97 無職の少年、掘り出し方
グノーシスさんを伴って、姉さんが帰って来た。
「よもや、昨日の今日で再び来ることになろうとはな」
「仕方ないでしょ。あの時点じゃ、どうなるか分からなかったんだから」
「しかも元に戻せとは。全く、徒労もいいとこだ」
「文句ばっかり言って。どんだけ嫌なのよ」
「無駄は好まん。それだけだ」
何だか揉めてるみたいだけど、大丈夫なのかな。
待っていたみんなも、心なしか不安そうに見える。
「精霊様、再びご足労いただき、有難うございます」
「止せ。上辺だけの敬意など不要だ」
「い、いえ、決してそのようなことは」
「慣れない真似なんてしなくていいわよ」
「慣れないって何よ! こ、コホン、失礼致しました」
アルラウネさんが頑張ってるけど、あんまり好評じゃないみたい。
「お! また来たのか! 今度こそ喧嘩だ喧嘩!」
「師匠、今は邪魔しないほうがいいッスよ」
「るせぇ! どさくさ紛れに触るんじゃねぇ!」
「ぐぼはぁッ⁉」
「まだ居たのか。煩わしいことだ」
「随分と邪険にするじゃねぇか。オレサマと似たニオイの癖してよぉ」
「一緒にするな。不快だ」
オーガ兄を修行と称してボコボコにしていたサラマンダーさんまで寄って来た。
もしかしたら、今日中には家に帰れないかもしれない。
「今から世界樹を穴から出さなきゃならないの。邪魔しないで」
「んだよ。じゃあ、落としたのは無駄じゃねぇか」
「遺憾ながら同意見だ」
「はいはい、そうですねぇ~。けど、先のことなんて、誰にも分からないでしょ。過去は過去、今は今、よ」
「やっぱ燃やしちまえば、手っ取り早い──」
「アンタは近づかないで。手出しもしないで」
「ケッ。後から手伝えっつっても聞かねぇからな」
ドスドスと足音も荒く去って行く。
倒れたままのオーガ兄を引き摺って。
「アニキ、ダサい」
妹ちゃんの冷めた言葉が追撃を掛けてた。
「で、どうなの? 地上には出せそう?」
「落とすよりかは難しいだろう」
「……無理なの?」
「地面を隆起させる方法は厳しいだろう。落とすのとは違い、重さが厄介だ」
「じゃあどうするのよ」
「斜めに移動させてゆく他あるまい。相応に時間も掛かるだろう」
「なら、ちゃっちゃと始めましょう」
「当然、手伝うんだろうな」
「そりゃあね。高みの見物なんてしないわよ」
「ならばいい。ノーム!」
昨日見た光景が再現されるように、地面から次々と茶色い毛玉が現れる。
姉さんとグノーシスさんと大量の毛玉が、一斉に地面に手を突く。
「反対側へ斜めに移動させる。方向、角度、速度、全て合わせろ」
みんなが片津を飲んで見守る中、地面の揺れを感じ始めた。
見た目の変化は無い。
「ゆっくりとだ。焦ればこちらに倒れるぞ」
そばに居てもできることは無さそう。
むしろ、邪魔になりそうな気がする。
なら、姉さんの代わりに、周囲の警戒をしておこう。
ブラックドッグたちと一緒に、その場から離れる。
『モジャ、タクサン!』
『ナニ、シテタ?』
「世界樹を穴から出してくれてるんだよ」
『タイヘン?』
「そうだね。簡単にはできないみたい」
『サスガ、モジャ!』
『オウチ、ツクル!』
ん?
おうちをつくる?
「家を造ってるわけじゃないよ」
『ムカシ、ツクッタ』
『デコボコ、タクサン』
う~んと。
前に家を造ってもらったことがあるのかな。
土の精霊だから、土とか石の家なんだと思うけど。
家よりかは洞窟とかなのかも。
凸凹とか言ってるし。
「凄いんだね」
『スゴイ!』
『ベンリ!』
い、一応は敬ってるんだよね?
仲良さそうにはしてたんだし。
『皆から離れるな。危険だぞ』
突然聞こえた声に、ビクリと身体が震えた。
そばに居たのは、大きな塊。
『オッキイ!』
『トカゲ!』
『違う。我はドラゴン、五色の■竜ぞ。羽も無いモノと一緒にするな』
『オオキイ、トカゲ!』
『違うと言うに。ドラゴンだ』
■いドラゴン。
横たえた体から首を伸ばしてこちらを眺めている。
「あの、みんなを助けてくれて、ありがとうございます」
『世界樹の民か。我を見ても悲鳴一つ上げぬとはな』
「えっと、その、びっくりはしましたよ」
『かつて人族の都に赴いた時など、大挙して物珍しがられたものだが』
「……人族の町を襲ったんですか?」
『いいや違う。此度と似たようなものだ。アレに足代わりに使われたに過ぎん』
あれって何のことだろう?
『その黒い獣。見覚えがあるな』
え?
巨大な目が、いつの間にかブラックドッグに向けられていた。
会ったことあるのかな?
『再び会うことがあろうとはな』
「まさか、戦ったとかじゃ……」
『いいや。幸いにして、な』
ならいいんだけど。
こんな大きなドラゴンと戦うとか、とんでもないよね。
あ、でも、巨大化したブラックドッグなら……。
『長い時が過ぎた。が、互いに立場は変わらぬか』
『……この場は任せて問題ない。警備するなら他の場所へ移動すべきだ』
「あ、うん、そうだね」
『子供がすべきことではあるまい』
「姉さんが頑張ってますから。僕も何かしないと」
『フッ、随分と殊勝なことだ。しかし、怪我を負えば、その姉とて心配しよう。何かあれば声を上げよ。我が向かう』
「……ありがとうございます。それじゃあ」
頭を下げて、その場から立ち去る。
何だか、思っていたよりもずっと親切だ。
ドラゴンってもっと怖い存在だと思ってたんだけど。
『マタネ、トカゲ!』
『いい加減、覚えよ。我はドラゴンだ』
『ハネ、ツイテタ』
どうしても、ドラゴンとは呼んであげないんだね。
本日は本編100話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




