表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
149/230

99 無職の少年、再びの片付け

 サラマンダーさんたちに周辺の警戒を任せて、世界樹の集落へと戻る。


 家の見た目に変化はないけど、内部はそうもいくまい。


 せめて寝られる程度には片付けないと。


 あと、お風呂にも入っておきたい。



「フゥ、やっと帰って来れたわね」


「ですね」


「急いで片付けちゃわないと、すぐ朝になっちゃいそうね」


「まずはベッドまでの経路と周辺を、できればお風呂とトイレまで片付けておきたいですけど」


「それもう殆どだけどね。お腹減ってない?」


「減ってないわけじゃないですけど、姉さんの睡眠を最優先すべきですよ」



 姉さんは反対するかもだけど、片付けは姉さんが寝ている間に僕がやったっていいんだし。



「そんなに気を張らなくても大丈夫よ。お姉ちゃんがササッと片付けちゃうから」


「姉さんは疲れてるでしょう? 僕も手伝いますから」


「これぐらい平気よ」


「駄・目・で・す! むしろ姉さんには休んでいて欲しいぐらいなんですから」


「あら、お姉ちゃんを心配してくれるの?」


「当り前じゃないですか!」



 揶揄からかうような口調に、反射的に大声で返す。



「そ、そう。変なことを言って御免なさい。なら、一緒に片付けましょうか」


「はい」



 勢いに驚いたのか、たじろぎながらも同意してくれた。



『オカカヅケ』


『チガウ』


『マチガエタ?』


『オカタヅケ、ダネ』


『ソレダ!』



 スライムは危ないから駄目だけどね。






 家の中は、まるで別の場所に思えた。


 固定されていなかった家具は、元の場所とは全然違う位置にある。



「これはまた、派手にやってくれたわね」



 玄関で立ち尽くしたのは僅かのこと。


 すぐに姉さんが再起を果たした。



「大きい家具はお姉ちゃんが元に戻すわ。弟君は、怪我しないよう十分に注意して床の掃除をお願い」


「はい」


「まずは雑巾を取って来ないと駄目ね。少し待ってて」



 返事を待たず、物が散乱した家の中へと跳び込んで行ってしまう。


 このまま放置、ってことはないと思うけど。


 と、心配は杞憂に終わる。


 すぐに姉さんが戻って来た。



「はい雑巾。いい? 気を付けてね?」


「そんなに心配しなくても……いえ、気を付けますから、始めましょう」



 外はもう暗さを増しつつある。


 のんびり喋ってる場合じゃない。


 少なくとも、姉さんは明日も大変なんだから。


 早く寝られるようにしてあげないと。



「じゃあ、やるわよ」


「はい」






 棚に机と、大きな家具は、元の位置ではなく家の外へと運ばれて行く。


 障害物の無くなった空間を、雑巾がけしてゆく。


 前回とは違い、割れた物は見当たらない。


 もう割れるような物が無かっただけなんだろうけど。


 散乱した物と埃の除去が主になりそう。



『ワンコ、ガンバ!』


『ゴシゴシ、キュッキュッ』


うるさい、背の上で騒ぐな』



 いつの間に取って来たのか、ブラックドッグが器用に前足で雑巾がけしてくれている。


 ……掃除、できたんだね。


 いつもは見てるだけだったのに。


 まぁでも、手伝ってとも言ったことはなかったかな。


 一階を手早く終わらせ、二階の寝室を雑巾がけする。


 その間に、姉さんが一階の家具を元に戻していく。


 ベッドが落ちなくて良かった。


 家の中央が吹き抜けになってるから、ベッドが一階に落ちる危険性がある。


 なので、最初っから固定されていたのが幸いした。


 折角家に帰れても、ベッドが壊れてたんじゃ寝るに寝れないだろうし。


 二階の物置きは……今回はいいか。


 後はお風呂と、ついでにトイレも見回っておきたいところ。






「思ったより早く終わったわね。みんな、お疲れ様」


「……ふぅ」


『ガンバッタ!』


『どこがだ。何もしてないだろうが』


『オウエン、シタ!』



 尻尾で背から追い払われるスライムたち。



「軽く何か食べてから、お風呂を済ませて寝ましょうか」


「そうですね」



