111 無職の少年、半年後
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
二章まで読んで!
「調子はどう?」
「あ、姉さん。丁度、今休憩に入ったところです」
「以前は息を切らしていたのに、随分と体力が付いたみたいね」
「そう……なんですかね……自覚はありませんけど」
草に覆われた地面に腰を下ろしたまま、やって来た姉さんに応じる。
姉さんが来たってことは、もう昼過ぎだったのか。
常に明るいこの場所だと、時間が分からなくて困る。
「来たか」
「ええ。弟君に無茶な真似してないでしょうね?」
「任せておいて、随分な言い様だな」
「すぐやり過ぎるんだもの。いっつも心配はしてるのよ」
姉さんに気が付いたグノーシスさんも、歩み寄って来た。
此処はグノーシスさんの住処。
以前中断したままとなっていた、訓練の最中であった。
世界樹の騒動から半年。
色々なことがあった。
団長や副団長さんとの協力。
魔王との対談。
そして、魔族との協力関係の締結。
現在では、世界樹倒壊を阻止するため、北側をサラマンダーさんとグノーシスさんが、東側をドリアードさんや姉さんたち、両方を魔族が防衛に当たっている。
この半年間で3度の襲撃に見舞われたが、その全てを防衛しているらしい。
そう、未だ人族への対処は後手に回ったまま。
みんな、打倒教会に向け、準備を進めている真っ最中。
僕の訓練もまた、その一環。
今度こそ、勇者を倒すために。
ズキリ。
頭が痛む。
連日、地道な努力を重ね続けている。
午前はグノーシスさんとの戦闘訓練、午後は姉さんと剣技の訓練。
ただ、姉さんだけは、毎日朝食を取った後に、世界樹の集落へと帰っているのだけれども。
世界樹の護衛だけでなく、連絡や物資の補給係として。
午後にはこうして戻って来てくれている。
僕も、ひと月に一度は、世界樹の集落へと帰ってはいる。
「双剣の扱いにはもう慣れた?」
「慣れたってほどではありませんね……」
以前、姉さんが少しだけ話題に出していた、二本目の短剣。
それも貰い受け、双剣を扱えるよう訓練の真っ最中。
ただ、そのもう一本は、訓練で使うにはかなり危険な代物だった。
と言うのも、とんでもない切れ味なのだ。
力を入れずとも、石なんかスパッと斬れてしまう。
剣身は普通の銀色とは違って真っ白。
何か特別な物なんだと思うんだけど、姉さんに聞いても、どうしてか詳しい由来を教えてはくれない。
「新しいほうの短剣は、訓練で使うには危な過ぎます」
「フフン、切れ味抜群でしょ」
短剣の凄さを訴えるたび、嬉しそうな反応をしている。
そのくせ、肝心の理由は話してはくれない。
「抜群過ぎますよ」
「けどね、武器って本来、どれも危険な物なのよ。切れ味が鋭いからこそ、相手を気遣えるってこともあるんじゃないかしら」
「それは屁理屈なんじゃ……」
敵に対して当たるのは構わない。
そのつもりで攻撃してるんだし。
けど、訓練に付き合ってくれている、グノーシスさんや姉さんには、絶対に当てるわけにはいかない。
だからなるべく、魔装化の具現化を使うようにはしているけど。
「技はどう? 動きは覚えられてきたと思うんだけど」
「けど、スキルはまだ……」
【剣術】のスキルは未だ発現していない。
技とは言っても、ただ動きを真似ているだけの代物に過ぎなくて。
やっぱり、無職だから修得もできないのかも。
「焦らない焦らない。一つずつ、できることを増やしていきましょう」
「……はい」
他の人がすぐできることが、僕にはできない。
いつもそう。
今更だ。
駄々をこねても変わらない。
できるのは、努力を重ねていくことだけ。
「魔装化の習熟も頭打ちだ。そろそろ色々な相手との戦闘経験を積ませる時期かもしれん」
「それって……訓練は終わりってこと?」
「此処での、という意味ではな」
「ですってよ。弟君、どうする?」
「え? え?」
もう強くはなれないって、見限られた?
「あの! 僕、もっともっと頑張ります! だから、見放さないでください! お願いします!」
「…………何を勘違いしているのだ。そういう意味ではない」
「ほら、落ち着いて。未熟なモノを決して外には出さないわ。アタシがそうだったしね。つまり、弟君を認めてくれたってことよ」
「認めて……? け、けど、一度も勝てたことなんて」
「目的を見誤るな。勝つべき相手が違うだろう。ならば、より多くの相手と戦うべきだ。慣れは思考も動きも鈍らせる」
「集落には、オーガ兄や騎士も居るしね。胸を借りてもいいんじゃないかしら」
「……明日を最後の訓練にしてもらってもいいですか?」
「話を聞いていたのか? より多くの相手と──」
「ちゃんと、グノーシスさんと戦ってみたいです」
「……ならば、訓練ではなく勝負を望んでいるというわけか」
そうなのかな?
自分でもよく分からない。
でも何故だか、ちゃんと戦っておきたいって思ったんだ。
「どうにも蛮勇が過ぎる。いや、無謀が、か。勝てぬ相手に挑む愚かしさ。未だに懲りてはおらぬらしい」
グノーシスさんの雰囲気が変わる。
息苦しい感じ。
伏せていたブラックドッグが唸り声を上げ始める。
落ち着かせるように、背を撫でてやる。
「プッ、ククッ、クスクスクスクス」
「……娘よ、何を笑っている」
「だって弟君ったら、挑発に動じてないじゃない。それなのに威圧してるのが可笑しくってつい、ね」
「恐れぬことが必ずしも良いとは限るまい。脅威を正しく判じられなければ、長生きなどできまいよ」
「何でもかんでも、一事が万事って感じよね。単に胆力が付いたってことなんじゃない?」
最早、僕をそっちのけで、口論を始めてしまった。
余計なこと、言っちゃったかな。
真剣に戦えば負ける。
分かり切ってることだ。
けど、此処を出ていくなら、無駄な自信も捨てていきたい。
弱いことを自覚しないと、もっと強くはなれない気がするから。
本日は本編115話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




