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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
174/230

113 無職の少年、敗北を糧に

 先程までとは打って変わって。


 再び魔装化まそうかしての剣戟が続く。


 具現化した白刃は、同じく具現化された大剣を容易く両断してはくれない。


 むしろ逆に、こちらの短剣のほうが数合で砕かれてしまう。


 以前とは違って、2本で戦っているのに。


 まだ不慣れだからか、利き手ではない左が、頻繁に砕かれてしまっている。


 まともに受けては駄目なんだ。


 上手く攻撃を逸らせないと。


 明らかに左側を集中して狙われている。


 拮抗が徐々に傾いてゆくのを感じる。


 目まぐるしい攻撃に対処しつつ、余裕のない思考を巡らす。


 今、問題なのは2つ。


 双剣を扱う未熟さと、短剣の再現性の低さ。


 前者はもう、どうしようもない。


 けど、後者なら……。


 戦闘中に劇的な成長など望めやしない。


 急に強くなったりできない。


 できることは、いつもと変わらない。


 ただ、工夫するだけ。


 左の短剣が当たり前のように砕かれる。


 再構築はせず、素早く腰に手を回す。


 そう、完全な再現は叶わない。


 なら、本物を使えば済む話。


 本物を使う以上、砕かれでもしたらそれまで。


 代えは効かない。


 さらには、実体がある以上、重さも普通にある。


 先程までに比べて、攻撃速度も減衰する。


 それでもやる。


 今できることを、やるしかないんだから。






 右手に模造、左手に本物。


 一応、強度を上げるために、魔装で短剣を覆っておく。


 白刃が大剣を断つ。


 やっぱり、本物の切れ味はおかしい。


 何でも斬れてしまって怖いほどだ。


 今回、初めて大剣が作り直された。


 試すように、再び左へと攻撃を見舞われる。


 切断。


 これ以降、警戒されるのは必然。


 ならば。


 大剣が作り直される合間に、両手を背後へと回す。


 本物を右手へ移す。


 こうして左右を入れ替えてやることで、どちらの手に本物があるか惑わすことができるはず。


 予想に反し、攻撃はまたしても左側へ。


 左は砕かれたが、右で大剣のなかばまで斬り裂く。


 砕き砕かれ。


 けどおかしい。


 確実に模造を狙われ、砕かれる。


 何か見落としている?


