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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
137/230

90 無職の少年、止めるモノ

 状況への理解が及ばない。


 唐突に消え去った死の脅威。


 訳も分からず、キョロキョロと辺りを見回す。


 アルラウネさんと妹ちゃんが居る。


 スライムたちも。


 騎士と馬だって。



「いつぞやとは逆になったな」


『──グノーシスめか。其方そなたわらわの邪魔をするつもりというわけか』



 そして、居るはずのない存在。


 姉さんに似た、黒い鎧姿。


 グノーシスさんが背後に居た。



「グノーシスさん……? え、な、何で……?」


魔装化まそうかも使わず精霊に挑むか。まったく……娘は何をやっておるやら」



 こちらの問いに答えず、ズンズンと世界樹へ向かって歩いて行く。



「さて、と。ドリアード、身勝手も此処で終いだ」


『──とっくりと周りを見てみよ。今更1体増えたところで、わらわを止められなどせんと、理解が及ばぬのか?』


「……確かに、随分と集まったものだ。そのどれもが無能というわけか」


『──其方そなたとて例外ではないと知れ』


「随分とおごった物言いだな。それほどに自慢か?」


『──自負じゃ。世界樹に敵う存在など、あってはならぬ』


「母を守らず、母を揮うか。愚かしいことだ。見るに堪えん」


『──抜かせ。其方そなたの母とて、わらわの手中にあること、よもや忘れたわけではあるまいな?』


「キサマぁ! 母様かあさまに危害を加えるだと! 例え挑発といえど、口にすべきではなかったな! 此処で沈め!」



 ドクンドクンドクン。


 胸が疼く。


 周囲の誰も彼もの視線が、グノーシスさんに集まっているのを感じる。


 期待している?


 それとも、恐れている?


 攻撃の手すら止めて、ただ見守っている。



「後から出て来て、粋がってんじゃねぇぞ!」



 違った。


 ■い女性が、物凄い勢いで駆け寄って来るなり、怒声を上げ始めた。



「またぞろ精霊かよ! オレサマの獲物に手ぇ出すんじゃねぇ!」


「どう見ても手に余っているようだが? 決着は来年の予定か?」


「テメェ……いい度胸してんじゃねぇか……」


「ちょっと、止めなさいよ! そんなことしてる場合じゃないでしょ!」


「……娘か。子供を放置するとは、危うく死ぬところだったぞ」


「弟君のこと⁉ 無事なの⁉」


「後ろにおるだろう」


「弟君!」



 姉さんが駆け寄って来る。


 そのままの勢いで抱きしめられた。



「姉さん……鎧が痛いです」


「あ、ご、御免ね⁉ でも良かった……ずっと探してたのよ……」


「そうかいそうかい、アレの親ってわけか。揃いも揃って邪魔しやがって」



 ドクン。


 胸が疼く。


 向こうでは、また絡み始めてた。



「絡むな。邪魔になるなら、諸共──」


『──そう、諸共に世界樹の糧となるがよい!』


「「──ッ⁉」」



 2体の立つ地面が爆ぜた。


 溢れ出す根の群れ。



「ケッ、テメェの相手は次だ!」


「知らんな。それほど戦いたければ、己が影でも相手取っておくがいい」


「んだとぉ⁉ 馬鹿にしてんのか、テメェ!」


「フン、その程度は理解が及ぶらしい」



 不意打ちに動揺も見せず、素早く回避していた。


 口論してる余裕すらあるみたい。



「グノーシスさんと同じぐらい強い……?」


「火の上位精霊サラマンダーよ。性格にかなーり難ありだけどね」



 あれ、それって確か……。



「師匠ー! 置き去りとか酷いッス!」


「また来たのね。無駄に体力だけはあるんだから」



 懐かしい声。


 妙な喋り方だけど、やっぱりそうだ。



「お! 姐さん! っと、おお⁉ ダチじゃねぇか! 無事だったんだな!」



 駆け寄って来るのは、■い短髪に■い肌をした男。


 腰巻だけの軽装は、筋肉を惜しげも無く晒している。


 妹ちゃんのお兄さん。



「アニキ! 父ちゃん母ちゃんは⁉」


「あー、何かよぉ、ドラゴンのダンナが上手いことやってくれてるって聞いたぜ」


「何でアニキも助けに行ってくれないのさ! 馬鹿ぁー!」


「おいおい、泣くなよ⁉ ってか、殴るのも止めろっての!」



 妹ちゃんが駆け寄り、ボコボコ殴り始めた。


 前よりも扱いが酷くなってる気がする。



「これだけやっても止められないのに、どうするつもりかしら」



 放すつもりが無いらしい姉さんが、そうポツリと漏らす。


 魔力切れを狙うって話だったけど。


 弱ってる感じなんてしない。


 精霊と協力できたらって言ってたのは、もう実現してるわけで。


 これで無理ならもう……止めようがない。






「ノーム!」



 グノーシスさんが叫ぶ。


 応じるのように地面が盛り上がり、そこから茶色い毛玉が出て来る。


 わらわら、わらわら、わらわらと。


 見たことが無い程の大量の毛玉たちが姿を現す。


 根の及ばぬ周囲を埋め尽くしてゆく。



『──同胞を頼るか? しかし、如何に下位精霊を集めたとて、止められはせぬ』


「頭に血が上っている割には、血の巡りは悪いらしい」


『──何じゃと?』


「何処に我が物顔で存在しているか、未だ理解が及ばぬか」



 ドゴオォォォーーーン!


 大地が割れた。


 そう錯覚する程の轟音と衝撃。


 続くように、世界樹が沈む。



『──これは⁉ 何故なにゆえ、世界樹が沈む⁉』


「大地は我が領域。好き勝手に振舞うなど、叶わぬと知れ」


『──地中を空洞化しおったのか! おのれぇ、小癪な真似を!』


「植物とて、独力で生きてはおらんだろうに。光、水、そして土。いずれが欠けても立ち行かぬが道理」


『──この程度で……わらわを舐めるでない!』



 沈んでゆく世界樹から、根が伸びてくる。


 伸びる伸びる。


 穴から這い出そうと根が蠢く。



「いいから、大人しく沈んどけっての!」



 ■い流星。


 そう見紛う跳び蹴りが、世界樹を上から襲う。


 沈む世界樹。


 根が這い出た端から、地面ごと崩れ落ちてゆく。



「……圧倒的ですね……こんなにあっさりと止めてしまうなんて」


「そうね。こんな真似、アタシでも無理だわ。もちろん、ノームたちの協力があってこそでしょうけど」



 倒しても倒しても、次々と湧いてくる根。


 吸収しても吸収しても、尽きることのない魔力。


 それをこうして、グノーシスさんが止めてみせた。



『──赦さぬ。赦さぬぞ。かくなる上は、世界樹ごと魔装化まそうかを』


「止めておけ。大地は此処にしかと健在だ。同様の真似を、できぬはずもなかろう」


『──口惜しや。あと少し、もう後ほんの僅かで、人族共へと届いたものを!』


「そうだな。人族以外を巻き込んで。守るべきはずの母をも巻き込んで、な」


『──おのれ、おのれぇ……』


「かつての母様かあさまの件での借り、これで返したぞ……精々頭を冷やせ」



 ドクンドクン。


 胸が疼く。


 これで、本当に終わったのかな。


 とにかく、ゆっくり寝たいなぁ。






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

世界樹を止めても、すぐさま元通りになるわけもなく。

集落の皆の安否も不明なまま。

まずは夜を何処で明かすのか……。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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