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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-50 団長の決意

 やれやれ、危ういとこだったが、どうにか間に合ったか。


 念の為にと、世界樹を遠目から監視しておいて正解だったな。


 もっとも、警戒していたのは、世界樹にちょっかいを出そうとする連中に対してだったんだが。


 予感は悪いほうへと的中しやがった。


 副団長と副団長代理だけでなく、聖騎士の爺さんまで出張って来るとは。


 襲撃して来たって話は以前聞いてたが、まだ諦めてやしなかったのか。


 とはいえ、最悪の事態は避けられた。


 例の火薬とやらを持って来たりはしなかったらしい。


 つまりは、世界樹倒壊が目的ではない。


 住んでる連中をこそ、狙って来たわけだ。


 教会は本気で精霊とやり合う腹積もりってことか。


 いよいよ以て、身の振り方を真剣に考えねぇとマズいな。



「悠長に考えごとかよ」


「あ、ああ、済まんね。どうにも考えなきゃならんことが多くてな」



 嬢ちゃんを助ける代わりに、この魔族に一撃食らってやる約束だったな。


 言い出しておいてなんだが、まさか本当に話に乗って来るとは思わなかったが。


 見るからに格闘主体。


 近接戦闘特化の魔族。


 問題はどの程度強いのか。


 少なくとも、攻撃に優れる嬢ちゃんに勝ってみせるほどの実力。


 この見た目で防御ってガラじゃあるまい。


 回避に優れるって感じかねぇ。



「ったくよぉ、言ったそばから考えごとかよ」


「なあに、他事は考えちゃいねぇさ」


「そうかい。なら、始めちまって構わねぇってことか?」


「元より、こっちが頼んだ側だ。不意打ちだろうが何だろうが、一撃分は抵抗するつもりはねぇ」


「……ハァッ、これはこれで、思ってたのとはちげぇんだがな」


「満足のいく戦いってやつかい?」


「まぁな」


「期待に沿えず、済まねぇな」


「いいや、アンタからは強そうな気配がしてやがる。分からねぇのは、何で守りを選んでるのかってとこだが」


「オマエさんと違って、戦いは好きじゃないんでね」


「──嘘だな。ま、理由がどうであれ、やることは変わらねぇ」


「だな。面倒事は手早く済ませるに限る」


「よっぽど防御に自信があるみてぇだが、棒立ちしてると死ぬぜ」


「心配は無用だ」


「そうかよ」



 相手の気配が変わる。


 たちまち溢れ出す闘気。


 周囲の景色が歪んで見えるようだ。


 こりゃあ、思ってる以上に強いのかもしれねぇな。


 そうだとしても、やることは変わらない。


 守ること。


 皆の盾となること。


 目指し、憧れた姿を体現する。






 彼我の距離は数歩分。


 詰められるのは一瞬だろう。


 相手は更に闘気を練っている。


 間違いねぇ。


 この魔族は、技を使うつもりでいるらしい。


 魔物も魔族も、特殊な攻撃を行うことはあっても、技を使用してきたなんて記憶は今までに一度たりともない。


 コイツだけが特別なんだと思いたいところだ。


 他にもゴロゴロといるってんなら、今後に差し支えちまう。


 教会って組織を解体するにしろ、魔族が強過ぎるってのは問題だ。


 騎士を抑止力として残せても、敵わねぇんじゃお話になりゃしねぇ。


 まずは、この身が通用するかどうか、試させてもらおうか。


 最早、ハッキリと視認できるほどに、相手の周囲には陽炎かげろうが生じていた。


 肌の色と相まって、まるで炎の如き姿。



「いくぜ」


「来い」



 予想に反して、相手の動きは酷くゆっくりに見えた。


 駆け足ではなく、ただゆっくりと歩み寄ってくる。


 どういうわけか、あと一歩の距離で立ち止まった。


 腰溜めの姿勢で、右腕を後ろに引いた構え。



「全力で防御するこった。でなきゃ、どデカい風穴が空くことになるぜ」



