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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
148/230

98 無職の少年、難航

 空の色が変わってゆく。


 もう日が沈み始めていた。


 世界樹の引き上げ作業が終わったとの知らせは、未だ聞こえてこない。


 まだ根元までは見えないし、今日中には無理そうなのかな。


 お腹も減ってきた。



『クダモノ、アル?』


『マタ、モラエル?』


「うーんと、どうだろ。まだあるか見に行ってみようか」



 結構な量があったはずだけど、みんなで食べてるとなると、まだ残ってるかは微妙かも。


 家の食糧庫も、まだ補充前だったから、あんまり残ってないと思うし。


 他の家だって似たようなものだろう。


 備蓄分も含めて、食料調達しないとマズい気がする。


 そんなことを考えつつ、みんなの所へと戻る。








「ボウヤ! 何処に行ってたの⁉」


「えっと、周囲の警戒に行ってました」



 戻るなり、アルラウネさんが詰め寄って来た。



「何も言わずに居なくなったら心配するわ。離れたら危ないでしょ」


「……はい、済みません」


「ボウヤを鍛えようとはしてたけど、あれは戦わせたいわけじゃなく、自分の身を守れるようにするためなのよ」


「僕も、何か役に立ちたくて」


「あの子もアタシも、ボウヤに傷ついて欲しくはないわ。今回の件もそう。戦わせてしまって御免なさい」


「いえ、そんな。僕が言い出したことですし」


「とにかく、もう勝手に出歩いちゃ駄目よ。いいわね?」


「……気を付けます」



 そう言って抱きしめられた。


 アルラウネさんに抱きしめられるのは珍しい。


 それだけ、心配させてしまったのかも。



『ナカヨシ?』


『イッショ、スル』



 ベチャリ。


 脚にスライムが貼り付く。



「なになに? ウチも抱きつくぅ~!」



 横合いから妹ちゃんが抱きついてきた。


 みんなのクスクス笑う声が漏れ聞こえてくる。


 流石に恥ずかしくなってきた。



「あの、もうそろそろ放して欲しいんですけど」


「っと、御免なさい。感極まり過ぎたみたいね」


「えー、もうお終い? もっとギュッてしてぇ~」


『オシマイ?』


『クッツク、オワリ?』


「もうお終いよ。ボウヤが恥ずかしがってるでしょ」


「いえ、その……」


「じゃあじゃあ、ウチだけギュッてして」


「もぅ、仕様がないわね。ほら、いらっしゃい」


「えへへ~」



 解放されたので、少し距離を取る。


 う~、恥ずかしい。



『クダモノ、ホシイ』


「あ、そうだったね。まだあるかな」


『サガス!』


「果物なら、さっき無くなっちゃったよぉ」


『ナント⁉』


『ションボリ』


「でもでも、2個だけ取っておいたから、食べていいよぉ~」


『ヤッタネ!』


『アリガト!』



 アルラウネさんから離れて、スライムたちに果物を差し出す。


 すぐさまスライムたちが果物を取り込んだ。



「食料調達もしないといけないわね。こんなことなら、昼間のうちに動くべきだったかしら」


「まだ帰っちゃ駄目なのかなぁ?」


「夜通し続けるのでなければ、夜は家に戻れるかもしれないわ」


「なら、家に帰りたいよぉ」


「分かったわ。聞いてみましょう」



 どうやら、姉さんの所に行くみたいだ。


 待っているのもなんだし、付いて行こうかな。






「進捗はどう?」


「……見てのとおりよ。あんまり良くはないわね」



 毛玉たちは鼻を上にして倒れ込んでいた。


 未だ地面に手を突いてるのは、姉さんとグノーシスさんだけ。



「想像以上に面倒事だな」


「明日もやってどうにかってところかしら」


「なら、夜の間は中断してもらって、みんなを集落に帰してあげようと思うのだけど、構わないかしら?」


「長く住処を空けてはおけぬ。夜は帰らせてもらおう」


「アタシも寝ずにってのは無理そう。夜はゆっくり休みたいわ」


「迷惑を掛けて御免なさい」


「別に、アンタの所為じゃないでしょ。そろそろ今日は切り上げましょう」


「ならば、急ぎ帰らせてもらおう。ノームも休ませねばならん」


「ええ。今日は助かったわ。ありがと」


「明日もあるのだろう? 魔力を回復させておけ」


「分かってるわよ。明日もお願いね」


「ああ」



 言葉短く、グノーシスさんが帰るために毛玉を集めてゆく。



「後の問題は水と食料かしらね。集落の備蓄も心許ないでしょうし、補充しておかないと」


「果物は? もう無くなったの?」


「ええ」


「もう一度お邪魔して、取ってくるしかないかしら」


「申し訳ないけど、足りなそうならお願いするしかなさそうね」


「分かったわ。けど、今は少しだけ休ませて」



 地面に仰向けに寝転がる姉さん。


 よっぽど疲れたみたい。


 昼間からずっとだし、仕方がないよね。



「おーい! アルラウネさん! エルフさん!」



 集落の誰かが大声を上げながら駆け寄って来た。



「人族だ! 騎士がまたぞろやって来たぞ!」


「……また何か用なのかしら」


「ともかく、急いで戻りましょう」


「それもそうね」


「手は貸さぬぞ」


「大丈夫よ。また明日ね」


「ではな」



 グノーシスさんたちが帰るのを見送って、みんなの所へと戻る。






「おっと、済まねぇ。騒がせるつもりは無かったんだが」


「また来たの? 用事は何かしら」


「警護は断られたが、物資は入用だってことだったろう? 荷車に水や食料を一週間分は積んである。好きに使ってくれ」


「……いいの? 何も返せないわよ」


「ああ。借りにするつもりもない。町を救ってくれた礼も兼ねてのことだ」


「ならまぁ、有難く戴くとするわ」


「そうしてくれ。ああそれと、荷車は放置しておいてくれて構わねぇ。後で適当に回収しておく」


「分かったわ」


「んじゃ、邪魔したな。一応、天幕に待機してるつもりでいる。何かあれば訪ねてくれ」


「ええ」



 大量の物資を置き去り、騎士たちが去って行く。


 思いがけず、食料問題は解決しそうなのかな。



「……安全だと思う?」


「心配なら最後に食べたら? 集落の備蓄を含めて、日持ちしない物を先に消費しましょう」


「あの連中、どうにも信用し切れないわ」


「それでいいんじゃない? 信用して欲しいわけじゃないと思うし」



 アルラウネさんとは違って、姉さんは疑ってないみたい。


 いい人たちなんだろうか。


 それとも、そう装ってるだけなのかな。






本日は本編100話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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