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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
136/230

89 無職の少年、動機

 何か、世界樹が凄いことになってる。


 最初は大規模な火災が起きてたみたいだけど。


 しばらくすると、火の手は収まったっぽい。


 その代わりなのか、今度は空からの攻撃が始まった。


 此処まで響いてくるような激しさ。


 何より、数が物凄い。


 いつの間に現れたのか。


 まさかとは思うけど、姉さんが攻撃されてたりしないよね……。


 もしそうなら、此処で傍観なんてしてられない。


 すぐにも駆け付けたいところだけど。


 まだ、ブラックドッグが目を覚ましていない。


 手元にエーテルも無いし、回復させてもあげられない。


 姉さんは大丈夫なんだろうか。


 無力な自分が嫌になる。


 戦いたいわけじゃないけど、戦えない自分はどうしようもなく情けなくて。



「アニキ、大丈夫かな……父ちゃん母ちゃん、助けてくれたかな……」



 ドクンドクン。


 胸が疼く。


 妹ちゃんも心配なんだよね。



「心配なのも分かるけど、もう少し離れておきましょう。まだ少しずつ移動してきてるみたいだわ」



 アルラウネさんの言うとおり、あれだけの攻撃を受けても、世界樹は止まらない、止められてない。


 それだけ、ドリアードさんが怒ってるってことなのか。


 他の何もかもよりも、復讐だけを遂げようとしてる。


 僕はどうなんだろう。


 僕も、あんな風に見えてるのかな。






 止まらない。


 もう、随分と近い。


 世界樹にも、そして、背後の町にも。


 地鳴りが迫る。



「此処まで迫ってくるかい。こりゃあ、精霊をよっぽど怒らせちまったらしいな」



 眼前に馬に乗って居並ぶのは、いつだか町で見た鎧姿の人たち。


 確か……騎士とかって言ってたっけ。



「いいか! オレが壁を展開したら、馬ごとぶつかれ! 町へこれ以上、近づけさせるな!」


「「ハッ!」」



 無茶だ。


 10人かそこらで、止められるはずがない。



大壁イオリス



 先頭に立つ、一際大きい丸みを帯びた鎧が光輝いた。


 と同時に、その前方に巨大な光の壁が形成されてゆく。



「押せえぇーーー‼」



 世界樹の根が光の巨壁へと激突する。


 ──止めた⁉



「……すっごい」



 すぐそばで、妹ちゃんが感嘆の声を漏らす。


 光の巨壁は、姉さんが創り出していた岩壁と、同程度の規模を誇っている。


 その上、強度はもしかしたらこちらのほうが上かもしれない。


 何せ、根に砕かれてはいないのだから。


 光の巨壁から透けて見える向こう側。


 未だ視認できないけど、姉さんたちが今なお根と戦っているはず。


 空から降り注ぐ攻撃の数々。


 千切れ飛ぶ根の残骸。


 戦場だ。


 この光の巨壁が消え去れば、すぐにも巻き込まれてしまう。



「う、ウチも手伝う!」


「駄目よ! 危ないわ!」


「此処で止めないと! もう逃げられないよ!」


「そ、それは……」



 アルラウネさんの制止を振り払い、妹ちゃんが光の巨壁へと取り付く。



「……ヘッ、手伝ってくれるってわけかい。おい、オマエら! 気合いを入れ直せ! この後はもうねぇんだぞ!」


「「ハイ‼」」



 ブラックドッグはまだ目覚めない。


 なら僕にできることは?


 こうして、傍観しているだけなのか。


 それとも、妹ちゃんみたいに、手伝うべきなのか。


 僕一人の力なんかが、どれだけの足しになるって言うんだ。


 ブラックドッグの力無しには、何もできやしない。


 みんな、頑張ってるのに。


 知ってるモノも、知らないモノも。


 僕だけが、何もできない。


 何もしてない。



『トモダチ、マモル』


「──え?」


『マカサレタ』


「こら、アナタたちまで! 戻りなさい!」



 アルラウネさんの腕の中から、スライムたちが跳び出した。


 そのまま光の巨壁まで向かっていく。


 ああ、どうして僕は、いつも動けないんだろう。


 姉さんやブラックドッグに助けてもらわないと、何もしやしないんだろう。


 嫌だ。


 こんな自分が嫌だ。


 アイツを──勇者を倒すことばっかり考えて。


 ズキリ。


 頭が痛む。


 それ以外では、何もしようとしない。


 みんなはどうして頑張れるんだろう。


 どんな理由があるんだろう。


 怖くないの?


 辛くないの?


 逃げたくならないの?


 何で……どうして……。



「チィッ! おい、魔族の娘さん。早くこっから離れろ! もう十分だ!」



 響く声に引き寄せられるように、視線を向ける。



「残念だが、もうそろそろ魔力切れだ。巻き込まれねぇよう、早く逃げな」


「父ちゃんも母ちゃんも、アニキだって。まだあそこに居るんだもん! ウチだけ逃げられるわけないよ!」



 ドクンドクン。


 胸が疼く。



「家族のためってわけかい。けどな、キミが犠牲になることを、家族の誰も望んでやしないだろう」



 ドクンドクン。


 胸が疼く。



「でも! だけど! それでも! 置き去りになんて、できないよ!」


「……言っても聞かねぇか。オマエら! 壁が消えるのと同時に、一気に突撃するぞ! 根を少しでも削れ! 引っ張ってでも止めろ!」


「「応ッ‼」」



 誰も逃げない。


 誰も諦めやしない。


 光の巨壁がどんどんと薄くなって。


 押し寄せる根の群れが、今にも叩き割ろうとぶつかってきている。


 僕は……どうしたら……?


 ふと、手が何かに触れた。


 腰に差したままの短剣だ。


 結局、何の役にも立たなかったな。


 訓練もしたのに、技も覚えられなかったし。


 ああ、全部が無駄だったのかなぁ。






 光の巨壁が、音も無く砕け散る。


 故に轟音は根だけが発している。


 殺到する根の群れ。


 騎士たちも、妹ちゃんも、スライムたちも呑み込んで。



「──ッ!」



 僕は無力だ。


 きっと何もできやしない。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 疼きが止まない。


 けど、それでも。


 喪う恐怖を知ってる。


 喪う絶望を知ってる。


 喪う悲哀を知ってる。


 駆け出す。


 アルラウネさんが、妹ちゃんに覆い被さるように動くのが見えた。


 駆け抜ける、そして追い越す。


 短剣を鞘から抜き去り、迫る根に揮う。



「うわあああァーーー‼」



 ガキン。


 容易く弾かれる短剣。


 僅かも斬れはしない。


 ああやっぱり、こうなるよね。


 これは当然の帰結。


 僕なんかの力が、及ぶはずないんだから。


 視界一杯の根の群れ。


 無慈悲に根が振り下ろされた。






「──無様だな。特攻などと、そのような戦い方を教えた覚えはないぞ」



 そんな声と同時に、視界が一気に開ける。


 埋め尽くさんばかりの根が、一瞬で跡形もなくなっていた。






本日は本編90話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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