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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
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117 無職の少年、洗濯も槍も一緒

 食事の後、まずは姉さんが出掛けるのを見送った。


 後片付けを終え、次に洗濯──は僕がやるとマズいんだっけか。


 じゃあ、掃除を済ませてしまおう。


 気になるのは隅のほうだけだし、そう時間も掛からないだろう。



「あのぉ、ワタシも何かお手伝いを」


「えっと……では、洗濯をお願いしてもいいですか? 僕がやるのを姉さんが嫌がってまして」


「それについてはワタシも同感です。男の子にさせるのは抵抗があります」



 いやまぁ、姉さんが嫌がってたのは、聖女さんの物を洗濯することみたいなんだけどね。


 聖女さんの洗濯だとアレだから、任せるのは微妙ではある。


 本当なら、姉さんにお願いするほうがいいんだろうけど、生憎ともう出掛けちゃったし。


 今回は任せるしかないかな。



「分かりました。頑張ってみます」


「お、お願いします」



 廊下の奥、風呂場へと歩いて行く後ろ姿を見送る。


 洗濯の何に頑張る要素があるのかは不明だけど。


 ……いや、人並みにできないことの苦しみを、僕はよく知っている。


 僕ができるからって、不得意な人だっているんだよね。


 なら、してあげられることは何だろうか。


 自分がされて嫌なことを、相手にするのは間違ってる。


 えぇっと……不必要な励ましや助言、かな。


 不必要っていうが厄介なんだよね。


 誰からも励ましたり、助言してもらえないのは辛い。


 必要な励ましや助言ならいいんだけど。


 僕と他人とは違う。


 考え方や感じ方も違うんだ。


 もしかしたら、余計なお世話になるかもしれないし。


 上手くやれるのかな。


 なんて、やってみないと分かるはずもない。


 必要なのは、相手をよく観察すること。


 落ち込んでいるなら励まして、悩んでいるなら助言をする。


 僕でも役に立てるなら、助けになるなら。


 やってみよう。






「済みません。お恥ずかしい話なのですが、ワタシの服がですね、洗っても汚れが落ちなくて……」



 早々に頼られてしまった。


 普通に洗っても落ち辛い汚れはある。


 服の種類や場所によって、もみ洗い、たたき洗い、つまみ洗いなんかをしないといけない。


 これも賢姉けんしさんの教えによる賜物。



「洗い方に少し工夫が必要かもしれません。えっと、それって僕が見ても大丈夫な物ですかね」


「あ、はい、普通の衣服なので大丈夫ですけれど」


「なら、一緒に行きましょう。隣で洗い方をお教えしますので、実践してみてください」


「ありがとうございます、助かります。こんなこともできないなんて……ワタシのほうが年上で、しかも女性なのに面目ありませんね」



 落ち込んでるんだよね。


 うーんと、励ますにはどうすればいいかな。


 大丈夫……じゃないわけだし。


 気にしないで……は意味がないだろうし。



「聖女さんは何が得意ですか?」


「え? そ、そうですね……槍、でしょうか」



 おっと……思っていた回答とは大分違った。


 ど、どうにか繋げるしかないか。



「剣よりも扱いが難しそうですよね」


「そうかもしれません。ただ、騎士は剣と槍と弓を必ず習いますから。どれかは得意になると思いますよ」


「棒の先端に刃が付いてるのが槍だと思ってたんですけど、聖女さんの槍は形状が違いますよね」


「ですね。ワタシのは突撃槍と言って、突きに特化した槍になります」


「じゃあ、普通の槍とは扱い方も違うんでしょうね」


「……あの、これって何の会話なんでしょうか。洗濯物の件は……?」



 うぐッ⁉


 さりげなく経験の積み重ねとか、コツの話に繋げようと思ったんだけど。


 やっぱり無理矢理過ぎたかな。


 こうなったら、結論だけでも伝えておこう。



「洗濯も槍も一緒ですよ」


「は、はぁ……? えぇっと、どの辺りがでしょうか?」


「槍の種類に合わせて、扱い方が変わるんですよね? 洗濯だって同じなんです。服の種類や汚れの種類に合わせて、洗い方が変わるだけです」


「ああ、なるほど。そういうお話でしたか。ワタシが話の腰を折ってしまったのですね。済みませんでした」



 もしかして、逆に気遣われてる?


 上手くできなかったのかな。



「フフフ。そういう考え方はしたことがありませんでした。どうやら、洗濯というものを侮っていたようです」



 あ、暗い表情から笑顔になってくれた。


 一応は伝わったのかな?



「目が覚めた思いです。キミは素晴らしい考え方をするんですね」


「え⁉ い、いえ、そんな、大げさ過ぎますよ」


「大人のワタシが落ち込んでいては駄目ですね。何事も精進あるのみ。人並みにできないのは、手法に問題があるのですね」


「そうだと思います。生地の強度によって、洗い方を変えたりとかもありますし」


「ふむふむ。ただ、記憶が確かなら、エルフさんには習っていないような……いえ、そもそもこの歳で身に付いていないことが問題なのですが」


「姉さんは、基本的に単一の作業しかしませんからね」


「……と言いますと?」


「料理なら焼く、洗濯なら洗うって感じです」


「料理はともかくとして、洗濯は問題ないのでは?」


「汚れは落ちるんですが、服が傷むことが多いですかね。全部に同じ力加減なんだと思います」


「ワタシの場合は力加減が足りていないんでしょうか」


「あとは洗い方にもよると思います」


「そうでしたね。色々と学ばせていただきます」


「あはは……」



 子供相手なのに、随分と真面目な人なんだなぁ。


 人族の町で会った時は、男口調になったりもしてたけど、今はそれもないし。


 一緒に住んでるんだし、仲良くなれるといいけど。






何気に、このサブタイ気に入ってます。

基本的に一日一話を書き上げているので、即興にしてはある程度筋が通った話になったんじゃないかなと。



本日は本編120話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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