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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
181/230

119 無職の少年、聖女との訓練②

 横薙ぎの斬撃を、反射的にしゃがんで躱す。



「見事、と言いたいところだが、避けるのが速過ぎだ」



 しゃがんだ先では、蹴りが見舞われる。


 回し蹴り。


 咄嗟に短剣の刃を立てて、受け止めようとする。


 が、無理矢理に堪えて、腕で防御するに留める。


 直撃。


 蹴りの勢いに逆らわず、むしろその勢いを利用して転がりながら距離を取る。



「目が良いのか。ただ、反応が速過ぎる。引き付けて対応せぬから、今みたく次の攻撃の餌食となる」



 いつの間にか、男口調になってる。


 戦闘だと切り替わるんだろうか。


 視線は外さず。


 素早く立ち上がり、短剣を構える。



「しかも、途中で手を緩めたな。相手を気遣う余裕まであるとは驚きだ」



 声色には怒気すら混じって聞こえる。


 さっきは、もし白刃だったらと一瞬考えてしまった。


 彼我の距離は数歩分。


 ならば、詰められるのは一瞬。


 えっと確か、脚を使えって言われてたっけ。


 回り込むなら、武器を持っていない相手の左側。


 相手が動くよりも先に駆け出す。


 迎え撃つ斬撃。



「なッ⁉」



 それも、相手の左側から放たれた。


 武器を持ち替えた⁉


 進行方向から見舞われた攻撃に、勢いが乗ったまま突っ込んでゆく。



錯刃さくじん



 双剣を交差させ、応じる。


 ガキーン。


 硬質な金属音が響く。


 砕かれはしなかったものの、剣を弾けない。


 こっちは両腕なのに対し、相手は片腕のみ。


 力ですら劣っているのか。


 足も止められ、膠着状態。



「やはり軽いな」



 いや違う。


 徐々に後ろへと、身体が押し返されている。


 力比べしても無意味だ。


 他の方法を考えないと。


 相手が先んじる。


 唐突に双剣から伝わる抵抗が消え失せた。


 身体が前方へと流れてゆく。


 まただ。


 軸足による回転。


 それで剣を引かれたらしい。


 構えが変わる。


 刺突。


 倒れ込む寸前の体勢じゃ、避けようがない。


 なら、別の力で動くまで。


 魔装化まそうか解除。


 以心伝心。


 即座に実体化したブラックドッグに咥えられ、その場を離脱する。






 十分な距離を取り、相対す。


 まだ、魔装化まそうかは使わない。



「二身一体、とでも称するべきか。便利に使うものだ」



 魔力は有限。


 魔装化まそうかも具現化も、使うのも維持するのにも魔力を消費する。


 乱用は控えないと。


 相手の攻撃は斬撃か刺突の二種。


 軸足での回転や、左右で剣を持ち替えたりもする。


 後は、蹴りとかもあったか。


 普通に攻撃すれば斬撃か刺突、しゃがめば蹴り。


 武器を持ち替える隙はあるかもだけど、回り込むより相手のほうが速い。


 背後を取れればいいんだろうが。


 軸足で回転して対応されそうでもある。



「まだ数合も打ち合っていない。手を止めるには早過ぎると思うが?」



 そうなんだよね。


 まだ碌に剣戟を行えてもいない。


 こっちが攻撃を逸らすと言うよりかは、相手のほうがそうしてる気がするぐらいだし。


 考えるにしろ、もっと打ち合ってみないと駄目かも。



魔装化まそうか



 双剣を握り締め、再び挑みかかる。






 接近戦を繰り広げる。


 力で応じては駄目だ。


 上手くいなされてしまう。


 剣に沿わせて、軌道を逸らすだけ。


 けど、力を抜き過ぎれば、容易く押し返されてしまう。


 グノーシスさんとは無かった駆け引き。


 当たり前のことだけど、相手が違えば戦い方も違うんだ。


 中々剣戟が続かない。


 どうしてなんだろう。


 相手の攻撃に合わせて双剣を振るっている。


 動きをよく観察してみる。


 攻撃は足運びに合わせて行われている。


 そして、攻撃がいなされる時も同様だ。


 足運び。


 一つ所に留まらず、常に位置や体勢を変えている感じなのか。


 厄介なのは、時折放たれる刺突。


 斬撃とは速さが段違い。


 加えて、反応が遅れれば、双剣でも逸らしきれないほどの威力。


 槍を使っているぐらいだし、刺突が得意なんだろう。


 ギリギリ対処できるのは、直前の溜め動作があるからか。



「よく避ける。そろそろ目が慣れてきた頃合いか」



 体勢が今までと変わる。


 半身。


 剣を前に、身体が一直線上に揃えられた。


 何か仕掛けてくるのは明らか。


 距離を取るべき。


 相手の武器は剣なのだから、それが正しい判断だろう。


 けど、この訓練の目的は、騎士の剣術に対応できるようになることのはず。


 どんな攻撃が繰り出されるにしろ、全て捌いてやればいいだけ。



「応じるつもりか。ならば、以降は一切(まばた)きせぬことだ」



 腰が浅く下げられる。


 後ろの腕が、弧を描く形で停止した。


 ──来る!



襲霖しゅうりん



 繰り出されたのは刺突。


 双剣で応じる。


 速度も威力も、先程より大したこと──。



「え」



 思わず声が漏れた。


 剣が一本じゃない⁉


 同時に三本。


 これ、何か技を使われてる?


 僅かの余裕も消え失せた。


 とにかく、全力で双剣を揮う。


 違う。


 弱いのは威力だけ。


 速度は段違いに速くなってるんだ。


 錯覚で剣が複数に見えるほどに。


 高速の刺突による連撃。


 正面で相手しちゃ駄目だ。


 横に避けないと。


 けど──。


 増えた剣がそれをさせない。


 今見えるのは五本。


 こっちは二本なのに、全然足りやしない。


 これが技。


 未だ届かぬ境地。


 速度に対応できない。


 刺突が鎧を削り始める。



「うわああああァーーーーー‼」



 覚えた恐怖に抗うように叫ぶ。


 腕が重い──無視する。


 息が苦しい──無視する。


 目が乾く──無視する。


 動く動く動く。


 一瞬の後、串刺しになるという絶望的な予感がある。


 無視する。


 焼けるように熱いのか。


 凍えるように寒いのか。


 無視する。


 勇者を倒せぬまま死ぬ。


 ズキン。


 頭が痛む。


 無視──はできない。


 許容できない。


 赤い記憶。


 覚えてる。


 忘れるはずない。


 忘れられるはずなんてない。


 他事に気を取られて、さらに鎧を削られる。


 この攻撃、まるで槍で襲われたあの時みたいだ。


 ズギン!


 強烈な頭痛。


 動きが鈍る。


 当然のように鎧が削られる。


 蘇る。


 赤い光景が。


 ああ。


 ああ。


 お父さん……お母さん……。


 バクンバクン。


 心臓はもう、今にもはち切れんばかり。


 絶対に、赦せない。


 赦さない。



「AHHHHHHHーーー‼」



 赤く染まる。


 自分も世界も何もかもが。



「そこまでよ! ボウヤ、止めなさい!」



 伸びて来たつたが身体を覆っていく。


 動けない。


 ああ、悔しい、悔しいなぁ。


 後もう少しだったのに。


 熱が遠退いてゆく。






本日は本編120話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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