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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-44 オーガ兄は観戦す

「うおぉ⁉ な、何だぁ⁉」



 2日だか3日だかぶりの眠りを、強い揺れにより妨げられた。


 地面から上体を起こし、状況を探る。


 確か、姐さんたちが世界樹を穴から出してる最中だったはず。


 そいつが失敗でもしたのか?


 ……いや、空気が妙にひりついてやがる。


 どっか近くで戦闘でもしてるのか。



『目覚めたか』


「うッス。これってもしかしなくても、師匠ッスか?」


『ああ、襲撃のようだ。我を制し、喜び勇んで向かって行った』



 寝込みを襲われないよう、ドラゴンのそばで寝ていたわけだが。


 よりにもよって、オレが寝ている時に襲撃して来なくてもいいだろうに。


 って、待てよ。


 アルラウネさんが警備を代わってくれたが。


 そばに妹やダチも居たよな。


 まさか、襲撃に巻き込まれてねぇだろうな⁉


 勢いを付けて立ち上がる。



『行くつもりか?』


「モチのロンッスよ!」



 言い捨てて駆け出す。






 何だありゃあ……白髪の爺さん?


 襲撃者ってアレか?


 まぁ、常人じゃあねぇみてぇだが。


 師匠よりもタッパは低いな。


 枯れ木みてぇな痩躯だし、一撃でも当たりゃ終わるだろうに。


 勝負がついてねぇってのは、やっぱあの素早さの所為か?


 っと、それよか、妹たちは無事か⁉


 姿は……見当たらねぇな。


 巻き込まれはしてねぇ、のか?


 ったく、無駄に焦らせやがって。


 もうちぃっとばかし近づいて、様子を見ておくか。







 師匠のほうが速い。


 逃げる相手に追いつき、幾度も攻撃している。


 が、ことごとく当たらない。


 綿毛か木葉のように、するりと躱してみせる。



「チッ、ちょこまかと避けやがって」


「その炎の化身の如き姿、やはり精霊じゃな?」


「だったらどうしたよ。ビビってる……ってわけじゃねぇよな。殺気がハンパねぇしよぉ」


「世界に巣食う害毒めが。根絶やしにしてくれるわい!」



≪召喚≫



 今まで距離を詰めてた師匠が、いきなり跳び退いた。


 何だ?


 何かを避けてる?


 老人が手を振るうのに合わせて、師匠が場所を移動してゆく。



「ほほぅ、初見で避けてみせるか。攻めるしか能がないかと思ったが、意外に冷静じゃのう」


「めんどくせぇ真似しやがって。それで全力か?」


「敵の言葉を信じる輩か? 愚かよのう」


「喧嘩相手にゃ向かねぇな」


「喧嘩じゃと? 余程頭がおかしいらしいのう」


「殺し合う覚悟もねぇ癖しやがって、吹かしてんじゃねぇぞ。テメェがやってんのは、一方的な殺しだろうが」


「……ほぅ、何故そう思う」


「大方、毒でも塗ってあんだろ。つまんねぇ相手だぜ」


「毒じゃと? なるほどなるほど。それで避けておったわけか」



 毒⁉


 あのジジイ、陰湿な真似しやがって!


 こっからじゃ、何の攻撃してんのかまでは見えねぇが。


 やっぱ、何かを投擲してるっぽいよな。



付与エンチャント



「んだぁ⁉ 何でいきなり……ゴボッ⁉」



 師匠が突然、水の柱に閉じ込められた。


 どっから水なんて出て来たんだ⁉


 まさか、魔法か?



「何も分からぬままに、死にゆくがよい」



 ……ま、何にしても、だ。


 あのジジイは死んだな。






「む? 何じゃと? 水が泡立っておるのか?」



 水の柱に水泡が無数に生じた。


 かと思えば、もう内部が見通せないほどにまで、泡だらけになっている。


 師匠は火の精霊。


 溶岩を風呂代わりにしてるんだ。


 そんな水量じゃ、師匠の火は消せねぇっての。



「沸騰しておるのか⁉ 閉じ込めただけでは不十分じゃったか」



 ジジイが大きく後方へと跳躍した。



「口惜しいが、必殺とならぬ以上、長居は無用じゃな」



 そのまま脇目も振らず走り去って行く。


 んな、逃げんのかよ!


 追い駆けようと身体が反応するのを、必死に堪える。


 これは師匠の喧嘩だ。


 手を出せばただじゃ済まねぇ。


 真っ白に染まった水柱が、物凄い音を立てて弾け飛んだ。


 いや、蒸発したのか。


 中心には湯気を上げる師匠の姿。



「おいおい、喧嘩の途中で日和ひよってんじゃねぇぞ」



 あ、これ、ヤバいヤツじゃね?


 全力で駆けだす。


 とにかく離れねぇと、巻き込まれかねない。



魔装化まそうか



 チラッと振り返ると、師匠の右腕だけに、巨大な籠手が出現していた。


 籠手が赤く発光し始める。


 どんどんと光量を増し、遂には直視できないほどに白化してみせた。



「消えろ」



 眩しッ⁉


 世界が白く染まる。


 目を瞑るだけじゃなく、腕で目を覆う。


 同時に足を止めて地面に伏せる。


 次に感じたのは熱。


 この距離でも身体が焼け出しそうだぜ。


 マジでジジイを追い駆けなくて良かったな。


 不思議と音はしなかった。


 熱と光が無くなったのを感じて、恐る恐る師匠のほうを確認する。


 師匠の正面。


 直線状に抉れた地面が、妙な光沢を放っている。


 もしかして、ガラスになってないかあれ。


 ジジイの姿は見当たらない。


 当たっていれば蒸発しているはず。


 師匠が魔装化まそうかを解いたのを確認してから近づく。



「師匠、大丈夫ッスか」


「ちっと気張り過ぎたな。魔力をかなり消費しちまった」


「もう帰るッスか?」


「満足ってわけにゃいかねぇが、仕方ねぇな」


「にしても、あのジジイ、何を投げてやがったんスかね?」


「知らねぇ。そこらに落ちてんじゃねぇか」



 言われて、まだ無事な地面を探してみる。


 と、キラリと何かが光った。


 細い、棒状の何か。


 手の平ほどの大きさがあり、両端が尖っている。


 これは……針、だろうか。



「おい、触んなよ。マジで毒が塗ってあってもおかしくねぇんだからな」


「う、うッス」



 他の場所も探してみるが、やっぱり針っぽいのが落ちてるだけだ。


 これを投げてたってことか。


 まるで師匠を囲むように落ちてるな。



「あ」


「あん? どうかしたか?」


「消えたッス」


「は? 何がだよ?」


「ジジイの投げてたっぽい針ッス。いきなりパッと消えたんスよ」



 今見てた物だけじゃない。


 さっき見つけた物も消えて無くなっていた。



「まさか、溶けたんスかね」



 何製だか知らないが、塗布されてた薬物で溶けたとかじゃないよな?


 マジで触ってなくて良かったぜ。



「さあな。さっきので消し飛んでりゃ、二度と見ずに済むんだろうがな」


「え、逃げられたんスか?」


「多分な。武器といい、水といい、妙な真似ばっかしやがって」



 水は魔法っぽかったけどな。


 毒との合わせ技とか、エグいよな。



「って師匠! さっきの水に毒が含まれてるかもしれないッスよ!」


「……確かに、そいつは厄介だな。蒸発してりゃいいが……どっかで水浴びでもして帰るか」



 み、水浴び⁉


 例え裸体でなくとも、エロい!


 水場、水場は何処だぁーーー⁉






本日は本編105話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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