 徒手空拳で、随分な物言いをする。


 こちらは刻印武装の鎧を着ているのだ。


 応答を期待してなどいなかったのであろう。


 それまでの動きとは違い、攻撃は一瞬だった。



旋孔せんこう



 刹那に襲い来る強烈な悪寒。


 明確な死の気配。


 巨大な槍を幻視する。


 意思に反して、反射的に技を発動させる。



不貫アイアス



 槍から連想される対抗技を繰り出す。


 付与エンチャントを行う余裕もない。


 不完全に形成された盾は、容易く砕かれ、攻撃が鎧へと到達する。


 見舞われたのは、拳撃ではなく貫手ぬきて


 突き出された五指が、優に倍するこの身を、地面から浮かせて吹き飛ばした。






「チッ、思ったよりも軽かったのか? いや、途中で当たった何かに、力点をズラされた感じか」



 苛ついた声が聞こえる。


 地面に大の字に倒れてしまったか。


 どうにか、風穴は空かずに済んだらしい。


 しかしまさか、この鎧を纏っている状態で、こうもあっさり吹き飛ばされることがあろうとはな。


 あの世界樹倒壊の時ですら、耐えきってみせたというのに。


 恐るべきは、この魔族。


 大言たいげんではなかったな。



「どうせ、くたばっちゃいねぇんだろ? 殺す気でやったんだ。これで手打ちにしてやるよ」


「……カハッ、カフ、ゴホゴホッ」



 声を出そうとしたが、掠れた呼気しか発せられなかった。


 余程の衝撃だったらしい。


 こりゃあ、増長が過ぎたな。


 全力で応じるべき強敵だった。


 申し訳ないことをしちまった。



「次も敵として来るこった。そうしたら、今度こそ殺してやる」



 そいつは参ったね。


 次の機会は訪れないことを願うばかりだ。



「団長!」



 魔族と入れ替わるように、嬢ちゃんの声が聞こえてきた。



「団長! お怪我を負われたのですか⁉ 今、ポーションを──」



 声の代わりに、頭を左右に振ってみせる。


 肺が委縮してるだけだろう。


 ほっときゃ治る。



「ですが⁉ ……申し訳ありません。ワタシの失態でこのような目に遭わせてしまいました」



 すぐ横に座り込むのが見えた。


 咳込みながら、無理矢理に腕を動かす。


 俯く頭を軽く叩いてやる。


 息を整え、短く告げる。



「聖都には戻るな。騎士団を抜けろ」


「なッ⁉ ワタシはまだ戦──」


「槍は送還せず、持っておけ」



 勘違いしている風だが、こちとらまだ満足に喋れやしない。


 要点だけを手短に済ませる。



「送還しなきゃ、居場所はバレずに済む」



 世界樹倒壊以降、姿をくらませてるのは、その影響が大きいだろう。


 刻印武装は作成時に使用者の血液を用いる。


 そうやって相互に繋がりを作るんだとか。


 武装の送還位置が固定されているように、召喚位置も使用者に固定されている。


 そいつをどうやってか利用して、こちらの位置を把握されてる。


 警戒すべきは教会のほう。


 世界の脅威となっているのは、教会に他なるまい。


 長く続いた平和で、人族は盛大に勘違いをした。


 魔族も精霊も、人族よりも弱いと思い込んでいたのだ。


 だが、実際には違った。


 違っていた。


 戦うべき相手じゃない。


 世界樹という守りを自ら壊した今、魔族の侵攻にすら耐えられまい。


 平和は終わった。


 世界は変わったのだ。


 ならば、人族もまた変わらねばなるまい。



「教会を打倒する。オレと来い」



 見知った者と戦うことにもなるだろう。


 友人からも家族からも、蔑まれるかもしれない。


 それでも。


 やらねばならないのだ。







本日はあとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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