 分からない。


 どうやって本物と模造を判別しているのか。


 僕からしても、見た目は同じにしか映らないのに。


 いや、動揺してちゃ駄目だ。


 もう工夫のしようなんて思いつかない。


 勝てなくて当然。


 それでも負けないために、こうして頑張っているんだから。






 再び均衡が崩れ始める。


 大剣を壊せなくなってきた。


 白刃で攻撃してるのに、どうして……。


 元々僅かもなかった余裕が、どんどんと失われてゆく。


 増すのは疲労感と焦燥感ばかり。


 耐える。


 ひたすらに。


 教わった技なんて、碌に使えてもいない。


 使う隙が生じない。


 連撃。


 武器を左右交換することも叶わない。


 腕が重い。


 しんどくて堪らない。


 反応が遅れる。


 その分、確実に劣勢へと追い込まれてゆく。


 頭では分かっているのに、身体が思うように動かせない。


 動いてくれない。


 見る間に追い詰められる。


 遅い。


 遂に捌き切れず、鎧を削られ始めた。


 衝撃が身体を揺らす。


 消耗が更に加速する。


 肩が上がらない。


 腕の動きだけで、どうにか対処する。


 が、それも長くは持たない。


 もう少し。


 一瞬でも長く戦ってやる。


 気力。


 ただそれだけを頼みとして、無理矢理に動く。






 終わりは呆気なく訪れた。


 大剣を防ぐべき短剣が、ぶつかる前に霧散した。


 魔装化まそうかが消える。


 魔力切れ。


 そもそも、体力も尽きかけていた。


 迫る大剣に対処もできず、身体が傾いでゆく。


 自重を支えきれない。



「諦めこそしなかったようだが、後半は酷い有様だったな」



 当たる寸前で大剣が消える。


 その代わりに、硬い鎧で抱き留められた。



「あーーーッ! 弟君を抱いていいのはお姉ちゃんのアタシだけよ!」


「……聞きようによっては、随分な発言に思えるな。ならば代われ」


「言われなくても、すぐ行くわよ!」



 姉さんが駆け寄って来るのが見える。


 ブラックドッグは……すぐそばで身を伏せ、舌を出して喘いでいた。


 結局、気遣ってあげられなかった。


 最初は魔力消費を抑えたり、吸収したりもできてたのに。


 途中からは、それも忘れて戦ってしまった。


 ホント、僕は駄目だなぁ。



「弟君! よく頑張ったわね」



 奪い取るようにして、姉さんに抱きしめられた。


 勝てないのは分かってた。


 けど悔しい、悔しいなぁ。


 目を強く瞑って、姉さんの身体に顔を押し付ける。


 半年近くも頑張ってきた。


 なのに敵わなかった。


 敵わなかったんだ。






「ホント、ひねくれてるわよね。いきなり隠れるんだもの」


「挑まれたのは真剣勝負なのだ。地の利を活かさず何とする」



 椅子に座ることもままならないので、地面に横たえられ、膝枕されている。


 そんな状態で、反省会が行われていた。



「敵を誘い出すのは、一応は成功したと言える」


「あれ、割と本気で怒ってたわよね」


「精霊にとって、魔力は生きる糧。住処から失われるのは死活問題だ」


「分かってるわよ」



 反省会というか、姉さんとグノーシスさんが言い合いしているだけかも。



「問題は短剣での戦いのほうだ。確かに、白い短剣の切れ味は凄まじい。が、それを頼みにし過ぎたな」


「そうねぇ。攻撃を逸らすことより、武器破壊を狙いにいってた感じが、こっちから見てても分かるぐらいだったし」



 言われてみると、そうだったかもしれない。


 本物の切れ味があれば、破壊されないだろうって思ったんだけど。



「具現化から本物へと切り替えたのは良かったがな。無意識だろうが、本物では武器を狙った動きになっていた。あれでは真贋しんがんなど容易に露見する」



 ああ、だから模造のほうだけ集中して狙われたのか。


 気が付けなかった。



「課題は幾つか見えたか。具現化の精度の向上。左手での短剣の習熟訓練。そして魔力管理と言ったところか」


「あとは、もっと脚を動かさないと駄目じゃないかしら。相手の死角へと移動して攻撃しないと、さっきみたく打ち合ったらジリ貧だもの」



 具現化、左手、魔力、脚。


 まだまだ足りないモノばっかりだ。



「心して聞け。白い短剣は切り札足り得る。故に早々に披露するな。使いどころを見誤るなよ」


「はい、気を付けます」


「うーん、でも、お姉ちゃんは嬉しいわ。弟君の成長が見られたもの」


「成長……してるんでしょうか……」



 双剣の扱いは未熟。


 技を習っても、実戦ではほぼ使うことすらできなくて。


 スキルも発現しやしない。



「ちゃんと戦ってたわ。もう、魔装化まそうかに頼りきりじゃなかったもの」


「だが、魔装化まそうかせず戦うのは愚かだ。長期戦ではなく短期で決着できるよう立ち回ることだな」



 勇者との戦いを思い返す。


 ズキン。


 頭が痛む。


 魔法に鎧と、厄介さが増していた。


 この白刃が鎧にも通用するなら、勝機はあるはず。


 いきなり使うんじゃなく、通用しないと思わせておいてからの一撃とかが効果的だろうか。


 問題は魔法への対処。


 まだ、何も思いつかない。


 次に戦うのは、そう遠くないことに思える。


 想像ですら勝てないなら、実際に戦って勝ち目なんかあるはずない。


 考えないと。


 次で倒すんだ。


 お父さん……お母さん……。


 ドクンドクン。


 胸が疼く。


 赤い記憶。


 ずっと覚えてる。


 絶対に赦しはしない。






本日は本編115話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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