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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-49 女騎士の闘い④

 まさか、上に避けられていたとは。


 三方向のいずれかから来ると、思い込んでしまっていた。


 だが、後悔も反省も後回し。


 相手は攻撃直後の硬直にあると見た。


 姿を晒している今こそが好機。


 思考は一瞬。



付与エンチャント



 纏うは雷。


 相手は軽装……というかほぼ裸。


 当たれば終わる。


 速度重視で決める!



雷撃ブリッツ



 落雷と見紛う一撃。


 大気が裂ける轟音と共に相手の体を貫いてみせる。


 後には何も残りはしない。


 ……いや、おかしい。


 消し炭になったとしても、炭は残るはず。


 跡形も無いなら、それはつまり──。



「風に火に、今度は雷ってか。随分とまぁ、芸達者なもんだぜ。んで、出し物はそれで終いか?」



 声は少し離れた場所から。


 仕留め損なった!


 最速の一撃でなお、捉え切れなかったか。


 あの軽装は、攻撃を必ず躱すという自負の表れなのか。


 如何な必殺の一撃とは言え、当たらねば意味がない。


 点ではなく面。


 範囲攻撃のほうが有効だったか。


 既に技の使用は5度に及んでいる。


 次で決めねば魔力が持ちそうにない。


 勝たねば。


 何としても。


 そうでなくば、聖都に戻れたとて、この身が辱められる。






「さっきまでとは気迫が違うな。やっと、お遊戯は終いかよ」



 遊戯……それが彼我の実力差か。


 どうにも良くないな。


 勝つ光景が想像できなくなっている。


 ふと、王都での一戦が頭をぎる。


 一方的だった。


 まさに完敗。


 上位魔族に伍するだけの実力は有しているつもりだった。


 所詮は騎士団に於ける実力に過ぎなかったわけだ。


 聖騎士には及ぶはずもなく、団長はもとより、もしかしたら副団長代理にすら劣っているのかも……。



「おいおい、萎える真似すんじゃねぇよ! 気迫が弱まってんじゃねぇか」



 ああ、本当に情けない。


 敵に叱咤激励されているようでは、あんまりだ。


 魔族は強い。


 恐らく、人族は遠からず滅ぼされるのだろう。


 だが、それは今じゃない。






 気持ちを切り替えろ。


 この相手に技だけでは通用しない。


 当てられない。


 ならば、天職を頼みとしよう。


 世界樹の倒壊により、使えるようになった魔法。



静止イモビラス



 聖の初級魔法。


 相手の動きをしばし止める。



「あ? 何だぁ⁉ チィッ、身体が……動かねぇ⁉」



 有効時間は数秒だろうか。


 だが、十分に事足りる。


 全速力で駆けだす。


 余力など考えず、全力を振り絞れ。


 最高火力にて、灰燼かいじんすら焼き尽くす。



付与エンチャント



 纏うは火。


 火力を限界まで上げる。


 槍が赤熱する。



閃炎フレア



 赤光しゃっこう


 突きに合わせて、直線状に閃光が迸る。


 赫灼かくしゃくたる炎熱が全てを呑み込んだ。






 魔力が尽きる。


 全身を強烈な脱力感が襲い、膝から崩れ落ちた。



「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」



 辺りには、独特の焼けた嫌な臭いが充満している。


 荒く息を吸い込む度、不快さが滲む。


 掛け値なしの全力。


 出し尽くした。


 眼前には、滅却された大地が広がるのみ。



「──決め手が火たぁ、ツイてたぜ」



 の、はずだったのに。


 焼けた大地に、未だ形を保ったままで立って居る。


 何で……どうして……。



「危ねぇ危ねぇ。碌に攻撃もさせてもらえず、くたばっちまうとこだったぜ」


「な……何で……?」


「あん? オレは火の精霊に師事してたんだ。流石に溶岩は耐えられねぇが、火耐性は頭抜けて高いってわけでね」



 失着。


 致命的な選択ミス。


 火属性で臨んだのが間違いだったのか。


 次の手は無い。


 ……ここまでか。



「……先だっての問いに答えましょう。世界樹近くの集落を襲撃したのはワタシです。殺しなさい」


「やれやれ、失敗しちまったなぁ」


「言い訳はしません」


「いや、こっちの話だ。もっとこう、攻撃の応酬っつうのを期待してたんだが」


「……相手の得意とする分野で戦いを挑むのは、愚策の極みでしょう」


「なら、お利口に考えを巡らして、どうなったよ?」


「……ですね」


「っと、偉そうに説教を垂れることでもねぇわな。最後の一撃は無様にも食らっちまったわけだしよ。いい気迫だったぜ」



 相手がゆっくりと歩み寄って来る。


 できれば、刺し違えたいところ。


 ギリギリまで引き付けて、どうにか……。



「女を、しかも美人を殺すってのは嫌な気分だぜ」



 まだだ。


 まだ堪えろ。


 脱力はしたままで、直前まで力は込めるな。



「もったいねぇこった。できれば、また美人として生まれ変わって欲しいもんだ」



 足が止まる。


 至近距離。


 生じる殺気。


 ──今だッ!



「待ちな! その拳、引いてもらおうか」



 こ、この声は……団長⁉


 槍を取り落とし、声へと振り返る。



「……そういや、アンタも騎士だったか。お仲間を助けに来たってとこかよ?」


「オレが団長を張ってる。そこの嬢ちゃんは副団長ってわけでね」



 見紛う事無き団長だ。


 既に刻印武装を召喚済みらしく、独特の丸みを帯びた鎧を纏っている。



「今度はアンタが相手をするってのか?」


「戦いは本意ではない。が、横槍を入れた自覚は当然ある。一撃ならば、殴るなり蹴るなり、好きにしてもらって構わん」


「その見た目だ、よっぽど防御に自信があるらしいな」


「ああ」


「この女は、妹を泣かせやがった」


「……命を取るほどの理由には思えんな」


「黙れ。んで、アンタは妹を守ったらしいって聞いてる」


「そうかい、それでどうする」


「女は見逃してやる。一撃云々は、まぁ、正直どうでもいい」


「そいつはありがてぇ。なら──」


「だが折角の申し出だ。こちとら、まだ満足に戦えちゃいねぇ。しかも相手は男ときたもんだ。遠慮はいらねぇな?」


「……分かった。元より、こちらが言い出したのだ。否やは無い」


「団長⁉」



 そんな、どうして団長がそんな真似をする必要がある⁉


 失敗したのはワタシで、負けたのもワタシなのだ。



「構うな。騎士の責は全てオレが負うと決めている」


「全て、だと?」


「ああ。そう言った」


「ダチがよぉ……親を殺されてんだ」


「……そうか。騎士の所業というならば、オレの責だ」


「そうかい。なら、いやが上にも気合が入るってもんだぜ」


「遠慮は無用。来い!」


「応ともさ!」



 赤い魔族が離れてゆく。


 合わせて、団長も移動してゆく。


 こんなこと、無駄でしかない。


 王都に戻れば、前回の失態と併せて罰が下される。


 あの下卑た輩に、辱めを受けるやもしれぬのだ。


 なればこそ、ここで死にたかった。


 二度と失敗できぬ身の上は、とても息苦しい。


 息が詰まる。


 早く楽になってしまいたかった。






本日はあとSSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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