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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
160/230

108 無職の少年、勇者に挑む②

 ここ数日は曇天が続いている。


 昨日は灰色がかってもいた。


 もしかしたら、近々雨が降ってくるかもしれない。


 当然、それは地上での話だけど。


 普段、樹上で生活している所為か、適当な雨具など持ち合わせがないわけで。


 間に合わせに、以前着た覚えのある、フード付きのローブを纏う。



「もうすぐ到着しそうなのに、何で天気が崩れるのかしらねぇ」


「いいなぁー。雨とか珍しいじゃんかぁ」



 食事を終え、警備に向かう準備を進めていると、妹ちゃんがそんなことを言いだした。



「どれだけ珍しかろうが、眺めるのと降られるのとじゃ、感じ方も違うわよ」


「そうかなぁー。ウチ、滝とかも見てみたいんだよねぇ」


「雨の次は滝? 全然別物じゃないの」


「川とかもいいよねぇ。水が流れるのって綺麗じゃない?」


「そういう繋がりだったわけね。雨も流れてるって言えるのかは疑問だけど」



 あれ?


 滝と川って、同じものなんじゃ……。



「状況が落ち着いたら、色々と見て回ったらいいんじゃない?」


「ほぇ? どゆこと?」


「旅でもしたらってことよ」


「うえぇーッ⁉ 無茶振り過ぎるよぉ」


「不安なら兄と行けばいいじゃない。あんなのでも、旅慣れてはいるはずよ」


「ぇぇぇ……」



 あ、すっごく嫌そうな顔してる。


 以前姉さんと、いつか冒険しよう、みたいな話をしたっけ。


 話してる感じだと、一緒に行くつもりはないのかな。


 姉さんと目が合うと、口元に指を当て、意味ありげにウィンクされた。


 ……えっと、内緒にしろってこと?


 ひょっとして、姉さんも同じことを考えてたのかな。


 あれって、二人っきりでって話だったっけ?



「さ、お喋りはこの辺にして、出発しましょう」


「じゃあじゃあ、いつもどおり、スライムはウチが預けに行ってくるね」


「うん、お願い」


『オアズケ』


『オムカエ、マッテル』



 家に誰も居ない間は、ドリアードさんの住処で預かってもらっている。


 つい最近まで、向こうで過ごすことのほうが多かったのにね。



「コロポックルと喧嘩しちゃ、駄目だよぉ」


『ケンカ、イクナイ』


『ヨクナイ、ダネ』


『マチガエタ』



 スライムたちを抱えた妹ちゃんと別れ、地上の警備へと向かう。






 暗い空の下。


 まだ雨は降り出してはいなかった。


 いつものように散開し──。



「ゾロゾロと出てきおったわい」


「奇妙な移動方法ですね。転移魔法陣のような仕組みでしょうか」


「…………」



 ──待ち伏せされてた⁉


 あの老人と、白い鎧、あとは青髪の鎧姿からなる3名。



「アタシと弟君とオーガで対応するわ。みんなは戻って知らせて頂戴」


「わ、分かった」


「気を付けてね」


「い、急げ! 早く帰るぞ」



 姉さんが一番先頭に立ち、みんなを通ったばかりのゲートから逃がす。



「ふむ。わらべ以外は知らん相手じゃな」


「あの子供には見覚えがあります。例の王都を襲撃した魔族ですね」


「ほぅ? そう言えば、銀髪の子供じゃと言っておったか。やはりライカンでは無さそうじゃな」


「リーダーらしき女性の声にも聞き覚えがあります。銀髪の魔族が共に居ることから考えても、襲撃した魔族のもう一体かと」



 さっきから無言の青髪の女性。


 確か、以前に人族の町で会った人だよね。


 つまりは、人馬の集落を襲撃した相手のはず。



「おい、あの白いのが勇者だぜ」


「え」



 ズキン。


 頭が痛む。


 ズキンズキンズキン。


 ああ、やっと。


 ガンガンガンガンガンガンガン。


 やっと終わらせられる。



魔装化まそうか



 ローブを脱ぎ捨てる。


 黒い霧が黒い鎧へと変じてゆく。



「弟君⁉ 駄目よ、待ちなさ──」


「うわあああぁぁぁぁぁ‼」



 体当たりするように、白い鎧へと突撃した。






 敵がばらけた。


 他には構わず、勇者だけを追い駆ける。



「やはり自分を狙ってきますか。しかし、前回のようにはいきませんよ」



 喋るな!


 息もするな!


 焼きつく思考に引きずられぬよう、必死に力を制御する。


 以前の失敗から学ばないと。


 魔力が尽きたら負ける。


 跳び退いた相手に向け、攻撃を放つ。


 背から生やした黒いつた


 先端には短剣を模して、相手を穿つ。



「以前とは姿形も異なりますか。ライカンスロープではないというのだけは、確かなようですね」



 腰に差した剣を抜いて応戦してきた。


 つたと剣が激突し、弾かれ合う。


 訓練の成果か、短剣は砕かれていない。


 さらにもう1本追加して襲う。



「形は自在と言うわけですかね。体そのものが武器であると考えたほうが良さそうですね」



 ……おかしい。


 以前はもっと圧倒できたはず。


 相手が強くなってる?


 いやでも、まだ魔法は使われてない。


 なら、どうして。


 移動し続ける相手を追い駆けながら、2本のつたで攻撃を見舞う。


 左右や前後から挟んだり、タイミングをズラしたり。


 色々と試す。



「……まだもう少しかかりますか。鎧を着込んだまま走り回るのは、中々に疲れるんですがねぇ」



 やっぱりおかしい。


 全部が全部、弾かれたり避けられたりしてるわけじゃない。


 何回かは鎧に当たっているはずなのに。


 少しの傷も付いてやしない。


 いつだかのデヴィルと同様、相手の防御が上回ってて、攻撃が効いてないんだ。


 なら、この攻撃自体が魔力の無駄遣いか。


 つたを解除して立ち止まる。



「おや? もう追い駆けっこは終わりですか?」



 相手も少し離れた位置で立ち止まってみせた。



「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」



 途端に疲労感が込み上げてくる。


 気が付けば、息も上がっていた。


 相手を追い駆けてた所為か。



「せっかく消耗させたのに、休憩されては堪りません。今度はこちらから攻めるとしましょうか」






前回の対決から、実に100話以上がかかりましたか。

ようやくの勇者との対決です。



本日は本編110話とSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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