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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
186/230

123 無職の少年、団長との訓練②

 技にて応じる。



錯刃さくじん



 短剣を交差させ、真正面からの横薙ぎの斬撃を受ける。


 が、抵抗など感じないとばかりに、押し返されてしまう。


 昨日の訓練では、屈んで避けたら蹴られてしまったばかり。


 脚も警戒したほうがいい。


 加えられる力と同じ方向へと、弾かれるようにして跳び退く。



「ほぅ、身軽なもんだ。オッサンには羨ましい限りだぜ」



 またすぐ距離を詰めてくる。


 単に歩いてるだけに見えるのに、どうしてだか距離を空けられない。


 再び見舞われる横薙ぎの斬撃。



逆風さかかぜ -そう-≫



 剣の腹を下側から全力で斬り上げる。


 ぐくぅッ、重い……けど!


 仰け反るように剣の下を何とか潜り、相手の横を抜ける。



「同じ受け方をしねぇのはいい判断だ。ま、あえて同じ受け方をして、相手の動きを誘うってのもアリだがな」



 どうしたものか。


 一撃が重た過ぎる。


 とてもじゃないけど、片手で捌ける威力じゃない。


 剣戟を挑むのは厳しい。


 白刃を使えば、剣を切断してしまえるんだろうけど。


 訓練で使うのは躊躇われる。


 グノーシスさんとは違って、武器の替えが効くわけじゃないんだし。


 今すべきことは何だろうか。


 この訓練の意味するところは、そう。


 騎士の剣術に慣れること。


 よく見て、対処方法を探らないと。


 三度目の横薙ぎの斬撃。


 反射的に構えを取る。


 と、剣の動きが途中で変わった。


 見覚えのある足捌き。


 軸足で回転。


 ──突きが来る!


 身構えてしまったのを、無理矢理に動かす。


 とにかく距離を取らないと。


 半身になって横跳びする。


 繰り出されたのは、予想違わず刺突。


 盾代わりに構えた短剣を犠牲にして、どうにか逃れる。


 威力こそ恐ろしいが、速度は聖女さんほどではないのか。



「上出来だ。ちゃんと見えてるみてぇだな。んじゃ、織り交ぜていくぜ」



 そんな宣言と共に、戦闘は続く。






 何回凌いだのか。


 魔装化まそうかが解けると共に、訓練は終了となった。



「こんだけやりゃあ、理解できたんじゃねぇか?」



 肩で息をする僕とは違って、疲れた様子も見せずに歩み寄ってくる。



「例えるならオレは剛の剣、嬢ちゃんのは柔の剣。少年が倒したがってる相手も柔の剣だ。明日っからは嬢ちゃんと頑張るこった」



 ポンポンと頭を叩かれ、そのまま歩み去って行く。


 息を整えて、その背に声をかける。



「今日はありがとうございました」


「おう」



 足を止めず、振り返りもせず。


 ただ手を軽く振ってくれた。


 オーガ兄があの人を一撃で倒したとか言ってたけど、本当なんだろうか。


 僕じゃ敵いそうにない。



「お疲れ、ボウヤ」


「お疲れ様でした」



 ずっとそばで見守ってくれていたアルラウネさんと聖女さんが、近付いて来て声をかけてきた。



「どうも。立ち会ってくださり、ありがとうございました」


「そんなこと気にしなくていいのよ。ほら、家まで運んであげるから、ゆっくりと休みなさいな」


「いえ。もう少し休めば動けますから」


「遠慮なんかしないの」



 言い分は聞いてもらえないみたいだ。


 ヒョイと抱え上げられてしまう。



「アナタはブラックドッグをお願い」


「は、はい! 分かりました」



 おっかなびっくりといった様子で、身を伏せるブラックドッグを抱き上げようとしている。



「きゃッ⁉ 凄く軽いんですが、大丈夫でしょうか⁉」


「霧化できるからか、重さはあって無いようなものよ、その子」


「そ、そうだったんですね。何かマズい状態なのかと慌ててしまいました」



 うむ、ブラックドッグはフワフワでフカフカなのです。



「それにしても、流石は団長。一度も攻撃を当てられず、また当てもしないなんて。もちろん、キミの頑張りは認めるところでもありますが」



 そっか、夢中で気が付かなかったけど、確かにそうかも。


 一度も攻撃を受けた覚えがない。


 そして、一度も攻撃を当てた覚えもない。


 聖女さんのときは、何度も攻撃を受けたけど、結局当てられはしなかった。



「団長が守りに徹したとき、何人も突破できないと云われていますからね」


「そうなの? でも、オーガが倒したんじゃなかったかしら」


「あれは……ワタシの所為なんです。そうでなければ、敗北したりはしません」


「悪いことを聞いちゃったかしら。御免なさいね」


「い、いえ。ワタシのほうこそ、変なことを言ってしまい申し訳ありません」


「っと、また謝り続けるのは止してね」


「はい、気を付けます」



 そんな会話を続けながら、家に入り、二階のベッドへと横たえられた。



「あのぉ、この子はどちらに寝かせればいいでしょうか」


「居間にある長椅子でいいわ」


「分かりました」



 まさかとは思うけど、訓練が終わる度に、こうして運ばれるんだろうか。


 今回は間違いなく怪我を負ってもないのに。



「ええっと、そんなに心配しなくても大丈夫ですから。グノーシスさんの所では、毎回倒れるまでやってましたし」


「それはまた、随分な環境だったのね。以前見た印象からは、もっと理性的に感じたのだけど」


「グノーシスさんのことですか?」


「ええ。違うのかしら?」


「違うってことはないと思いますけど……表現として適当かと言われると、疑問は残りますかね」


「……よっぽどな目に遭ったみたいね」


「そんなことはありませんよ?」


「どうして疑問形なのかしらね」



 まぁ、確かに楽ではなかった。


 毎日、毎回、大変だった。


 でも、僕は知ってる。


 姉さんと同じ、優しい顔をするってことを。






本日は本編125話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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