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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
188/230

125 無職の少年、全力で

「どうしたよ? えらく動きが悪かったみてぇだが」


「……済みません」



 戦闘訓練を終えると、待ってましたとばかりに団長さんが声を掛けてきた。


 どこか気まずそうに、聖女さんが応じる。



「その様子じゃ、自覚はあったみてぇだな」


「はい。済みません」


「そいつは何に対する謝罪だ。オレに対してか? それとも、真剣に立ち合えなかった少年に対してか?」


「えっと……」


「まさか、前回もこうだったのか?」



 視線がこちらへと向けられる。


 今度は僕が問われているみたいだ。



「いえ、そんなことはありませんでしたけど」


「そうかい」



 仰け反るようにして頭を掻きながら、再び聖女さんへと向き直る。



「どうにもらしくねぇな。この際だ、聞いてやるから全部話せ」


「……分かりました。実は──」



 訓練でやり過ぎてしまったこと、終盤に技を放った所為で、僕の力があわや暴走しかけたことなどを話し終える。



「なるほどな。んで、さっきの有様だったってわけかい」



 腕を組む団長さんに対し、肩を落とし俯いた姿勢の聖女さん。


 そのまま顔を上げようともしない。



「いいじゃねぇか。手加減などせず、全力で相手してやんな」


「なッ⁉ で、ですが!」


「オレが立ち会ってるのは何のためだ? 嬢ちゃんのやり過ぎも、少年の暴走とやらも、止めてやるよ」


「団長……」


「少年は命懸けの戦いに挑もうってんだろ。なら、今できるだけのことをしてやらねぇてどうする」


「そう……なんでしょうか」


「嬢ちゃんの剣速に対応できるようになりゃ、その分、行動にも思考にも余裕が生まれるだろうさ」


「……分かりました。明日までに気持ちを切り替えておきます」


「そうしてやれ」



 今度こそ聖女さんのそばから離れて、こちらに歩み寄ってきた。



「さてと、今度は少年の番だな。見たところ、暴走とやらを恐れてか、踏み込みに迷いがあったように見られた」


「……そうかもしれません」


「さっき嬢ちゃんにも言ったが、明日からは気にせずぶつかっていけ。でなけりゃ、折角の訓練も無駄になっちまうぜ」


「はい、気を付けます」


「……ま、嬢ちゃんよりかは迷いは少ねぇようだな。いつ聖都に攻め込むことになるかも知れねぇんだ。精々後悔しねぇようにするこった」



 言いたいことは言い終えたらしく、歩み去ってしまった。






「今日は運ばなくても大丈夫そうね」


「はい。このまま自主訓練を続けるつもりです」



 入れ替わるように、アルラウネさんが近づいてきた。



「何もないとは思うけど、そばで見守っててあげるわ」


「では、せめて座っていてください。家から椅子を持ってきます」



 ずっと立って見ているだけなのは辛そうに思える。



「そんなに気を回さなくても大丈夫よ。疲れたら勝手に楽な姿勢を取るから」


「あの!」


「あら? どうしたの?」


「ワタシも自主訓練に参加させてください」


「……って言ってるけど」


「やるのは身体作りと、型稽古なんですけど」


「では、素振りをしています」



 好きにしたらいいと思う。


 ……もしかして、何か手伝ってくれようとしてたのかな?


 だったら、悪いことしてしまったかも。



「あんまり無理しないようになさい。また抱っこされたくなかったらね」



 う、あれは恥ずかしいから遠慮したい。






 一通りの運動を終えたら、型稽古へと移る。


 双剣を使うようになって、動きは更に複雑化した。


 同時に動かしたり、少し時間差をつけたり。


 まだまだ技の出も遅い。


 反射的に出すのは無理そう。


 実物の短剣の重さにも慣れないとだし。


 特に白刃。


 具現化で再現できれば、戦闘をかなり有利に進められる。


 何せ、破損を厭わず使えるのだから。


 もっとも、金属すら切り裂くぐらいだし、そうそう壊れないかもだけど。


 後は、魔法への対策も考えないと。


 攻撃に防御に妨害にと、とにかく厄介だ。


 各魔法への対処方法の模索。


 ……なんて、あるんだろうか。


 僕には備わってない力。


 使えるのは……そう言えばアルラウネさんが使ってたっけ。


 型稽古が終わったら、相談してみようかな。


 考えるのを止め、以降は集中してこなす。






「あの、もう少しだけ時間を割いてもらってもいいですか」


「別に構わないけど。どうかしたの?」



 訓練を全て消化し終えた。


 帰ろうとするアルラウネさんを呼び止め、相談してみることする。



「魔法への対処方法って分かりますか?」


「対処方法ねぇ……」



 頬に手を添え、考えてくれている。



「そうねぇ……やっぱり、封じるか防ぐか避ける、ってぐらいじゃないかしら」


「具体的に教えてください」


「魔法を封じるのは上位精霊の力になるわね。防ぐのは……魔法か防具ってとこかしら。避けるのは、言葉どおりの意味よ」



 うーん、参考にできそうなのはないかも。



「他には、魔力切れを狙うとかかしら」


「……どうも、ありがとうございました」


「参考にはならなかったみたいね。御免なさい」


「いえ、そんな」


「確か、魔装化まそうかなら魔力を吸収できるんじゃなかった?」


「鎧の上からだと、無理みたいなんです」


「そうなのね。都合よくはいかない、か。アタシも少し考えてみるわ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」



 頭を下げる。


 と、その上に手を乗せられ、撫でられた。



「もう、相変わらずね。もっと子供らしく振舞ってもいいのよ」



 昔はこうじゃなかった。


 そう、地上で暮らしていたころは。


 此処に来て、周囲に同世代の子供はいなくて。


 自然と今みたいになっちゃった。



「……早く、戦いなんて終わるといいのにね」






本日はあとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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