123 無職の少年、団長との訓練②
技にて応じる。
≪錯刃≫
短剣を交差させ、真正面からの横薙ぎの斬撃を受ける。
が、抵抗など感じないとばかりに、押し返されてしまう。
昨日の訓練では、屈んで避けたら蹴られてしまったばかり。
脚も警戒したほうがいい。
加えられる力と同じ方向へと、弾かれるようにして跳び退く。
「ほぅ、身軽なもんだ。オッサンには羨ましい限りだぜ」
またすぐ距離を詰めてくる。
単に歩いてるだけに見えるのに、どうしてだか距離を空けられない。
再び見舞われる横薙ぎの斬撃。
≪逆風 -双-≫
剣の腹を下側から全力で斬り上げる。
ぐくぅッ、重い……けど!
仰け反るように剣の下を何とか潜り、相手の横を抜ける。
「同じ受け方をしねぇのはいい判断だ。ま、あえて同じ受け方をして、相手の動きを誘うってのもアリだがな」
どうしたものか。
一撃が重た過ぎる。
とてもじゃないけど、片手で捌ける威力じゃない。
剣戟を挑むのは厳しい。
白刃を使えば、剣を切断してしまえるんだろうけど。
訓練で使うのは躊躇われる。
グノーシスさんとは違って、武器の替えが効くわけじゃないんだし。
今すべきことは何だろうか。
この訓練の意味するところは、そう。
騎士の剣術に慣れること。
よく見て、対処方法を探らないと。
三度目の横薙ぎの斬撃。
反射的に構えを取る。
と、剣の動きが途中で変わった。
見覚えのある足捌き。
軸足で回転。
──突きが来る!
身構えてしまったのを、無理矢理に動かす。
とにかく距離を取らないと。
半身になって横跳びする。
繰り出されたのは、予想違わず刺突。
盾代わりに構えた短剣を犠牲にして、どうにか逃れる。
威力こそ恐ろしいが、速度は聖女さんほどではないのか。
「上出来だ。ちゃんと見えてるみてぇだな。んじゃ、織り交ぜていくぜ」
そんな宣言と共に、戦闘は続く。
何回凌いだのか。
魔装化が解けると共に、訓練は終了となった。
「こんだけやりゃあ、理解できたんじゃねぇか?」
肩で息をする僕とは違って、疲れた様子も見せずに歩み寄ってくる。
「例えるならオレは剛の剣、嬢ちゃんのは柔の剣。少年が倒したがってる相手も柔の剣だ。明日っからは嬢ちゃんと頑張るこった」
ポンポンと頭を叩かれ、そのまま歩み去って行く。
息を整えて、その背に声をかける。
「今日はありがとうございました」
「おう」
足を止めず、振り返りもせず。
ただ手を軽く振ってくれた。
オーガ兄があの人を一撃で倒したとか言ってたけど、本当なんだろうか。
僕じゃ敵いそうにない。
「お疲れ、ボウヤ」
「お疲れ様でした」
ずっとそばで見守ってくれていたアルラウネさんと聖女さんが、近付いて来て声をかけてきた。
「どうも。立ち会ってくださり、ありがとうございました」
「そんなこと気にしなくていいのよ。ほら、家まで運んであげるから、ゆっくりと休みなさいな」
「いえ。もう少し休めば動けますから」
「遠慮なんかしないの」
言い分は聞いてもらえないみたいだ。
ヒョイと抱え上げられてしまう。
「アナタはブラックドッグをお願い」
「は、はい! 分かりました」
おっかなびっくりといった様子で、身を伏せるブラックドッグを抱き上げようとしている。
「きゃッ⁉ 凄く軽いんですが、大丈夫でしょうか⁉」
「霧化できるからか、重さはあって無いようなものよ、その子」
「そ、そうだったんですね。何かマズい状態なのかと慌ててしまいました」
うむ、ブラックドッグはフワフワでフカフカなのです。
「それにしても、流石は団長。一度も攻撃を当てられず、また当てもしないなんて。もちろん、キミの頑張りは認めるところでもありますが」
そっか、夢中で気が付かなかったけど、確かにそうかも。
一度も攻撃を受けた覚えがない。
そして、一度も攻撃を当てた覚えもない。
聖女さんのときは、何度も攻撃を受けたけど、結局当てられはしなかった。
「団長が守りに徹したとき、何人も突破できないと云われていますからね」
「そうなの? でも、オーガが倒したんじゃなかったかしら」
「あれは……ワタシの所為なんです。そうでなければ、敗北したりはしません」
「悪いことを聞いちゃったかしら。御免なさいね」
「い、いえ。ワタシのほうこそ、変なことを言ってしまい申し訳ありません」
「っと、また謝り続けるのは止してね」
「はい、気を付けます」
そんな会話を続けながら、家に入り、二階のベッドへと横たえられた。
「あのぉ、この子はどちらに寝かせればいいでしょうか」
「居間にある長椅子でいいわ」
「分かりました」
まさかとは思うけど、訓練が終わる度に、こうして運ばれるんだろうか。
今回は間違いなく怪我を負ってもないのに。
「ええっと、そんなに心配しなくても大丈夫ですから。グノーシスさんの所では、毎回倒れるまでやってましたし」
「それはまた、随分な環境だったのね。以前見た印象からは、もっと理性的に感じたのだけど」
「グノーシスさんのことですか?」
「ええ。違うのかしら?」
「違うってことはないと思いますけど……表現として適当かと言われると、疑問は残りますかね」
「……よっぽどな目に遭ったみたいね」
「そんなことはありませんよ?」
「どうして疑問形なのかしらね」
まぁ、確かに楽ではなかった。
毎日、毎回、大変だった。
でも、僕は知ってる。
姉さんと同じ、優しい顔をするってことを。
本日は本編125話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




