114 無職の少年、再訪の約束
ブラックドッグの魔力回復を待ってから、世界樹へと帰ることになった。
緑の泉で絶賛回復中の間に、荷物を纏めたり、挨拶を済ませておく。
「長い間、お世話になりました」
「アタシからもお礼を言っておくわ。ありがとね」
「成果の是非は、戦いの結果次第だろう。それまでは努力を怠らぬことだ」
「はい」
「すっかり師匠面するようになっちゃってまあ」
「フン……最初はどうなることかと思ったが」
「それはこっちの台詞よ。いっつも言葉足らずで、勝手するんだから」
「誰も彼も、己の都合良く動きはせん」
「それっぽいこと言っても無駄ですけど」
最初は険悪に思えた仲も、随分と良好な関係になったよね。
最近は戦ったりすることも無くなったし。
そういう意味でも、来て良かったのかも。
親子で仲違いしてるなんて悲しいし。
ドクン。
胸が疼く。
「ま、今後は定期的に顔を見せに来るわ」
「気遣いなど要らん。此処は家、出るも帰るも好きにするがいい」
「……ホント、素直じゃないんだから」
いや、素直じゃないのは、どっちもどっちじゃないかな。
分かり辛いのは、間違いなくグノーシスさんのほうだけど。
僕も、少しだけでも協力しよう。
「あのぉ、その時は僕も付いて来てもいいですか? 普通に遊びに来たことはありませんでしたし」
「遊ぶような物など……いや、騒がなければ、別に構わんが」
「ならいっそのこと、みんな連れて来ようかしら」
「それは断る」
いっつも訓練ばっかりで、普通に話すのは食事の時ぐらい。
グノーシスさんは精霊。
食事を取る必要なんて無いのに、いつも同席してくれていた。
かなり分かり辛いけど、優しいんだよね。
「コロポックルの入れ替えなんかもあるし、どの道来ることにはなりそうよ」
そう言えば、どうしてグノーシスさんの住処にコロポックルが住んでるのか、理由は知らないや。
ドリアードさんとは、昔からの知り合いみたいだったけど。
友達なのかな。
サラマンダーさんは……きっと違いそう。
「無理に連れて来ずともいい」
「強制なんかしてないわよ。好奇心なり愛着なりがあるんじゃない?」
「……そうか」
「むしろ、ノームをもっと外に出してあげたら?」
「検討には値するが、近々では難しかろう。人族をどうにかせねば」
「それもそうね。落ち着いたら考えてみて」
「ああ。もっとも、外に出たがっているモノは、存外多そうだがな」
「何なら、アタシが何体か連れて行ってあげましょうか?」
「いや、止めておけ。どれが行くかで揉めるだけだ」
「そ、そう。不和を起こすのは良くないわね」
毛玉が増えると、スライムが喜びそう。
僕たちがこっちに居る間、ドリアードさんの住処で仲良くしてるみたいだし。
何を言っているのか僕には分からないけど、スライムには分かってるのかな。
姉さんやグノーシスさんは、確実に言葉を理解してるんだろうけど。
『待たせたな。もう大丈夫だ』
ブラックドッグが水気を払いながら歩いてきた。
纏めた荷物から布を引っ張り出して、体を拭いてあげる。
『む、済まない』
「あんまり休ませてあげられなくて、ゴメンね」
『動くのに支障はない』
パタパタ尻尾を振ってるし、無理してるわけじゃなさそう。
「なら、そろそろ帰りましょうか。家のことは任せてあるし、すぐ使える状態のはずだけど、バタバタしたくはないしね」
そっか、家には今、あの人が居るんだっけ。
妹ちゃんと仲良くできてるといいんだけど。
姉さんが荷物を持つのに合わせて、僕も手荷物を持ち上げる。
「なるべく早く、事態を収めるようにな」
「もう、そんな挨拶ってある? また来るわ」
「お世話になりました。また来ます」
「……ああ、またな。必ずやり遂げてみせろ」
「はい」
「ええ」
≪門≫
激励を受けながら、帰路へとついた。
「はぁー、やっぱり、一度で移動できるのは楽でいいわね」
緑が溢れる空間。
ドリアードさんの住処に出た。
「──なんじゃ、やっと来おったか。今日は随分と遅かったのう」
近くに居たのは、空間に同化しそうな緑の人影。
出迎えてくれた……ってわけでもなさそうだけど、ドリアードさんが声を掛けてきた。
「そっか、昨日の今日だし、事情も何も伝えてなかったわね」
「──む? 皆で戻ったのか」
「ええ、向こうでの訓練はひとまずお終いってわけ」
「──ほうほう……よく今まで頑張ったのう」
足音も立てず、足運びも見せずに近づいてきて、頭を撫でられた。
「あー! そういうのはお姉ちゃん特権だから!」
「──なんじゃ、その理屈は……労うぐらいはよかろう」
「むー」
姉さんからのジト目が痛い。
「いえ、あの、僕なんてまだ全然なので……」
やんわりと言い繕いながら離れておく。
姉さんが拗ねると困る。
「──あまり引き留めてもあれじゃしな。詳しい話は、また改めて聞かせてもらうとしよう」
「そうしてもらえると有難いわ。アタシはともかく、弟君たちは疲れているでしょうしね」
「──久方ぶりの家じゃろう。ゆるりと休むがよい」
「ええ。今日分の見回りやらは全部任せるわ」
「──やれやれ、疲れておらぬと言ったばかりじゃろうに。まぁよい。そのように手配はしておこう」
「ありがと。じゃ、明日にでも顔を出すわ」
「──そも、明日からは見回りに参加せよ」
「わ、分かってるわよ」
「お邪魔しました」
ドリアードさんに頭を下げてから、住処を後にする。
姉さんは毎日帰って来てたけど、僕は偶にしか帰って来なかったからなぁ。
みんな、元気にしてるかな。
本日は本編115話までと、SSを1話投稿します。
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