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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
150/230

100 無職の少年、いつか行こうね

「おはよ。よく眠れた?」


「…………え⁉ 姉さん⁉」


「あら? 思ってた反応とは随分と違うわね。何でそんなに驚いてるのかしら」



 朝……なんだよね?


 なのに何で、姉さんが僕より早く起きてるんだ⁉


 もしかしなくても、僕が寝過ごしてる⁉


 慌てて吹き抜けの空を見つめる。


 たたえる色は青黒い。


 空気も冷たく感じる。


 あれ、まだ夜明け前?



「慌てなくても、まだ早朝よ。少し気が昂ってたみたいで、いつもより早く目が覚めちゃったのね」



 いつもなら朝を過ぎて、昼ぐらいまで寝続けかねないのに。


 早起きだと、逆に心配になってしまう。



「あの、体調は大丈夫なんですか?」


「もう、朝の挨拶よりも、お姉ちゃんの心配が先なの?」


「えっと、その、おはようございます」



 優しく微笑みながら、抱擁が強められる。



「弟君はいっつも早起きよね。ちゃんと睡眠が取れてるか心配になるわ」


「それこそいつものことですから。自然に目が覚めちゃいますし」


「無理してない? もっとゆっくりしてていいのよ」


「無理なんてそんな。今は僕よりも姉さんのことですよ。睡眠時間が明らかに足りてないじゃないですか」


「お姉ちゃんだって、偶には早起きぐらいするわよ」


「まさか、寝てないとかじゃないですよね?」


「心配し過ぎよ。ついさっき起きたところ」



 疲れてないはずがない。


 今日だって、世界樹を穴から出す作業があるって言うのに。


 本当に大丈夫なんだろうか。



「せめて、まだ横になっててください。食事の用意をしてきますから」


「今日も手抜きでいいわよ。お腹が空くまで、まったりしてましょ」


「え、でも」


「いいから、ね?」



 今までも、スキンシップを取りたがることはあった。


 今回もそういうことなのかな。


 別段、拒む理由も見当たらないし、姉さんの気の済むようにしよう。






 真っ先に空腹を訴えて来たのはスライムだった。


 苦笑しながらも頷く姉さんに従い、みんなで一階へと下りる。



『クダモノ!』


「まだ残ってたかな。探してみるね」


『ドキドキ』



 これで見つからなかったら、ゲルゲルしちゃいそうだ。


 けど、昨日貰った食料があるし、最悪はあっちを頼ろうかな。


 果物が含まれてたかは分からないけど。



「あ」



 あったはあった。


 けど、1個だけ。


 以前ならこれで十分だったけど、今は2体居るわけで。


 どうしよう。



『マダカナ?』


『オマチカネ!』


「う、うん。あったにはあったんだけど……1個だけ」


『ナント⁉』


『ソウダツセン!』


「はいはい、暴れようとしないの。ホント、果物のこととなると見境がなくなるんだから」



 姉さんが席を立つ。


 そのまま玄関へと向かって行く。



「物資は集落に運び込んではあるし、ちょっと取ってくるわ」


「待ってください、姉さん!」


「ん? なあに?」


「まだ下着姿のままです」


「っと、ついつい服着るのを忘れちゃうのよね」



 素早く踵を返し、二階へと駆け上がって行く。



『クダモノ、フエル?』


「姉さんが取ってきてくれるって。少しだけ待ってようね」


『アリガト!』


「お礼は僕じゃなく姉さんに言わないと」


『マチガエタ』


『アネ、カンシャ!』


「まだ言うのは早いけどねぇー」



 着替え終えた姉さんが、そのまま玄関へと向かう。



「じゃあ、今度こそ行ってくるわ。どうせだし燻製肉とかあれば貰ってくるわ」


「そうですね。調理せず食べられますし」


「それじゃ、護衛はお願いね」


『ああ、任された』



 ブラックドッグと短い遣り取りを終え、家から飛び出して行った。






 改めての食卓。


 並ぶのはパンと野菜と燻製肉。


 あと、スライム用に果物が2個。



「「いただきます」」


『イタダク!』


『マス!』



 果物が無くなるのは一瞬。



『ムシャムシャ』


『ウマウマ』



 最早、乗っかるようにして体内へと取り込んでしまう。



「丸ごとあげないで、切り分けてあげたほうがいいのかもね」


「どうしてですか?」


「そのほうが、1個で何回も食べられるでしょ? まぁ、一度に全部食べちゃったら別だけど」


「なるほど。次回はそうしてみます」



 すぐ丸ごと食べちゃうから、食べさせ方なんて気にしてなかった。


 確かに、何回かに分けたほうが、食べたっていう満足感はあるかも。


 沢山食べようともするし、そのほうが良さそう。



「お肉も、切り分けたほうが良かったですね」


「そう? あ、もしかして噛み切れない?」


「はい。ちょっと、食べ辛いですね」


「流石に手を抜き過ぎたかしら。冒険だと、よく鍋に入れてスープにしてたみたいだけど」


「冒険、ですか?」


「父の話を思い出してね」



 ドクン。


 胸が疼く。



「えっと、冒険者とかっていうのなんでしたっけ」


「そうそう。世界中を旅したって話よ。大抵は戦いか食事だったわね。真似したくない食事もあったけど」


「へぇ。グノーシスさんと行かれたんですかね」


「まさか。1人か、仲間と一緒だったはずよ」


「姉さんは行かなかったんですか?」


「多分、何回かはあったはずよ。日帰りか、一泊程度らしかったけど。自分では覚えてないのよね」


「そうだったんですか」


「いつか、一緒に行ってみる?」


「うーん。例えば、洗濯とかってどうするんですか?」


「そりゃあ、人家に泊れなかったら、水場で洗うしかないんじゃない」


「トイレは?」


「それもまぁ、自然の中で済ませるしか」


「……大変そうですね」


「嫌?」


「楽しそうとは思えませんね。やってみないと分からないかもしれませんけど」


「もう! 行きたいの? 行きたくないの? どっち⁉」


「長い期間でなければ」


「行きたいか、行きたくないか」


「い、行きたい、ですよ?」


「よろしい。約束よ?」


「ただ、前もって知らせてくださいね。いきなり連れてかれるのは嫌です」


「そんなことしないわよ」


『ボウケン?』


『ドッカ、イク?』


「そういえば、冒険って具体的に何することなんですか?」


「えー、そこからー?」



 呆れたような声を上げられた。


 けど、どこか楽しそうに冒険についてのアレコレを説明してくれる。


 砂漠やら大森林やら高山やら。


 散歩の延長線上には無い代物らしかった。






本日はあと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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