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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
162/230

110 無職の少年、勇者に挑む④

 警戒すべきは、やはり魔法か。


 壁はまだしも、拘束してくる鎖は厄介だ。


 他にもどんなのがあるか、分かったもんじゃない。


 魔力消費は痛いが、速度重視で動くべきか。


 あるいは、視界を遮るか。


 壁にしろ鎖にしろ、対象を指定する類いのはず。


 こちらの姿を視認されなければ、食らわずに済むだろう。


 移動か、妨害か。


 いやそもそも、戦闘継続が目的ではない。


 倒すこと。


 ただそれだけを、今までずっと願って止まなかった。


 ならば、選択肢は一つきり。


 妨害だ。






 再び魔装化まそうかを解除する。


 ブラックドッグには黒霧化してもらい、相手の視界を奪う。


 覆うのは頭部のみ。



「これは──」



 動揺している隙に、鎧の隙間を短剣で狙う。



「──どう考えても悪手でしょう」



 相手の姿勢が変わる。


 立ち姿から、しゃがみ込んで地面に手をついた。


 ようやく勘違いに気が付く。


 動揺などしてはいなかったのだ。


 相手の行動に、一切の迷いが見受けられない。


 猛烈な危機感に襲われる。


 今すぐ此処を離れるべきだと、全身のあらゆるが告げてくる。


 けど、それではブラックドッグが置き去りになってしまう。



「ブラックドッグ! 戻って!」



 きっと魔法を使うつもりだ。


 妨害、拘束、攻撃。


 いずれにせよ、魔装化まそうかしていない生身の状態で受けるのはマズい。



魔装化まそうか



 ブラックドッグが戻ると同時に、鎧として纏い直す。



光剣セイバー -庭園ガーデン-≫



 暗雲に遮られた日の光に代わり、地面が世界を照らす。


 目が眩む。


 足元が光り輝いたかと思えば、光の剣が地面から生えてきた。


 果たして、放たれたのは攻撃だったのだ。


 一瞬遅れて、無理矢理にその場から跳び退く。


 周囲は突き出す剣の群れで溢れかえっている。


 無理な姿勢からだった所為で、高さも距離も稼げない。


 鎧を削る不快な音が連続する。



「ぐぁッ!」



 だけに留まらず、鎧の内側にまで届いたモノすらあった。


 剣の群れを抜けて、地面へと転がる。


 鋭い痛み。


 次第に熱を持ち、焼けるような痛みへと変じてゆく。


 頭が痛みで埋め尽くされる。


 痛い、痛い、痛い!



「あッ、つぅぅッ」



 涙が滲む。


 斬られるのが、こんなにも痛いことだったなんて。


 ジタバタと痛みから逃れるように藻掻もがく。



「ふぅ、やれやれ。ようやくこれで決着ですかね」



 敵の声を捉える。


 滲む視界で睨み付ける。



『止まれ! それ以上近付けば、容赦なく噛み砕く!』



 僕の上。


 覆い被さるように、ブラックドッグが居た。


 知らぬ間に、魔装化まそうかが解けてしまったようだ。



「2体の魔族が協力して戦っていた、と。そう言えば、以前に見かけた気もしますか。まぁ、何だって構いませんがね」



 ブラックドッグの唸り声が威圧するように響く。


 けど、奴は気にした風もなく、近づいてくる。



『警告はしたぞ!』



 ガキン。


 突然、金属音が生じた。



「今のは……風魔法? いや、斬撃のような何かが……」


『グルアアアァッ!』



 ガキン、ガキン、ガキン。


 金属音が連続する。



「何であれ、鎧には僅かの傷もついていませんし、無駄な足掻きですがね。そう焦らずとも、供に逝かせて差し上げますよ」


『その鎧はあるじの物! 返せ!』


「はい? これはまた、妙なことを言い出す魔族もいたものですね。死に際に吐く台詞がそれですか?」


『返せェーーーッ!』



 ガキーン!


