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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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122 無職の少年、団長との訓練①

「さて少年、準備は済んでるかい?」


「はい。本日はよろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼むぜ。しっかし、随分としっかりした子だな」



 食事やら掃除やらを済ませ、団長さんと対峙している。


 以前見た丸い鎧じゃなく、聖女さんと同じ銀色の鎧を着込んで。


 昨日話していたとおりに、立ち会いとしてアルラウネさんに加えて、聖女さんの姿もあった。



「事情は軽くだが、嬢ちゃんから聞かせてもらった。でだ、オレが思うに、嬢ちゃんのほうが訓練相手としては適任だと思うぜ」


「「え?」」



 僕と同じく、聖女さんも声を発した。


 どうやら、事前に知っていた話ではないようだ。



「ど、どういうことでしょうか、団長」


「おいおい、嬢ちゃんが動揺しててどうするよ。ま、理由はそう大したことじゃねぇさ。単純にオレよりも剣の技量が上ってこった」


「そんなことは……」


「アイツと比べても、嬢ちゃんのほうが剣の力量も上だろう。なら、嬢ちゃんの剣に慣れたほうが為になるってもんだろ。違うかい?」


「ですが、ワタシでは加減を誤って──」


「実戦形式の訓練なんだ、下手打ちゃ命すら危ういだろうな。同じてつは踏まず、上手い方法を模索すりゃあいい」



 ええっとつまり……どういうこと?


 今日も聖女さんと訓練しろってことだろうか。


 僕なんかよりも随分と動揺して見えるけど、大丈夫なのかな。



「そんな不安そうな顔すんな。何も見放しゃしねぇよ。明日っからは嬢ちゃんが相手をして、オレがその場に立ち会ってやる」



 んんん?


 じゃあ、今日は団長さんと訓練するってことでいいのかな。


 もう、よく分かんなくなってきちゃったよ。



「っと、わりぃな少年。話なら後ですりゃよかったな」


「いえ。あの、結局どうすればいいんでしょうか?」


「混乱させちまったかい? なぁーに、今日はオレと訓練、明日っからはまた嬢ちゃんと訓練ってだけの話さ」



 チラリと聖女さんの様子を窺ってみるが、とても納得してる風ではない。



「今日に関しちゃ予定の変更はねぇ。相応しい相手はオレじゃねぇってことは、すぐに理解できるはずだぜ」


「そ、そうですか。とにかくよろしくお願いします」


「ハハハ。挨拶は二度も要らねぇさ」



 お喋りはここまで。


 そう言外に主張するように、気配が変わる。


 空気がピリピリする感じ。


 さっきは、聖女さんより弱いみたいなことを言っていたのに。


 威圧感だけでも、間違いなく聖女さんより上に思える。



「そろそろ始めようかい」



 このままだと、何もできずにやられる。


 そんな確信めいた予感がある。



魔装化まそうか



 纏うは黒い鎧。


 予感に逆らわず動く。


 とにかく移動を。


 利き手の逆を取りたくなるが、聖女さんの例もある。


 剣は両方の手で扱えると想定すべき。


 不用意な接近は禁物。


 最短距離ではなく、斜めに距離を詰める。


 接近すると、よりハッキリとしてくる。


 大きい。


 今まで戦った、どの相手よりも。


 巨人のような魔物もいると聞くが、この人よりも大きいのだろうか。


 いや、もっと大きい存在を知っている。


 巨大化したブラックドッグや、ドラゴンがそうだったじゃないか。


 それらよりもなお大きい、世界樹とだって戦った。


 大きさなんかに気圧されていては駄目だ。


 低く速く、駆ける。


 剣の間合いのギリギリ外側を回る。


 狙うは背後。


 動きは見られない。


 直立不動。


 ただ威圧感を放っているのみ。


 カウンターを狙われている?


 待ち構えている相手に、不意打ちも何もありはしない。


 遂に背が見えた。


 このまま攻撃するのか。


 それとも相手の動きがあるまで、移動し続けるべきか。


 判断に迷う。



「どうした? 走り回ってるだけじゃ、訓練にならねぇぜ? 敵に跳び込む勇気ってのを、見せて欲しいもんだ」



 勇気?


 そんなこと、今まで習わなかった。


 勇気がないと、敵を倒せないの?


 そうなのかな。


 よく分からない。


 そのまま背後を通り過ぎ、再び正面へ回り込もうと駆ける。



「そいつが答えってわけかい」



 狙うは背後。


 それは変わらない。


 兜越しに、視線がこちらを捉えたのを感じる。


 ──今だ!


 影のように這わせた黒色のつたで背後を強襲する。



「おっと、何だこりゃあ? こんな芸当もできるのかい」



 攻撃は届かなかった。


 姿勢は変わらず、なのにいつの間にか剣を持っている。


 まさに一瞬の出来事。


 抜剣の瞬間すら視認できず、迎撃されてしまったらしい。



「いい判断だったな。言うことを聞いて、ほいほい跳び込んできてたら、即終了だったぜ」



 迎撃されたのは、間合いに入った瞬間。


 視線は逸らされていない。


 死角からの攻撃に即応してみせたのだ。


 つまりは、今の言葉どおり、間合いに入ってたら斬られていたわけか。



「相手の手の内が分からねぇのに、突っ込むのはマズいってわけだ」



 威圧感が消える。


 剣を持ったまま、プラプラと手足の柔軟運動をし始めた。



「慎重なのはいいこった。今後も敵の言葉には惑わされんようにな。そんじゃ、次は技量を見せてもらおうかね」



 軽い口調に軽い足取り。


 駆け回るこちらへと、どんどんと距離が埋められてゆく。


 相手は走ってすらいないのに、


 どういう理屈なのか不明過ぎる。



「構えな。いくぜ」



 反射的に短剣を具現化。


 眼前のすぐそばまで、剣が迫って来ていた。






本日は本編125話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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