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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
154/230

103 無職の少年、時間稼ぎ

 声が遠ざかる。


 もう追っては来てないみたいだ。


 魔装化まそうかを解いて速度を緩める。



『ハヤカッタ!』


『マタ、ヤッテ!』



 スライムたちが腕の中ではしゃいでいる。


 判断は間違ってなかったはず。


 もしかしたら、喪われていたかもしれなかったのだから。


 抱きしめる力が増す。



『『ギュー』』



 苦しそうな声ではない。


 むしろ喜んでる?



「オトートクン! 大丈夫だった⁉」


「う、うん。すぐに逃げて来たから」


「ウチ、先に離れちゃってゴメンね」



 いや、離れてくれてて助かったぐらいだ。


 妹ちゃんまで抱えてたら、きっと追い付かれてたと思うし。



「気にしないでいいよ」


「でも……」


「相手は普通じゃなかった。多分、姉さんとかじゃないと勝てないと思う」


「なら、早く呼ばないと!」


「そうだね。後、みんなを避難させておいたほうがいいかも」


「そんなに危ない感じ?」


「念の為だよ」



 お爺さんに見えたけど、絶対に普通の人じゃなかった。


 サラマンダーさんが応戦してくれてるはずだけど。


 戦闘音が響いてこない。


 遠くまで移動したのかな。


 ともかく、姉さんの元へと急ぐ。






 見るからに、姉さんたちは消耗しきっていた。


 息を荒げて、地面に座り込んでいる。


 とてもじゃないけど、戦えるような状態には見えない。


 同じことを思ったのか、妹ちゃんも押し黙っている。



「ハァッ、ハァッ……あら? 弟君、どうかした?」


「いえ、あの……」


「敵が来たみたいよ。今はサラマンダー様が応戦してくださっているようね」


「敵ですって⁉ ──クッ⁉」



 事情を把握していたらしいアルラウネさんが、すぐそばまで来ていた。



「その様子じゃ戦闘は無理そうね。ゲートならどう? せめて皆を集落へ避難させたいのだけど」


「ハァッ、ハァッ、おちおち休んでもいられないってわけね」


「誰も無理しろとは言ってないわよ」


「分かってるってば。単なる軽口よ。ちょっと待ってて、今──」


「待て。ノームは預けてあったはずだな?」


「え? えぇ、ドリアードの住処に居てもらってるはずよ」


「ならば、そのまま休んでいろ。ゲートはこちらで繋ぐ」


「……いいの? 消耗してるのはお互い様でしょ?」


「世界樹の移動は完遂した。こちらはもう帰るのみ。すぐに休める」


「なら、頼んでもいい?」


「娘よ、そこは頼るの間違いだろう」


「……ありがと」



 グノーシスさんが力強く立ち上がる。


 もう、消耗している様子は微塵も見受けれない。


 疲れてないはずがないのに。



「長くは維持できん。一度に済ませてくれ」


「承知しました。すぐに皆を集めて参ります。それまではどうか、お休みになってください」



 そう言うと、アルラウネさんがみんなの元へと駆け出して行った。






 突然、辺りが眩い光で満たされた。


 堪らず腕で目を庇う。



「眩しいよぅ⁉ 何なのこれぇ⁉」


「どちらかが、強力な攻撃を仕掛けたらしいな」


「冷静に言ってる場合? 多分これ、サラマンダーの仕業っぽいわよね」


「後のことを考えない力の使い方に思える。仕留めきれてなくば、出番だろうな」


「仕方ないわね。なら、避難する時間くらい稼がないとね」



 この眩しいのは、サラマンダーさんの攻撃らしい。


 姉さんは消耗したまま戦うつもりみたいだし。


 ブラックドッグはまだ元気にしてる。


 無駄に消耗しなかったのが幸いした。


 なら、姉さんを手伝うべきだ。


 光が止むのを待って、姉さんの姿を探す。


 もう、歩きだしていたので、それに続く。



「弟君? 付いて来ちゃ駄目よ。危ないわ」


「僕も手伝います」


「駄目。残ってて」


「僕もブラックドッグも、まだ動けます」


「……もう。ならせめて、スライムたちは誰かに預けてきなさい」


「あ」



 腕に抱いたままなのを忘れてた。


 急いで妹ちゃんの元へと走る。



「スライムたちをお願いしていい?」


「いいけど、オトートクンはどうするの?」


「姉さんを手伝ってくる」


「それ、危なくない?」



 当然、危ないんだろう。


 だからこそ、姉さんを一人では行かせられない。



「じゃあ、またね」


「気を付けてね! ちゃんと帰って来ないと駄目だよ!」



 手を振り返しながら、姉さんの元へと駆け戻った。






 何でか、アルラウネさんが先に来ていた。



「みんなの避難はどうしたのよ?」


「グノーシス様の元に集まるように指示はしといたわ。避難の時間稼ぎに来たのよ。アンタと同じようにね」


「精霊が戦ってる相手なのよ?」


「だから何? 相手が何であれ、やるだけよ」



 そう言えば、敵の姿をまだ伝えてなかったかも。



「あの、相手は人族のお爺さんでした」


「そうなの? 人族ってことは騎士の可能性が高いけど」


「えっと、鎧は着てなかったと思います」


「何にせよ、油断しないようにね」



 姉さんの言葉を受け、気を引き締める。


 視線の先からは、戦いの様子は見受けられない。


 サラマンダーさんが倒したのかな。


 そのほうがいい。


 戦いたいわけじゃないんだし。


 すると、薄っすらと人影が見え始めた。


 影は……2つ?


 まだ戦ってる最中だったり?


 緊張が増す。



「んー? あれって、サラマンダーとエロガキ──コホン、オーガの兄のほうじゃないかしら」


「よく見えるわね。まだ人影っぽいとしか分からないわ」


「戦ってるって雰囲気じゃなさそうよ。こっちに歩いて来てるみたいね」



 ふぅ、なら良かったぁ。


 少し経つと、ようやく姿が見えてきた。


 サラマンダーさんが疲れてるように見える。



「姐さんたちじゃないッスか! どうしたんスか?」


「敵は? 倒したの?」


「いや、多分仕損じた。妙なジジイだったぜ。また襲って来るだろうな」


「そんな⁉ 精霊様でも倒せない相手なんて……」


「ちげぇ! 逃げられただけだ。勝てねぇ相手じゃねぇ」


「す、済みません」


「あ、そうだったッス。この近くに水浴びできる場所って無いッスかね? もしかしたら、師匠が毒を浴びたかもしれないんスよ」


「え、毒⁉ ちょっと、大丈夫なの⁉」


「かもしれねぇ、ってだけだ。敵の攻撃を食らっちまったからな」


「水場に心当たりはないわね」


「あの、水魔法なら使えますけど」


「あー、まぁ、結果的に洗い流せりゃ構わねぇか。わりぃが頼むぜ」


「は、はい!」



水塊マッセ・ロー



 アルラウネさんが、空中に水の塊を作り出してみせた。


 何となく見覚えのある光景。


 あ、もしかして、空から落ちて来た時にぶつかった水って、アルラウネさんの魔法だったのかな。



「じゃあ、落としますよ」


「ああ、やってくれ」



 バシャン!


 ずぶ濡れになるサラマンダーさん。



「あー、何か思ってたのと違うッスねぇ……」



 オーガ兄が、何事かを呟いていた。






本日は本編105話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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