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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
173/230

112 無職の少年、真剣勝負

 朝食を終えても、姉さんは世界樹へと帰りはしなかった。


 この勝負が終わったら一緒に帰るために、残ってくれている。


 姉さんに見守られながら、グノーシスさんと対峙する。



「望みは真剣勝負。相違無いな」


「はい! よろしくお願いします!」


「その様子では、全く理解が及んでおらんな」


「え」


「真剣勝負とは、即ち、命の遣り取りに他ならん。その覚悟も無く、軽々に口にすべきではない」



魔装化まそうか



 放たれる威圧と共に、相手の姿が変わる。


 姉さんと同じ、全身を覆う黒い鎧。


 今にして思えば、勇者の白い鎧の色を反転させたようにも見える。


 ズキン。


 頭が痛む。



「余りにも鈍過ぎる。事此処に至って、まだ構えもせぬか。真剣勝負が正々堂々行われるとでも勘違いしておらぬか」



 ベキベキベキッ。


 不意に、足元が不穏な音を立てた。


 地中からの攻撃。


 これは想定内。


 視線は相手を捉えたまま、逸らしはしない。


 そのまま、後方へと跳び退く。


 果たして、尖った岩が地面を突き破ってきた。


 回避し切れていない。


 向かってくる岩に向け、白刃を振るう。


 まるで抵抗など感じさせず、容易く切断してみせる。


 迎撃の際、一瞬意識が岩に移った。


 慌てて相手へと意識を戻すが、元の場所には姿が無い。


 視線は逸らさなかったのに。


 意識を逸らせば、見ていないのと同じなわけか。



魔装化まそうか



 防御重視。


 分厚い鎧をイメージする。


 次いで移動。


 前方は、切断こそしたが岩が邪魔。


 左右後方に障害物無し。


 敢えて岩を背にして、残り三方向へと構える。



「ガハッ⁉」



 不意の衝撃。


 それも背後から。


 前のめりに倒れ込む。


 勢いのままに、前転して距離を取る。



「同じ場所からの攻撃が行われぬなど、何故判じられる」



 攻撃は背後の岩から行われたらしい。


 幸い、分厚い鎧のお蔭で中身は無事。


 起き上がって周囲を見渡す。


 声はすれども、姿は視認できない。


 地面も壁も、相手の武器に等しい。


 留まろうが移動しようが、どこも相手の攻撃圏内。


 こちらが不利。


 魔装化まそうかしている以上、魔力切れまでの時間制限付き。


 そう、このままであれば。


 壁際まで移動し、全身から棘を伸ばす。


 壁に地面に、突き刺さる。


 世界樹でやったのと同様、そこから魔力を吸収してゆく。


 これで魔力切れは防げる。






「何という真似を! ノームたちを殺す気か!」



 空間が震えるほどの怒声が響く。


 刺さった棘がへし折られ、代わりとばかりに尖った岩が次々と伸びてきた。


 咄嗟にその場から跳び退く。


 ずっと観察していたが、相手は地面の上を高速移動しているわけではなさそう。


 ならば、壁の中か地面の中に身を潜めているのか。


 毛玉たちには大変申し訳ないとは思うが、相手を揺さぶる手段としても、魔力吸収は有効なことが分かった。


 ただし、利用する余裕があるならば。


 走る先から後から、岩が飛び出してくる。


 飛礫つぶてと言うには大き過ぎる。


 岩塊だ。


 一方的な攻撃の連続。


 相手の居場所は未だ不明。


 壁か、地面か。


 内部を自由に移動できるなら、静止しているとも限らない。


 見つけるよりかは、相手に出て来てもらうほうが確実。


 そもそも、僕では見つけるのは不可能に思える。


 やっぱり、怒らせて出て来させるしかないかな。


 凡そ、広場の中心を目指して、岩を避けながら移動する。



「姉さん! 避けてください!」



 観戦してる姉さんに注意を促し、全力で仕掛ける。


 棘。


 全身から生やして、限界まで伸ばす。


 果ての見えぬ天井にこそ届かないが、壁や床はあらかた串刺しだ。


 飛来する岩も同様に。


 急激な魔力消費にふらつくが、構わず今度は魔力を吸収してゆく。



「やめろ‼」



 棘を砕いて、地面が爆ぜる。


 いつもより数倍は怖い、グノーシスさんが姿を現す。


 放たれる威圧感で身体が重い。


 いや、実際に身体が沈み始めている。


 足元の地面を操作されてるんだ。


 抜け出そうにも、どんどんと地中へと引き摺り込まれてゆく。


 低くなる視界に、相手が迫って来るのが見えた。


 抜け出すのは間に合いそうにない。


 腕周りの棘を解除し、短剣を具現化する。


 双剣。


 どちらも白刃。


 本物の切れ味を思い出し、模倣する。


 相手が具現化させた大剣を振り下ろしてきた。


 不格好な体勢から、応じるように両の短剣を揮う。



錯刃さくじん



 斬撃を交差させ見舞う。


 だが、所詮は技の真似事に過ぎない。


 パリーン。


 両の短剣が砕け散る。


 大剣を切断するには至らず、一撃を肩に食らってしまう。


 まず感じたのは衝撃。


 次いで激痛。


 意識が飛びそうだ。


 腕は……千切れてはいない。


 一応は、威力を削げていたらしい。


 とにかく、この場所はマズい。


 壁に刺さった棘を支えに、急いで身体を引き上げる。



「何もせず、傍観していると思うか?」



 数度大剣が振るわれ、棘を根こそぎ折られた。


 地面に沈む勢いが増す。



「終いだ」



 纏っている鎧は防御重視。


 つまりは硬く分厚い。


 ここで重要なのは分厚さ。


 解除すればその分、地面との隙間が空く。


 魔装化まそうかを解除。


 両手を地面につき、身体を勢いよく引き抜く。


 黒霧から姿を戻したブラックドッグに咥えてもらい、その場を離脱する。


 負傷は肩のみ。


 まだ戦える。


 まだ終わりなんかにさせはしない。






本日は本編115話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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