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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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SS-53 賢者の新しい友達

 あれから半年ほどが経過したか。


 度々、こうして招かれている。


 生憎と社交的ではないし、軽妙な会話も得意とするところではない。


 自分の何がそんなに気に入られたのか。


 判然とせぬままに、今日も今日とて魔王のお茶会にお邪魔している次第。






「フゥ。同じ茶葉ですのに、育てる場所が違うだけで、こうも味が変わってしまうのは不思議ですわ」


「疑問。詳細の提示を希望」


「あら、ご興味がおありでして?」


「肯定。違う場所とは、この世界と魔界という認識で相違ないだろうか」


「ええ、間違っておりませんわ」



 魔王の住処たるダンジョンを抜けた先。


 雪を頂く高い山々に囲われた、開けた空間。


 黒竜が居たり、様々な魔物が居たり。


 凡そ普通に考えて、中々に心安らぐ空間足り得ないのだが。


 薄暗いダンジョン内に辟易しているらしい魔王の意向により、こうして屋外に机と椅子が用意され、お茶会が催されている。


 寒冷地なので、寒さ対策は当然講じている。



「マスター、寒くないデス?」


「平気。流石はごーれむちゃん。温かい」


「エヘヘヘヘ、それほどでもぉ、デス」



 護衛、兼、暖房。


 土属性の核に加えて、水火風の核を搭載した改良型ごーれむちゃん。


 未だ同時起動はできないものの、状況に応じて核を交代可能。


 体型は、よりスリムに。


 人と遜色ないまでに縮小化し、その分、強度と俊敏性を向上。


 両親お手製の、各種耐性が付与されたフリフリ衣装を装備。


 と、強化というより進化したのである。


 現在は火属性の核を起動させ、周囲を適温まで上昇させている。


 その温かい空気に誘われてか、小型の魔物が集まって来てもいるわけだが。



「最初拝見した時は驚かされもしましたけれど、見慣れてくると愛らしく感じられるものですわね」


「指摘。ごーれむちゃんは最初から可愛い」


「あら、これは失礼なことを申しましたわ。そうですわね。最初からお可愛らしいですわ」


「あわわわわ、そんなに褒められると、熱の制御が不安定になるデス」



 ごーれむちゃんの様子を見て、魔王と共に笑みを零す。


 この魔王、かなり緩い。


 善良に過ぎる。


 そのように振舞っているわけではなく、根っからそうなのだろう。


 魔王の力が如何ばかりかは測りかねるが、どうにも配下たちの力にこそ振り回されているように見受けられる。


 察するに、精霊について調べていたのも、配下を抑え込むための協力を欲してのことなのだろう。


 集団を統べる立場というのも中々に大変らしい。


 配下が暴走しないよう、苦心している姿を見てしまうと、手助けしたくもなる。


 そんなところも、親しみ易い要因なのかもしれない。



「お友達が増えて嬉しいですわ」


「同意。奇縁ではあったが、知り合えてよかった」


「まあ! 嬉しいことを仰ってくださいますわね」


「ごーれむちゃんも、仲良くしてくれて嬉しいデス」


「アナタもお友達ですもの、当然ですわ」



 いやホント、ええ子やで。






 足下まで寄って来た兎に似た魔物、アルミラージを抱き上げてやる。


 金色の毛並みが、どこか高貴さを感じさせる子だ。



「不思議ですわ。人族は魔物や魔族を恐れるものとばかり思っておりましたのに」


「説明。魔法協会には魔族も多く住んでいる。加えて、ワタシのスキルも関係している」


「スキルがですの? お尋ねしてもよろしくて?」


「結構。【意思疎通 (全)】を保有している。だから魔物とも会話可能」


「そうなんですのね。口語を解さない魔族と同じような能力なのかしら」


「自慢。とは言え、ただの遺伝。ワタシの才能というわけではない」



 初代勇者。


 その平和への願いの残滓。


 伝え知る身として、魔物や魔族と争おうとは思えない。


 と、モフモフが足元に群がって来ていた。


 キュウキュウ鳴いて、抱き上げろと訴えてくる。


 膝に乗せるのも限界があるし、仕方なく椅子から降りて、地面に腰を下ろす。


 モフモフが押し寄せる。


 うはッ、幸せぇ~。



「地面に座り込んでは、お召し物が汚れてしまいましてよ」


「マスターは、寂しがり屋の癖に人見知りなのデス。洗濯よりも、群がられている今の状況を望んでいると思いますデス」


「そ、そうなのですか。随分とお寂しい環境で過ごされていたのですね……おいたわしや」



 何故だか憐れまれた。


 ワタシは決して可哀想な子ではない。


 家族はもちろん、友達だっている。


 うん、大丈夫。


 世界樹の集落では、スライムやコロポックルは少年にばかり懐いている。


 しかぁーし!


 この場に於いて、好感度を独占しているのはワタシ。


 今後は、お茶会改め、モフモフ会と改名したほうがいいかもしれない。



「とても幸せそうな表情をなさってますわ。それほどまでに、他のモノとの触れ合いをお望みでしたのね」


「マスターが幸せそうで、ごーれむちゃんも嬉しいデス」


「麗しい友情ですわね!」



 ああ、もしも叶うなら、何体かお持ち帰りしたい。


 いや待て、ワタシ。


 次なるゴーレムの構想はコレではなかろうか。


 モフモフ。


 ひたすらに可愛らしい存在を創造せしめるのだ。


 ウへ、ウへへへへ。



「ど、どうしたのでしょう⁉ お顔があんなに崩れてしまっていますわ!」


「きっと、マスターの悪癖が発症してるデス。孤独は妄想を鍛える、デス」






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

打倒勇者に向け、訓練は続く。

剣術に魔法と、対処すべき事柄は多い……。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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