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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
153/230

102 無職の少年、見張り番

 特に異常もなく休憩の番を迎えた。


 警備に就いてない、みんなの所まで戻る。


 昨日提供された食料と水樽の一部が残されていた。


 お腹は減ったし喉も乾いてる。


 催促されるまでもなく、果物を2つ確保し、自分の分を見繕う。


 妹ちゃんも果物を1つ取って、後は水分補給をすることにしたみたい。


 世界樹の外だとお腹が減るはずだけど、そもそも人族以外だと、一日一食しか必要としてない。


 精霊なんか、食事は不要なぐらいだし。


 いや、厳密には魔力が必要なんだろうけど。


 世界樹に戻れば、大丈夫だとは思う。


 ブラックドッグはそれでいいとして、グノーシスさんも住処へと帰ってもいる。


 ただ、サラマンダーさんは外に居続けて大丈夫なのかな。


 詰まるところ、異常に食べるのはスライムだけ。


 誰かが持ってきたらしい、布の上に腰かける。



『キューケー?』


「そうだよ。正しくは休憩だけどね」


『キュウケイ』


「そうそう。じゃあ食事にしよう。はい、果物」



 丸ごと渡すのではなく、短剣で四等分にして、一切れずつ渡してあげる。



『アリガト!』


『タスカル!』


「お水も貰ってきたからね」


「オトートクン、スライムのお世話に慣れてるねぇ」


「そうかな?」



 何だかんだ、最近は一緒に居ることが多い。


 だからじゃないかな。



『オセワ、サレタ?』


『メイワク、カケタ?』


「そんなことないよ」



 見上げてくるスライムに、微笑みかける。



「何かねぇ、オトートクン、優しくなった気がする」


「うーん、そうかなぁ」



 特に接し方を変えたつもりはないんだけど。



『トモダチ、ヤサシイ』


『ダイスキ!』


「じゃあじゃあ、ウチは? 好き?」


『『フツウ』』


「ひっどぉーい!」


『『ピキィ⁉』』



 立ち上がって追い駆け回す妹ちゃん。


 逃げ惑うスライムたち。


 集落のみんなが、こちらを見てクスクス笑ってるのが聞こえてくる。


 恥ずかしい。


 明らかに目立っている。


 縮こまりながら、食事を手早く済ませる。


 あ、そうだ。


 姉さんに差し入れをしたほうがいいかな。


 休憩ぐらい、取ってるかもだけど。


 あーでも、姉さんも小食だし、食事よりかは水のほうが良さそう。


 なら、グノーシスさんにも持って行ってあげよう。


 毛玉たちには……差し入れるなら樽ごと必要だよね。


 ど、どうしよう。






 取り敢えずは、姉さんたちに水を差し入れることにした。


 地面に手を突いたまま、微動だにしない姉さんたち。


 声を掛けていいものか戸惑ってしまう。



「どしたの? 水渡さないの?」


「う、うん。邪魔にならないか、心配になっちゃって」


「声掛けて反応無いなら、そばに置いておけばいいんじゃない?」


「そっか、そうするよ」



 意を決して近づく。


 みんなの居た場所とは違って、此処は凄く静かだ。


 息遣いすら聞こえてこない。


 姉さんのすぐ隣りに立っても、反応はない。



「あ、あのぉ、姉さん?」



 恐る恐る声を掛けてみる。


 少しの間待ってみても、反応がない。


 必要なのは姉さんとの会話じゃなく、水を渡すこと。


 妹ちゃんの提案に従うべきだろう。


 水の入ったコップをそばに置いて立ち去ることにする。


 グノーシスさんのそばにも同じように置いて、できるだけ邪魔にならないよう、静かに妹ちゃんたちの所へと戻る。



「すっごく集中してるみたいだねぇ。邪魔しちゃ悪いし、そろそろ戻ろっか」


「うん、そうだね」



 休憩を終えて、再びの警備に就く。






 休憩前と違って、やる気を失ったのか、それとも集中力が切れたのか。


 妹ちゃんがスライムと戯れ続けていた。


 それだけ、何の変化もないんだけど。


 人族は疎か、魔物の姿も見掛けない。


 不思議と、動物すら近づく気配がない。


 突然現れた世界樹を警戒してるんだろうか。


 こうも暇だと、時間を無為にしているように感じてしまう。


 訓練でもしたほうが、よっぽど有意義じゃないかって。


 でも、こっちの都合なんて相手が考えるはずもない。


 相手が何であろうとも、だ。


 サラマンダーさんやドラゴンも、変わらず周囲を警戒してくれているんだろう。


 けどそれもまた、関係がない。


 任された役目を、僕がどうするのかってことなんだから。


 ジッと見つめていれば、どんどんと視界がぼやけてくる。


 そうなる前に、顔ごと視線を移動させて、意識を保つ。


 左、正面、右、正面、左、正面、右。


 繰り返し繰り返し。


 どうやるのが正しいのかなんて分からない。


 それでも、自分なりに工夫してこなしてみる。


 立ってるのがしんどくなれば、しゃがんでみたり、座ってみたり。


 どれだけ気を付けていても、注意力が散漫としてしまう。


 いつの間にか空を見上げてたりとか。


 地面に指で何かを描いていたりとか。


 意外と難しいや。






 世界樹のほうから歓声が聞こえてきた。


 もしかして、作業が終わったのかな。



「ウチ、見に行ってくるー」



 完全に飽きてたらしい妹ちゃんが、返事も待たずに駆け出した。


 他の警備の組も、ゾロゾロ引き上げ始めている。



『オイテキボリ?』


「もうちょっと、待ってよっか。見張りが居ないと危ないし」


『ミハリ、ツヅケル?』


「うん。念の為、ね」


『ホカ、イナイ』


『ダイジョブ?』


「友達が居るからね」


『トモダチ!』


『イッショ!』



 ピョンピョン周りを跳ね回るスライムたち。


 っと、そっちを見てちゃ意味がないよね。


 周囲を警戒しないと。



「──魔物をはべらせるなど、普通のわらべではあるまいな」



 人の声。


 いつの間に近づいていたのか。


 反射的に声のほうへと向く。


 すると、白髪の老人がすぐそばまで迫っていた。


 見覚えのない人族。


 さっきまでは確かに、近場には誰も居なかった。


 つまりは……敵!


 戦うか否か。


 判断は一瞬。



魔装化まそうか



 スライムを抱えて、世界樹に向け全力で駆けだす。



「敵です! 敵が来ましたー!」


「ほほぅ、誰何すいかも戦いもせず、いきなり逃げを打つか。小癪こしゃくわらべよのぅ」



 声が離れない。


 付いて来てる⁉


 こっちは全力で逃げたのに。



案内あない苦労。こやつら皆、精霊の一味というわけじゃな」



 みんなを避難させる余裕もない。


 姉さんたちに余力は残ってるだろうか。


 でも、あの場で戦ってたら、またスライムが犠牲になりかねなかったし。


 あんな思いは二度と御免だ。



「さて、ようやくの悲願成就の時じゃ。存分に屠ってやろうぞ」


「んだよ。殺気の主はジジイかよ」


「何奴⁉ どこから現れおった⁉」



 背後で衝撃が生じた。


 直前に聞こえた声は、サラマンダーさんだった気がするけど。


 振り返ることなく、姉さんたちの元へと急いだ。






本日は本編105話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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