっちまうぜ」
「はい、気を付けます」
「……ま、嬢ちゃんよりかは迷いは少ねぇようだな。いつ聖都に攻め込むことになるかも知れねぇんだ。精々後悔しねぇようにするこった」
言いたいことは言い終えたらしく、歩み去ってしまった。
「今日は運ばなくても大丈夫そうね」
「はい。このまま自主訓練を続けるつもりです」
入れ替わるように、アルラウネさんが近づいてきた。
「何もないとは思うけど、そばで見守っててあげるわ」
「では、せめて座っていてください。家から椅子を持ってきます」
ずっと立って見ているだけなのは辛そうに思える。
「そんなに気を回さなくても大丈夫よ。疲れたら勝手に楽な姿勢を取るから」
「あの!」
「あら? どうしたの?」
「ワタシも自主訓練に参加させてください」
「……って言ってるけど」
「やるのは身体作りと、型稽古なんですけど」
「では、素振りをしています」
好きにしたらいいと思う。
……もしかして、何か手伝ってくれようとしてたのかな?
だったら、悪いことしてしまったかも。
「あんまり無理しないようになさい。また抱っこされたくなかったらね」
う、あれは恥ずかしいから遠慮したい。
一通りの運動を終えたら、型稽古へと移る。
双剣を使うようになって、動きは更に複雑化した。
同時に動かしたり、少し時間差をつけたり。
まだまだ技の出も遅い。
反射的に出すのは無理そう。
実物の短剣の重さにも慣れないとだし。
特に白刃。
具現化で再現できれば、戦闘をかなり有利に進められる。
何せ、破損を厭わず使えるのだから。
もっとも、金属すら切り裂くぐらいだし、そうそう壊れないかもだけど。
後は、魔法への対策も考えないと。
攻撃に防御に妨害にと、とにかく厄介だ。
各魔法への対処方法の模索。
……なんて、あるんだろうか。
僕には備わってない力。
使えるのは……そう言えばアルラウネさんが使ってたっけ。
型稽古が終わったら、相談してみようかな。
考えるのを止め、以降は集中してこなす。
「あの、もう少しだけ時間を割いてもらってもいいですか」
「別に構わないけど。どうかしたの?」
訓練を全て消化し終えた。
帰ろうとするアルラウネさんを呼び止め、相談してみることする。
「魔法への対処方法って分かりますか?」
「対処方法ねぇ……」
頬に手を添え、考えてくれている。
「そうねぇ……やっぱり、封じるか防ぐか避ける、ってぐらいじゃないかしら」
「具体的に教えてください」
「魔法を封じるのは上位精霊の力になるわね。防ぐのは……魔法か防具ってとこかしら。避けるのは、言葉どおりの意味よ」
うーん、参考にできそうなのはないかも。
「他には、魔力切れを狙うとかかしら」
「……どうも、ありがとうございました」
「参考にはならなかったみたいね。御免なさい」
「いえ、そんな」
「確か、魔装化なら魔力を吸収できるんじゃなかった?」
「鎧の上からだと、無理みたいなんです」
「そうなのね。都合よくはいかない、か。アタシも少し考えてみるわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
頭を下げる。
と、その上に手を乗せられ、撫でられた。
「もう、相変わらずね。もっと子供らしく振舞ってもいいのよ」
昔はこうじゃなかった。
そう、地上で暮らしていたころは。
此処に来て、周囲に同世代の子供はいなくて。
自然と今みたいになっちゃった。
「……早く、戦いなんて終わるといいのにね」
本日はあとSSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




