92 無職の少年、師からの助言
改めてスライムたちを探すと、何か交流していた。
『モジャ、オヒサ!』
『ゲンキ?』
「んだ」
『オウチ、ツクル?』
「んでね」
『ザンネン、ムネン』
毛玉と会話してるのかな?
内容まではよく分からない。
そばのブラックドッグは、まだ目覚めてないみたい。
エーテルさえあれば、回復してあげられるんだけど。
『アナ、オオキイ』
「だべ」
『フカイ?』
「んだ」
『セカイジュ、オチタ』
『モジャ、サスガ!』
もしかして、昔の知り合いなのかな。
仲良く話してる……ような気がする。
邪魔しないよう、ブラックドッグの隣に静かに腰を下ろす。
ふぅ、少し歩いただけでも疲れちゃった。
できれば、横になって寝てしまいたい。
でも、人族の町が見える距離にあるし。
気を抜いてばかりはいられない。
……もしかしたら、アイツだって居るのかも。
疲労感の所為か、いまいち活力に欠ける。
日が随分と傾いてきている。
長い一日だった。
夜はどうするんだろう。
まだ家には帰れないのかな。
姉さんの帰りを、ぼんやりと待つ。
空の色が変わり始めた頃、姉さんの姿が見えた。
大きな籠を抱えて、駆け寄って来る。
「お待たせ! 痛むのも忍びないから、持てるだけ持って来ちゃったわ」
う、うん。
食べきれそうもないよね。
『クダモノ⁉』
「ええそうよ。けど、前みたいに食べ過ぎないこと。1個だけにしておきなさい」
『ケチ!』
「あげないわよ?」
『ゴメンネ』
「はぁ~、欲望に忠実だこと。はい」
『イタダク』
「いただきます、だよ」
『イタダキ、マス』
「じゃあ、籠ごと置いていくから、弟君たちも好きに食べてね」
「姉さんは食べないんですか?」
「お先に少しだけ食べさせてもらったわ。世界樹の様子を確認したり、周囲の警戒もしなきゃだしね」
姉さんに気が付いたらしい、オーガの兄妹が歩み寄って来た。
さっきまで一緒に居たはずのサラマンダーさんの姿が見えない。
どっか行っちゃったのかな。
「わぁー! 果物沢山だねぇ! どしたのこれ?」
「姐さんの差し入れッスか! あざッス!」
「……アニキの喋り方、気持ち悪い」
「ひでぇな、おい⁉」
「えっと、ケンタウロスの集落から、ちょっとだけ拝借してきたわ」
「……オネーチャン、ちょっとって量じゃないと思うんだけど」
「ま、まぁ、腐らせるよりはいいでしょ」
『『ウマウマ』』
「ウチも食べていい?」
「もちろんよ。あ、大丈夫だとは思うけど、全部は食べちゃ駄目よ? 集落のみんなの分なんだから」
「ほえ? もしかして、父ちゃん母ちゃん、見付かったの⁉」
ドクンドクン。
胸が疼く。
「いえ、これから探してみるわ。ドラゴンが助けてくれたはずなんだけど、見当たらないのよね」
「そ、そんなぁ……」
気落ちした妹ちゃんを元気づけようとして、兄が殴り飛ばされている。
扱いがどんどん酷くなってる。
「娘よ、戻ったか」
「あ、ええ。こっちは変わりないみたいね」
「此処は、な」
「……何かあったの?」
「周囲の偵察に出していたノームからの報告だ。後方にドラゴンが居るらしい」
「そっか、後ろに居たのね」
「……その反応、見知った相手か?」
「サラマンダーの連れよ。世界樹の集落のみんなを、助けてもらってたの」
「アレの連れだったのか」
「父ちゃんと母ちゃんは⁉ 無事なの⁉」
ドクンドクン。
胸が疼く。
「世界樹はまだ動かせないでしょうし、こっちに合流してもらうしかないわね。アタシが話しに行ってくるわ」
「う、ウチも行っていい⁉」
「分かったわ。一緒に行きましょう」
「ありがと! オネーチャン、大好き!」
「あらあら」
感極まったらしく、姉さんに抱きついた。
苦笑しながらも、姉さんは優しく抱き留めて頭を撫でている。
「オレとの扱いが違い過ぎないか?」
「アンタはサラマンダーが暴れないよう、ちゃんと見張っておきなさいよ」
「む、無茶言わないでくださいッス! 師匠がオレの言うことなんか、聞いてくれるはずないッスよ!」
「……何でそんな口調なわけ」
「アニキ、キモい」
果物を齧りながら、様子を眺める。
姉さん、動きっぱなしだけど大丈夫なのかな。
僕なんかより、よっぽど疲れてるはずだけど。
「……ん? 弟君、どうかした?」
「姉さんも休んだらどうですか?」
「お姉ちゃんを心配してくれるの? ありがと。もうちょっとだけ頑張ったら、休むことにするわ」
「何か、手伝ったほうがいいですか?」
「大丈夫よ。みんなを連れて来るだけだし、此処で待ってて」
「……はい、分かりました」
そう、だよね。
役に立てることなんて、あるわけないし。
「また離れるつもりか。落ち着きのないことだ」
「もう少しだけ護衛をお願い」
「ならば、娘が戻り次第、住処へと帰る。それで構わんな?」
「ええ。ありがと」
妹ちゃんを連れて、姉さんが離れて行く。
「師匠居ねぇし⁉ 師匠ー! 何処行ったんスかー! 師匠ー!」
それとは別に、オーガ兄がサラマンダーさんを探して離れて行く。
残されたのは、毛玉とスライムたちとブラックドッグと僕。
そして、グノーシスさん。
「訓練は続けているのか?」
「え? あ、はい。一応は」
「その割には、先の戦いでは無様を晒しておったが」
うぐッ。
短剣で根を斬りつけたことを言われているんだろうか。
「敵わぬと知りながら挑むのは、無謀でしかあるまい」
「……はい」
「自己満足で死ぬつもりか?」
「そんなつもりは……」
「自棄を起こすな。敵わぬなら、生き延びる方法を探れ」
お説教かと思ったけど、そうじゃないのかな?
不思議に思い、グノーシスさんの様子を窺う。
と、相手はこちらを見つめていた。
目が合う。
「そこな獣の力を借りねば無力。そのこと、努々忘れるでない」
忘れるわけがない。
弱いことなんか、とっくに理解してる。
「如何に獣を消耗させずにいられるか。工夫してみせろ」
またしても、思いがけない言葉。
ブラックドッグを消耗させない工夫?
何だか、凄く大事なことを言われた気がした。
本日は本編95話までと、SSを1話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




