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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
184/230

121 無職の少年、次なる相手

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 久々に世界樹へと帰って来た主人公

 勇者との対決に向け、騎士の剣術に対抗するため、聖女さんとの訓練に臨む

 が、聖女の技を受け、魔装化で暴走しかけてしまうのだった

 帰宅した姉さんが事の顛末を知るや否や、すぐさましがみついてきた。



「怪我は⁉ どこも痛くない⁉」


「心配しなくても大丈夫ですから。無事ですよ」


「心配しないわけないでしょ!」



 両頬を掴まれ、強い口調で告げられる。


 そのまま力強く抱きしめられた。


 鎧が当たって痛い。



「ご恩を仇で返すような真似をしてしまい、申し訳ありません」



 聖女さんからの謝罪。


 今日だけで、どれほど聞かされたか知れない。



「恩義云々は置いておくにしても、確かに残念に思うわ」


「……済みません」


「だけど、任せたアタシの判断にだって問題があったわ。アナタだけが悪いわけじゃないわよ」


「そんなことはありません!」


「責任はどっちにもあるってことで、この話題は終わりにしましょ」


「ですが!」


「謝り癖なのか自虐癖なのか分からないけど、治したほうがいいわよ」


「うッ」



 聖女さんが身を縮こませてしまった。



「あの、姉さん、そろそろ放して欲しいんですが」


「お姉ちゃんの抱擁が嫌ってこと?」


「いえあの、鎧が当たって痛いです」


「おっと、警備帰りなのを忘れてたわ。御免ね。道理で弟君の感触がいまいちだったわけね」



 ようやく解放された。


 普通の服装だとしても、体勢によっては苦しいから苦手なんだけどね。



「それ以降、体調に異変はないのね?」


「はい。問題ありません」


「以前は寝込んでたし、そういう意味では逞しくなったってことなのかしら」


「正確には、暴走寸前でアルラウネさんが止めてくれたんです」


「そうだったのね。頼んでおいて正解だったわ」



 っと、話題を変えないと、聖女さんが落ち込んだままだ。



「明日の訓練の相手は、団長さんにお願いしようかと思うんですが」


「あら、もうお役御免にしちゃうの?」


「ワタシが提案したんです」


「そうなの?」


「長年団長を務められていますし、騎士の調練に関しても、ワタシよりも余程に精通しておいでです」


「それはまぁ、そうかもしれないけどね。一度の失敗で全部丸投げしちゃうってのも、どうなのかしら」



 聖女さんが再び押し黙る。


 苦しげな表情を浮かべてもいる。


 口を挟もうと思ったが、それより先に姉さんが話し始めた。



「騎士は二人しかいないんだし、両方と戦ってみるのは悪くないでしょうね。明日は聖女も立ち会いなさいな」


「え? それはどういう……」


「自分の行動だけ振り返ってても、改善すべき点は見出せないんじゃない? なら、相応しいと推した相手の動きから学んでみたら?」


「はぁ……いえしかし、それでは警備の欠員が増えてしまいますよね」


「こっちはどうにかするわよ。明日は弟君を助けてあげて。ね?」


「……分かりました。必ずや役目を全うしてみせます」


「ま、アルラウネにも来てもらうから」


「はい」



 明日の予定は決まったらしい。



「では、団長にはワタシがお伝えしてきます」



 言うが早いか、聖女さんが玄関の扉へと駆けてゆく。


 そのまま夕闇の中へと姿が消えていった。



「別に伝えるのは明日でも……って、聞いてないわね。せめて扉は閉めていって欲しかったわ」



 呆れたように言いつつ、扉を閉める。



「じゃ、お風呂を済ませちゃいましょうか」


「お腹は減ってないですか?」


「平気よ。敵襲もなかったしね」


「そうですか」


「さ、お風呂に行きましょ」


「うわわ、押さないでください」


「急いだ急いだ。彼女に弟君の裸は見せられないもの」



 どういう意味なの⁉


 背を押され、お風呂場へと連行される。


 その後ろをブラックドッグも付いて来る。






「ふむふむ、怪我は無いみたいね」


「だから、そう言ったじゃないですか」


「自分じゃ見えない箇所もあるでしょ。弟君の管理はお姉ちゃんの責務よ」



 なにそれ怖い。



「で、今日戦ってみた感想は?」


「ええっと、そうですね……」



 湯に浸かりながら、今日の出来事を思い返してみる。



「剣でも強かったです。槍を持った状態では戦ったことはないですけど」


「突きが凄かったんじゃない?」


「それもそうですけど、斬撃も上手く弾けませんでした」


「力も体格も相手のほうが上回ってるわけだしね。そこに技量も加われば、対処も難しいでしょう」


「足捌き、なんですかね。いなされたり、避けられたりして戦い辛かったです」


「ふむふむ、相手の動きは見れてた感じかしら」



 そして何より強烈だったのが、最後の技。


 剣が複数に見えるほどの、高速の連続刺突。



「最後は刺突技を使われて、避けることも捌くこともできなくなって……」


「普段、より重たい槍を扱ってる分、剣だと速度も上がるんでしょうね」


「……無数に迫る剣が、あの日の光景と重なっちゃて。それで」


「そういうことだったのね。また、そばには居てあげられなかったのね。御免ね、御免なさい」



 湯を掻き分け、姉さんに抱きしめられる。



「姉さんは悪くなんてありません。もちろん、聖女さんだってそうです」


「本当なら戦わせたくない。お姉ちゃんが全部から守ってあげたいのに。全然できてないわ」


「姉さんは守ってくれてます。助けてくれてます」


「ううん。もう何度も危険な目に遭わせちゃってるわ」



 姉さんは分かってない。


 僕がどれだけ、姉さんに救われているかを。


 独りじゃきっと、耐え切れなかった。


 孤独にも、悲しみにも、そして身を焼くほどの怒りにも。


 だから、姉さんの助けになりたい。


 恩返しがしたい。


 まだまだ弱い僕だけど。


 返しきれない恩があるけど。


 いつか、姉さんの抱える悲しみを払ってあげたい。






本日は本編125話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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