106 無職の少年、盲点
▼10秒で分かる前回までのあらすじ
世界樹は落下した穴からどうにか脱する
その期に乗じたのか、聖騎士の一人が襲撃を仕掛けてきた
サラマンダーが撃退するも、協力してくれた皆はそれぞれの住処へと帰還した
よっぽどゆっくり動いているのか、樹上集落に居ても揺れを感じない。
元の場所へと、今も移動し続けているはずなんだけど。
世界樹が暴走した際、一日どころか半日も移動してはいなかった。
それでも、元の場所へと移動を開始してから数日が経過したのに、未だ到着してはいない。
これだけ時間が掛かっているのは、主に2つの理由なんだろう。
1つ目は当然、この移動速度によるもの。
とにかく遅い。
暴走していた時と比べれば雲泥の差。
これならまだ、歩いたほうが早いんじゃないかってぐらい。
そして2つ目は、ドリアードさんの魔力。
都度休憩を挟みつつの移動は、より多くの時を費やすことになっていた。
「いい加減、自分の家に帰ったらどうなの? ご両親も心配してるんじゃない?」
ドクン。
胸が疼く。
「だってぇ~」
「折角、久しぶりに全員が揃ったんでしょう」
「うぅ~~~」
最近恒例となった、朝の食卓の光景。
妹ちゃんが、連日泊まり込んでいた。
「そんなに嫌? けど、嫌いってわけじゃないんでしょ」
「それはッ! でもでもぉ~、すぐ酷いこと言っちゃうしぃ。父ちゃんと母ちゃんも、困らせちゃうんだもん」
ドクンドクン。
胸が疼く。
「全く……難儀な兄妹ね」
「……ウチが居ると迷惑?」
「そんなわけないじゃない。好きなだけ居てくれて構わないけど、いつまでもこのままじゃ駄目よ」
お兄さんが帰って来たことで、ギクシャクしちゃってるみたい。
修行に旅立つ前は、仲良くしてた覚えがあるんだけど。
久々に会うと、そうもいかないのかな。
『オトマリ、シナイ?』
「う……ゴメンね。泊めてあげるのは、まだ無理かもぉ」
『ガンバ!』
スライムたちを妹ちゃんの家に泊めてあげるって話だったけど。
結局、泊めてあげられてない。
「さてっと。またお昼ごろに移動が止まるみたいだから、今のうちにしっかり食べておかないと持たないわよ」
「ウチ、また上なんだよねぇ? オネーチャンたちと一緒がいい~」
「妹ちゃんは弓使いなんだから、こっちの警備のほうが向いてるでしょ」
「だってぇ~」
「それとも、兄と一緒に居たかった?」
「ち、違ッ⁉ 違うよ!」
「はいはい、揶揄って悪かったわ。地上よりかは安全だと思うけど、油断しないようにね」
世界樹の移動が止まっている間、樹上と地上とで警備を行っている。
樹上には、遠距離攻撃や、空を飛べるモノが担当。
妹ちゃんやアルラウネさんが参加してる。
地上は、それ以外のモノが担当。
姉さん、僕、オーガ兄を含む面々だ。
そもそも、姉さんが居なければ、地上との行き来もできやしない。
ドリアードさんが元気なら、門を使ってもくれるんだろうけど。
それで魔力を消費するぐらいなら、世界樹の移動を優先して欲しい。
「もう2・3日の辛抱よ。今の調子なら、それぐらいで着くはずだから」
「そしたら、ごーれむちゃんのお見舞いに行ける?」
「そうね。そのぐらいの時間は作れると思うわ」
「……大丈夫だよね? ケンネェが治してくれてるよね?」
「例えどんな結果になってたとしても、賢者を責めないこと。それが約束できるなら、連れて行ってあげるわ」
「……そんな約束なんか、できるわけないよぉ」
『トモダチ、オコマリ?』
『イジメ、ヨクナイ!』
「イジメてるわけじゃ──って、確かに意地が悪かったかしらね」
姉さんたちの様子からして、絶対に助かるって怪我じゃないみたい。
見知った相手。
話しもしたし、触れもした。
親しいとまでは言えないけど、助かって欲しいと思う。
微妙な空気になった食卓。
払拭すべく、話題を探す。
「えっと……そう、果樹園を元通りにできるといいですね」
「果樹園? そうねぇ……でもまずは、ケンタウロスの家のほうが先決かしら」
「全部、壊れちゃったもんね」
『クダモノ、シンパイ』
『オネガイ、ナオシテ』
「それには、人族の侵攻を防がないとね。やっぱり、世界樹の倒壊をどうにかしないとかしら」
おっと、思ってたのと話題の進み方が違った。
な、何とか前向きな話題にしないと。
「人族って、世界樹が倒れた場所から侵入してるんですかね」
「流石に、上空や地下からってことはないでしょうし、そうなんじゃないかしら」
「なら、塞げばいいんじゃないですかね」
「世界樹が元の大きさに成長するには、相応の時間が掛かるって話だったわ」
「いえ、そうではなくて、姉さんが岩壁で塞げないんですか?」
「あ」
姉さんが硬直した。
しばし、沈黙が流れる。
「そ、そうよね、よくよく考えてみれば、何も世界樹だけに頼らなくても、どうにかできるかもしれないわね」
世界樹の暴走を止めるため、姉さんが巨大な岩壁を出現させていた。
あれなら、侵入して来れないように塞げるんじゃないかなって。
ようやく姉さんも思い当たったみたい。
「じゃあじゃあ、集落も直せる?」
「案外早く、着手できるかもしれないわね」
「ホント⁉ やったぁーーー!」
「随分とあの集落のこと、気に入ってたのね」
「だってぇ、みんな仲良くしてくれたし」
「思い込みって怖いわね。弟君、ありがとね」
「いえ。お役に立てて何よりです」
やっと食卓の空気が改善できたかな。
後片付けを終えたら、洗濯を済ませておかないと。
本日は本編110話とSSを1話投稿します。
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