 掃除の所為か、お腹の減りも進んだ気がする。


 空腹か眠気か。


 気にせず眠りたいなら、解消しておくほうがいい。



「パンと野菜でいいかしらね。取って来るから座ってて」


「あ、はい、お願いします」



 調理するわけじゃないし、任せても問題はないか。



『クダモノ、アル?』


「さっき妹ちゃんに貰って食べたよね」


『ギクリ⁉』



 そんな分かり易い反応しちゃうんだね。



「なら、アンタたちはお預けね。明日になさい」


『ザンネン』


『ションボリ』



 ホント、果物だけは無制限に食べたがるよね。


 前に苦しがるほど食べてたし。


 本能に忠実なのか、欲望に弱いのか。



「手は洗った?」


「はい」


「じゃあ、頂きましょう」


「「いただきます」」






『プカプカ』


『ブクブク』


「こら! だから潜らないの!」


『シマッタ⁉』


『ブクブク、キンシ』


『ザンネン』



 随分とぬるいお風呂にみんなで浸かる。


 水はともかく、火加減が安定しない。


 いや、水が使えるのも凄いんだけど。


 巨大な世界樹が、内部に水をたっぷりと溜めてるらしい。


 あの物凄い数の根が、地中から吸い上げたりしてるんだとか。


 移動に根を使ってたから、今は溜めた水でやりくりしてるっぽい。



「そうそう水不足にはならないでしょうけど、だからって無駄遣いしちゃ駄目よ」


「今までだってしてませんよ」


「こういうことは、集落全体で気を付けないといけないわね」


『オミズ、ナクナル?』


「大丈夫よ。その前に帰れるわ」


『ココ、オウチ』


『ドコ、カエル?』


「世界樹が元の場所にってことよ」


『ソッカ』


『セカイジュ、オデケケ』


『マタ、マチガエタ』


『シマッタ!』






 賑やかにお風呂を終えて、寝室へ。


 姉さんと僕、ブラックドッグとスライムたちで別れる。



「今日も疲れたわ。まだ明日もあるのよねぇ~」


「お疲れ様です」


「弟君成分でうーんと癒されておかないとね」


「ムグッ」



 少しだけ強めに抱きしめられる。



「慌ただしい毎日だけど、こうして一緒に居られれば、どうにかやり過ごせそうかしら」


「……役に立ててますか?」


「ん?」


「姉さんばっかりに負担させて、申し訳ないです」


「お姉ちゃんだもの、弟君より頑張るのは当然よ」


「でも……」


「今回のことだって、弟君も頑張ってくれたから、人族の町にぶつかる前に止められたのよ。誰かが欠けても無理だったわ」


「そう、でしょうか……全然敵いませんでした」



 妨害できていたのは、助けが来る前まで。


 それ以降は、ただ傍観してたに過ぎない。



「流石にお姉ちゃんでも、世界樹なんて勝てる相手じゃないわよ。それだけに、人族が倒壊させたのは脅威ね」


「……居ませんでしたね」



 結局、アイツは姿を現さなかった。



「そうね。良かったって言っていいのか、複雑だけど」


「僕、まだまだ弱いです」


「訓練もまたしないとね。結局、技の一つも教えてあげられてないし」


「外の警備、僕も参加します」


「……お姉ちゃんは反対なんだけどなぁ」


「弱いからですか?」


「そうじゃないわ。理由を聞かせてくれない? どうして参加したいのか」


「姉さんが頑張ってるのに、僕が何もせずに居るのは、何だかモヤモヤします」


「あら、お姉ちゃんのため? 嬉しいけど、それじゃあ許可できないかな」


「どうしてですか?」


「守る側に立つなら、守る相手のことを第一に考えてあげないと」


「そうなんですか?」


「そういうものよ。そうできるなら、明日はお願いしようかしら」


「……考えてみます」


「弟君には、誰かを守れる存在になって欲しいわ」



 姉さんを守りたいって気持ちだけじゃ駄目なのかな。


 集落のみんなのことより、姉さんのことのほうがずっとずっと大事だ。


 友達はその次で、みんなはその次ぐらい。


 誰かを守る。


 こんなにも弱い僕が?


 全然、想像もつかないや。






本日は本編100話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