表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第三章
172/230

111 無職の少年、半年後

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 二章まで読んで!

「調子はどう?」


「あ、姉さん。丁度、今休憩に入ったところです」


「以前は息を切らしていたのに、随分と体力が付いたみたいね」


「そう……なんですかね……自覚はありませんけど」



 草に覆われた地面に腰を下ろしたまま、やって来た姉さんに応じる。


 姉さんが来たってことは、もう昼過ぎだったのか。


 常に明るいこの場所だと、時間が分からなくて困る。



「来たか」


「ええ。弟君に無茶な真似してないでしょうね?」


「任せておいて、随分な言い様だな」


「すぐやり過ぎるんだもの。いっつも心配はしてるのよ」



 姉さんに気が付いたグノーシスさんも、歩み寄って来た。


 此処はグノーシスさんの住処。


 以前中断したままとなっていた、訓練の最中であった。






 世界樹の騒動から半年。


 色々なことがあった。


 団長や副団長さんとの協力。


 魔王との対談。


 そして、魔族との協力関係の締結。


 現在では、世界樹倒壊を阻止するため、北側をサラマンダーさんとグノーシスさんが、東側をドリアードさんや姉さんたち、両方を魔族が防衛に当たっている。


 この半年間で3度の襲撃に見舞われたが、その全てを防衛しているらしい。


 そう、未だ人族への対処は後手に回ったまま。


 みんな、打倒教会に向け、準備を進めている真っ最中。


 僕の訓練もまた、その一環。


 今度こそ、勇者を倒すために。


 ズキリ。


 頭が痛む。


 連日、地道な努力を重ね続けている。


 午前はグノーシスさんとの戦闘訓練、午後は姉さんと剣技の訓練。


 ただ、姉さんだけは、毎日朝食を取った後に、世界樹の集落へと帰っているのだけれども。


 世界樹の護衛だけでなく、連絡や物資の補給係として。


 午後にはこうして戻って来てくれている。


 僕も、ひと月に一度は、世界樹の集落へと帰ってはいる。






「双剣の扱いにはもう慣れた?」


「慣れたってほどではありませんね……」



 以前、姉さんが少しだけ話題に出していた、二本目の短剣。


 それも貰い受け、双剣を扱えるよう訓練の真っ最中。


 ただ、そのもう一本は、訓練で使うにはかなり危険な代物だった。


 と言うのも、とんでもない切れ味なのだ。


 力を入れずとも、石なんかスパッと斬れてしまう。


 剣身は普通の銀色とは違って真っ白。


 何か特別な物なんだと思うんだけど、姉さんに聞いても、どうしてか詳しい由来を教えてはくれない。



「新しいほうの短剣は、訓練で使うには危な過ぎます」


「フフン、切れ味抜群でしょ」



 短剣の凄さを訴えるたび、嬉しそうな反応をしている。


 そのくせ、肝心の理由は話してはくれない。



「抜群過ぎますよ」


「けどね、武器って本来、どれも危険な物なのよ。切れ味が鋭いからこそ、相手を気遣えるってこともあるんじゃないかしら」


「それは屁理屈なんじゃ……」



 敵に対して当たるのは構わない。


 そのつもりで攻撃してるんだし。


 けど、訓練に付き合ってくれている、グノーシスさんや姉さんには、絶対に当てるわけにはいかない。


 だからなるべく、魔装化まそうかの具現化を使うようにはしているけど。



「技はどう? 動きは覚えられてきたと思うんだけど」


「けど、スキルはまだ……」



【剣術】のスキルは未だ発現していない。


 技とは言っても、ただ動きを真似ているだけの代物に過ぎなくて。


 やっぱり、無職だから修得もできないのかも。



「焦らない焦らない。一つずつ、できることを増やしていきましょう」


「……はい」



 他の人がすぐできることが、僕にはできない。


 いつもそう。


 今更だ。


 駄々をこねても変わらない。


 できるのは、努力を重ねていくことだけ。



魔装化まそうかの習熟も頭打ちだ。そろそろ色々な相手との戦闘経験を積ませる時期かもしれん」


「それって……訓練は終わりってこと?」


「此処での、という意味ではな」


「ですってよ。弟君、どうする?」


「え? え?」



 もう強くはなれないって、見限られた?



「あの! 僕、もっともっと頑張ります! だから、見放さないでください! お願いします!」


「…………何を勘違いしているのだ。そういう意味ではない」


「ほら、落ち着いて。未熟なモノを決して外には出さないわ。アタシがそうだったしね。つまり、弟君を認めてくれたってことよ」


「認めて……? け、けど、一度も勝てたことなんて」


「目的を見誤るな。勝つべき相手が違うだろう。ならば、より多くの相手と戦うべきだ。慣れは思考も動きも鈍らせる」


「集落には、オーガ兄や騎士も居るしね。胸を借りてもいいんじゃないかしら」


「……明日を最後の訓練にしてもらってもいいですか?」


「話を聞いていたのか? より多くの相手と──」


「ちゃんと、グノーシスさんと戦ってみたいです」


「……ならば、訓練ではなく勝負を望んでいるというわけか」



 そうなのかな?


 自分でもよく分からない。


 でも何故だか、ちゃんと戦っておきたいって思ったんだ。



「どうにも蛮勇が過ぎる。いや、無謀が、か。勝てぬ相手に挑む愚かしさ。未だに懲りてはおらぬらしい」



 グノーシスさんの雰囲気が変わる。


 息苦しい感じ。


 伏せていたブラックドッグが唸り声を上げ始める。


 落ち着かせるように、背を撫でてやる。



「プッ、ククッ、クスクスクスクス」


「……娘よ、何を笑っている」


「だって弟君ったら、挑発に動じてないじゃない。それなのに威圧してるのが可笑しくってつい、ね」


「恐れぬことが必ずしも良いとは限るまい。脅威を正しく判じられなければ、長生きなどできまいよ」


「何でもかんでも、一事が万事って感じよね。単に胆力が付いたってことなんじゃない?」



 最早、僕をそっちのけで、口論を始めてしまった。


 余計なこと、言っちゃったかな。


 真剣に戦えば負ける。


 分かり切ってることだ。


 けど、此処を出ていくなら、無駄な自信も捨てていきたい。


 弱いことを自覚しないと、もっと強くはなれない気がするから。






本日は本編115話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