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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
178/230

116 無職の少年、訓練相手

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 世界樹暴走から半年後

 グノーシスとの訓練を終え、世界樹へと戻ってきた

「おはようございます。ベッドを一つ占領してしまって、申し訳ありません」


「あ、おはようございます。いえいえ、どうせいつも余ってますし」


「一緒に寝るなんて、本当に仲がよいんですね。そういえば、エルフさんは朝は苦手なんでしたね」


「済みません、まだ食事は準備中でして」


「いえ、どうかお気になさらず。催促しに来たわけではなく、ただ挨拶をしに伺っただけですので」



 久しぶりの早朝の台所。


 姉さんの抱擁を脱し、食事の準備の真っ最中。


 そこに、聖女さんが態々挨拶に出向いてくれたらしい。



「相変わらず朝が早いんですね。ワタシは団の習慣的に起きてしまいますが」


「僕も慣れですけどね。そう言えば、料理は慣れましたか?」


「え、ええっと……鋭意努力中、と言ったところでしょうか」


「そうなんですか? 今度、お手伝いしましょうか?」


「いえいえ、そんな滅相もない。食事は美味しいほうがいいですし」



 それは暗に、美味しく作れてないってことなんだよね。


 見た目の印象から、何でもそつなくこなす感じがするだけに意外かも。


 料理に限らず、家事全般に於いて、一見するとできてる風なのだ。


 実際は、味がおかしかったり、汚れが落ちてなかったり、隅の掃除を忘れていたりと、片手落ちの状態が常。


 半年前から進歩してないなら、今日は掃除をしておくべきだろうか。



「……あの、何か?」


「いえ。食事ができるまで、席で待っていてください」


「えっと、外で少し鍛錬をしてきますので……」


「ああ、日課なんでしたっけ」


「はい。お手伝いもせず、申し訳ありません」


「気にしないでください。好きでやってることなので」


「偉いんですね……いえ、きっと長年の研鑽による結果なのでしょうね。ワタシも努力だけはしてみます」



 返事を期待していたわけではないのか、足音が遠ざかってゆき、程なく玄関の扉の音が聞こえた。


 真面目な人なのは確かだろう。


 半年前から同居してはいるものの、その殆どをグノーシスさんの住処で訓練していたこともあり、まだ知らないことや分からないことも多い。


 ただ何となくだが、人型以外の相手を苦手としているような気がする。


 スライムにも、最初のころは決して触れようとはしなかったし。


 よくよく考えてみれば、無理ないのかも。


 騎士なら、魔物や魔族を討伐していたはず。


 それも、受動的じゃなく能動的に。


 その辺りに理由があるのかもしれない。






 姉さんを起こして食事を取る。


 きっと妹ちゃんは来ないんだろうな。


 石像を大怪我させたらしい聖女さんを、かなり嫌っていたし。



「これよこれ。やっぱり家に帰ってきたって実感が湧くわ」


「何がですか?」


「一緒にお風呂入って、一緒のベッドで寝て、一緒に弟君の作った食事を食べるってことよ」


「……大体はグノーシスさんの住処でもやってたと思うんですけど」


「家でやるからいいんじゃない」


「は、はぁ……そういうものですかね」



 共感はできそうにないや。



「やっぱり料理がお上手ですね。ワタシだと、こうはいきません」


「ありがとうございます」


「当然よ。アタシの弟君だもの」



 姉さんの言い分はよく分からないけど、褒められるのは嬉しい。


 経験による積み重ねが結果を残した稀有な例。


 天職が備わらなかった僕が、何かを成し得る可能性。


 とは言え、賢姉けんしさんに習ったわけだけど。



「手順を間違えなければ、味は再現できると思いますよ」


「……お言葉を返すようですが、それができるかできないかが、越えられない境界線なんですよ」



 虚ろな笑みを浮かべてしまった。


 できて当たり前のモノにとって、できないモノのことは理解し得ない。


 よく身に染みついていることわり


 これ以上は、相手をいたずらに傷付けるだけ。


 取り敢えず、話題を変えよう。



「ええっと、今日の訓練って、どうすればいいですかね」


「うーん、そうねぇ。ドリアードへの説明やら見回りやらもあるし、お姉ちゃんの手は空かないかも」


「訓練、ですか? 修了したから、帰って来られたのでは?」


「色々な相手との戦闘経験を積むべきってことでね。見回り組から、一日毎に割り振ってもらおうかしらね」


「目的はやはり……」


「はい。アイツは僕が倒さなきゃいけないんです」



 蘇りそうになる赤い記憶を、押し留める。



「ならば、騎士とこそ積極的に戦うべきでしょう」



 力強い視線が向けられる。



「お世話になってばかりいますから、少しでもご恩返しをさせてください」


「いえ、それなら姉さんに──」


「いいんじゃない。アタシはしてもらいたいことなんてないし。それこそ、弟君の助けになってくれるなら有難いくらいよ」


「あの者は剣を得意としています。ワタシの得手は槍ですが、剣筋などは騎士団仕込みなので似偏っているはずです」



 今までの戦いを振り返ってみる。


 二度の戦い。


 どちらも、剣戟で苦戦したという感じではなかった。


 前回などは、鎧と魔法が厄介だったのだし。


 意味はあるんだろうか。


 ……いや、やれることはやっておくべきか。


 どんな経験が活きるかなんて分からない。


 弱いからこそ、強くなるための努力を惜しむべきじゃないよね。



「僕のほうからもお願いします」


「ええ。正直なところ、複雑な気持ちではありますが。彼が非道を行ったと言うならば、同情はできかねます」


「じゃあ決まりってことでいいわね。ドリアードにはアタシから伝えておいてあげるわ」


「済みませんが、お願いします」


「一応、念の為にアルラウネを寄越してもらうから、そのつもりでね。勝手に始めないように」


「分かりました」



 思いがけず、聖女さんと訓練することになってしまった。


 姉さんやオーガ兄が勝った相手。


 だからって、僕が勝てる相手ではないわけで。


 気を引き締めて臨もう。






本日は本編120話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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