SS-48 女騎士の闘い③
魔族領侵攻から壁へと帰還したワタシを待っていたのは、またしても王都からの伝令だった。
今度は南部の世界樹への襲撃に参加せよとの命令が下った。
しかも、部下を伴わず単独でとの指定付きで。
魔族潜伏の調査など、さして意味が無かったとばかりに。
もしかしたら、聖都に戻れる日は二度と訪れないのかもしれない。
またしても町の復興に碌な助力も行えないまま、出立せざるを得なかった。
倒壊した世界樹を避け、更に南下すること数日。
この世の出来事とは思えぬ光景を目の当たりにする。
動く世界樹。
自身の正気を疑うほどの異常。
ただ茫然と眺めることしかできない。
しばらく無為に時間を浪費し、世界樹群とは異なる位置にあったことを遅れて理解した。
襲撃目標は、この世界樹と見て間違いあるまい。
人族にとって、いや、全ての生物にとって、明らかな脅威。
問題はその手段。
如何に刻印武装とて、通用はすまい。
移動速度は遅く、追い付くのは容易。
巨大さ故に、見失うこともありはしない。
怯える馬を宥めつつ、一定の距離を保ち、後を追うことにした。
追跡者はワタシだけではなかった。
まさか聖騎士が、こうして直接動くことがあろうとは。
遅れて、副団長代理までもが合流を果たした。
この場に副団長と副団長代理が居るというのに、団長が不在なのはやはり……。
世界樹倒壊に巻き込まれてしまわれたのだろうか。
二人とも、所在は知らぬらしい。
何処かで療養中であるのだと思いたい。
結局、この三名で襲撃を敢行するつもりのようだ。
世界樹は定期的に移動を止め、巣食っているモノが外に出てくるんだとか。
そこを強襲する算段となった。
しかし、改めて彼の要領の良さというか、図々しさには呆れてしまう。
当たり前のように聖騎士と接しているが、一体どういう神経をしているんだか。
あの褐色の女性。
見覚えはない、はずだ。
なのに、武器といい声といい、妙に気に掛かる。
何よりも、あの銀髪の少年には見覚えがある。
忘れもしない、聖都を襲撃した魔族の1体。
ならばあの女性こそが、もう1体だったというわけか。
雪辱を果たす、絶好の機会。
が、女性の相手は聖騎士がすることになりそうだ。
副団長代理は、既に少年と交戦状態。
ワタシの相手は、残った赤い魔族か。
腰巻だけの軽装。
露出した体は、此処からでも、筋肉で引き締まっているのが分かる。
武器の類いは見受けられず、格闘主体なのだろう。
ともすれば、身体能力は相手のほうが上回っている可能性があるか。
如何に間合いに入れないかが、勝敗を分けることになりそうだ。
「妙な手心を加えるでないぞ。聖都での失態、よもや忘れてはおるまいな?」
「無論です」
「ならば良い。精霊に与するモノは、何であれ滅っするのじゃ」
「はい」
失敗すれば、この身がどうなるか知れない。
勝つ、勝たねばならない。
まずは邪魔にならぬよう、他の戦闘から離れる。
応じるように、赤い魔族も付いて来る。
「青髪の騎士、ねぇ……アンタさぁ、最近、魔族の集落を襲わなかったか?」
「──ッ⁉」
思いがけぬ問い掛けに、足が縺れた。
いきなりの失態。
生じた隙に、身を固くする。
「その反応、どうやら間違いなさそうだな。オレの妹がよぉ、随分と泣いたらしいんでな……」
予想した攻撃は来なかった。
が、続く言葉に呼応して、放たれる闘気が高まるのをひしひしと感じる。
「兄貴としちゃぁ、どうにも気合いが入っちまうぜ!」
相手の姿が視界から消える。
周囲に充満する闘気の所為で、気配も掴めやしない。
何処に居るか分からないなら、逆に確実に居ない場所へと移動すべき。
≪召喚≫
愛槍を手に取り、間を置かず次の行動へと移る。
≪付与≫
纏うは風。
≪疾駆≫
向かうは真正面。
相手が居た場所へと移動する。
「どういう理屈だ、そりゃ? そんだけデカい得物を持ったら、普通は脚が遅くなるってもんだろうによぉ」
声は至近から。
並走されている。
この状態と同程度の速度とは、恐れ入る。
正面にこそ姿は無いが、左右後ろの何処に居るかは判然としない。
視線は逸らせない。
逸らした瞬間にこそ、攻撃が見舞われる。
相手の位置を限定させる必要がある。
開けた場所では不利。
ならば、次に目指すべきは──。
目標地点に到達し、ようやく足を止め反転する。
これでもう、背後を取られる心配はしなくて済む。
「背後を取られるのを嫌ったのか? 別によぉ、真正面からやり合いたきゃあ、言えば応じてやったぜ?」
声に遅れて、相手が姿を現した。
口調こそ軽いが、放たれる闘気は未だ健在。
背後には世界樹。
先んじて攻撃すれば避けられる。
狙うはカウンター。
視認できずとも、姿が消えたら三方向へと攻撃を見舞えば終いだ。
≪付与≫
火を纏わせ、攻撃に備える。
「迎え撃つ気満々って感じだな。いいぜ、試してみるか?」
声だけ残して姿が消える。
すぐさま攻撃を見舞う。
≪爆発≫
≪爆発≫
≪爆発≫
右、正面、左へと、三連撃。
急激な魔力の消耗に、頭が痛む。
手応えは…………無い⁉
強烈な悪寒。
──上ッ⁉
反射的に、横へと跳び退く。
ドゴォン!
衝撃は至近から。
先程まで居た地面が抉れ、相手の姿があった。
本日はあとSSを3話投稿します。
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