 一際甲高い金属音が響き渡った。



「やはり魔族は苦手ですね。この頭の中に直接響く声が、どうにも不快で堪らない。手早く済ませましょう」



 ザシュッ。


 先程までとは異なる音。



『ガハッ⁉』



 ゆっくりと横倒しになっていくブラックドッグの体。


 あ、あああ。


 ああああああああああああああああ。



「おっと、そう言えば一つ気になっていたことがありました。何故なにゆえ、自分を執拗に付け狙うのでしょうか」



 そんな、嫌だ、嫌だよぅ。


 死なないで。


 痛みを忘れて、手を伸ばす。



「ほらほら、呆けていないでお答えください。まだ生き長らえているのは、その問いに答えさせるためだけなんですから」



 剣先で頭を数度小突かれる。


 勝てなかった、敵わなかった。


 いつも僕に付き合ってくれたブラックドッグが傷付き倒れてしまった。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 こんなの嘘だ。


 前は、ほんのもう少しで勝てたじゃないか。


 訓練だってしたのに。


 どうしてこんなことになってるんだよぉ……ッ!



「おーい、聞いてます? 人型ですし、喋れますよね」



 また頭を小突かれる。


 憎い。


 赦せない。


 堪らず、怨嗟の声を上げる。



「仇だ!」


「魔族を討伐した経験自体、あまり無いんですが。随分と運が悪かったんですね」



 ■い記憶が溢れ出す。


 恐怖を、絶望を、憤怒を。


 感触を、匂いを、死を。


 思い出す。



「オマエが殺したんだ! お父さんも! お母さんも! みんなも!」



 ズギンズギン。


 頭が割れてしまいそう。



「……どうにも解せませんね。流石に片手で数えられるほどしか覚えがありません。そのどれもが、アナタには似ていませんでしたよ」


「集落を襲って、皆殺しにした癖にぃッ!」


「──今、何と? 集落を襲う……? まさか……いやしかし、だとすると……」


「赦さない! 絶対に赦さないからな!」


「そもそもが勘違いをしていた……? 魔族ではなく人族、なのか? キミが5年前の生き残り、だと……?」



 頭から剣の感触が消える。


 何故だか剣が引かれ、鞘に納められてゆく。



「最後に見た親子……後で戻った際に死体を確認できなかったのは、動物の仕業などではなかったのですね」


「殺してやる!」


「復讐心を生きる糧としてきたのですか? 5年前のあの日から、ずっと?」


「オマエさえ、オマエさえいなければ!」


「ようやく得心がゆきました。自分が狙われる理由に」



 うるさいうるさいうるさい!



「復讐する権利がキミにはある。これが決着では、互いに悔いが残る。いずれ必ず再戦を。決着はその時としましょう」



 バシャバシャ。


 何かの液体を振りかけられた。


 同じように、ブラックドッグにも振りかけてゆく。



「その程度では及びません。仇を討ちたくば、もっと強くなることです」



 身体の痛みが治まってゆく。


 けれども、頭は未だ激痛にさいなまれたまま。



「ふざけるな! ここで倒されろよ! ここで死ね!」


「仇が死ねば満足ですか? 本当に? 自身の手で倒してこそなのでは?」


「うるさい! 喋るな! 息もするなよ!」


「聖都にてお待ちしております。いつでも挑んで来てください。できれば、もっと強くなってからお越しを」



 声が遠ざかる。


 足音も伴って。



「待て! 逃げるな!」



 動くようになった身体を起こす。


 立ち上がる。


 奴が背を向けたまま、足を止めた。



「勝ちの見込めない戦いに命を賭しますか。その蛮勇、確かに死に値しますね」



 苦しい。


 息が吸い辛く感じる。


 肌がピリピリする。



「命の賭け時を見誤らぬように。生き残ったのでしょう? 無為に散らして、勝手に満足するつもりですか?」



 さっきから、何なんだよ。


 偉そうに。


 悪いのは全部、オマエのほうじゃないか!



「これで三度、命を拾った。いずれも、自分以外の要因によって、ね。次はもうありませんよ」



 歩みが再開される。


 動けない。


 追い駆けられない。


 このまま背後から襲い掛かれば、両断される未来しか頭に浮かんでこない。


 死ぬのが怖い。


 どうしようもなく。


 仇を討てずに、死ぬことが。


 悔しい。


 折角、こうして機会が巡って来たのに。


 命を惜しんでしまう自分が情けない。


 きっと足りてないんだ。


 怒りが、憎しみが。


 ■い記憶。


 それを再び思い出す。






本日はあとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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