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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-39 オーガ兄は合流す

 再びの空の旅。


 ……なんて洒落たモノじゃない。


 振り落とされぬよう、必死に鱗にしがみ付くばかり。


 景色を眺めている余裕などありはしない。


 これでは、うっかり師匠に抱きつくことも無理だ。


 何という拷問か。


 せめてもの抵抗として、師匠の麗しきお尻──いやさ、お姿を網膜と脳に焼き付けておく。


 中々どうして。


 これはこれで……アリだな!






 興奮冷めやらぬ中、心なしか速度が落ちた気がする。



『見えたぞ。しかし、こうして実際に目の当たりにしてなお、実感がまるで湧かぬ光景だな』



 ドラゴンの声が響く。


 ──いや、見る余裕ねぇし。


 今度こそ速度が落ちる。


 同時に高度も下がってゆく。


 ──まだだ、まだうっかりするには早い。


 もし今、反撃を食らえば、落下死するだけ。


 一時の快楽に身を委ねるな、オレ。



「どれどれ……おおッ⁉ こりゃ、スゲェな!」



 ドラゴンの背から身を乗り出して、はしゃぐ師匠。


 そう言われると、気になってもくる。


 泣く泣く師匠から視線を外す。


 この姿勢からでも、世界樹の威容は確認できる。


 ……移動、してるよな、これ。


 這ったまま眼下を覗いてやれば、絶句する光景が広がっていた。


 無数の根が、地面から這い出て蠢いている。


 凄いってか、気持ちが悪い。



『既に交戦状態のようだな』


「んだとぉ? オレサマより先におっぱじめたヤツがいるってのか」



 おいおい、そりゃどんな馬鹿だよ。


 これだけデカいの相手に、無謀が過ぎるってもんだぜ。


 もちろん、師匠は別だが。



「おい、さっさと降ろせ! 獲物が横取りされちまう!」



 師匠……オレらのほうが、今から横取りするんですが。



『少し待て。そばに降りても、すぐ置き去りにされるのがオチだ。もっと先行しておかねば』


「まどろっこしい! 勝手に降りるぜ!」


「え、師匠⁉」



 言うが早いか、躊躇なく飛び降りてしまった。



『堪え性のない……小僧はどうするのだ?』


「オレは安全に降ろして欲しいッス」



 師匠の真似をしてたら、命が幾つあっても足りやしない。







『どうやら、こちらにも先客が居るようだな』



 無謀な連中ばっかりだな。


 進行方向からして、人族の領分のはず。


 なら、人族が抵抗しているのか。



『降ろしたら我も世界樹へと向かう。命を落とさぬよう、気を付けろ』


「わ、分ってるッス」



 どうせオレにできることなんて、ありはしないだろう。


 師匠ならともかく、素手であんなデカブツに敵うはずもない。



「うわー! でっかい! 何これ⁉」


「ドラゴンね。色からしてクリムゾンドラゴンみたいだけど」



 んんん?


 どっかで聞いた覚えのある声のような……?


 地面に降りたのを確認した後、ドラゴンから飛び降りる。



『ではな。お互い、生きていれば、また会おう』


「うッス」



 オレは死ぬような無謀な真似はしないけどな。



「あああァーーーーーッ‼」


「あん?」



 至近距離から大音声が放たれた。


 思わず眉をひそめながら、そちらを振り返る。



「──は?」


「あ、あ、あ、馬鹿アニキーーー!」


「ぐぼォ⁉」



 な、何で此処に妹が……⁉


 あと、どうして殴った⁉






「馬鹿アニキ、馬鹿アニキ、馬鹿アニキーーー‼」


「おい、こら、殴るのを止めろ。いてぇよ!」


「ちょっと、ほら、落ち着きなさい。さっきのドラゴン、やっぱりサラマンダーの所に居るドラゴンだったのね」


「アルラウネさん、お久しぶりッス。いやー、相変わらず素晴らしいお姿ッス!」


「ええ。アナタも相変わらずみたいね」


「変態! 馬鹿!」


「だからいてぇっての!」



 最初の一撃とは違い、子供の駄々のようにポコポコ殴ってきやがって。


 いや、威力からしてボコボコか。



「あの、まさかとは思うんスが、世界樹を止めに来た感じッスか?」


「そうよ。もっとも、アタシたちは後方支援という名の待機に近いけど」


「じゃあ、さっき戦ってたのって……まさか……?」


「エルフとボウヤよ」


「はあァッ⁉ 姐さんはともかく、ダチもッスか⁉」



 ダチはただの人族だぞ⁉


 挙句、無職って……何の力もありやしねぇじゃねぇか!



「──ッ⁉ オレの後ろに下がって! 何かが近づいて来てる!」



 足裏から伝わる、複数の振動。


 アルラウネさんと妹を背に庇い、接近する何かに対峙する。


 ありゃあ…………馬、か?


 ケンタウロス、ってわけはねぇか。


 砂塵を上げてこちらへと迫ってくる。


 馬の上には鎧姿。


 ついさっき見た格好の連中だ。



「人族かよ。面倒なこったぜ」



 先頭を走る一頭が、速度を落とす。


 それに合わせて、他の馬も速度が落ちた。



「オマエたちは此処で待ってな」


「「ハッ!」」



 先頭の馬だけがゆっくりと近づいて来た。


 やたらとガタイのいいヤツだ。


 いや実際、他の連中よりも二回りはデカい。


 異様に丸い銀色の鎧を着込んでやがる。


 ──コイツ、結構強そうだな。


 声の届く距離で、馬の足が止まる。



「馬上から失礼。魔族の先兵……ってわけじゃねぇみてぇだな」


「あん⁉」


「おっと、先に言っとくが、こっちに戦闘の意思はねぇぜ」


「じゃあ何しに来やがった」


「世界樹の異変を察して来てみたんだが……そっちの目的も、世界樹進行の阻止って感じだと助かるんだがねぇ」


「どうだかな。こちとら、同じ鎧姿の連中が、世界樹を壊してるのを見かけたばっかりでね」


「……ほぅ。そうかいそうかい。そりゃあ信用ならねぇのも、無理ねぇわな」


「またぞろ、世界樹を破壊しに来たってわけかよ」


「いいや違う。止めに来たのさ。なんせ、この先には町があるもんでね。急ぎ避難をさせてもいるが、間に合いそうもねぇ」



 ハッ、んなもん、信用できるかっての。



「あ、アニキ。あそこには父ちゃん母ちゃんが……」


「あん? ……おいまさか、嘘だろ?」



 アレ、親父とお袋の居る世界樹なのかよ⁉


 ドリアード様、何やってやがんだ⁉



「残念ながら本当のことよ。恐らく、さっき言ってた2本目の倒壊が、暴走の切っ掛けになったんだわ」


「じゃあ、師匠を止めねぇと! 全部燃やしちまうぜ⁉」


「……どうやら、そっちにも事情があるみてぇだ。ここはひとつ、協力ってわけにはいかずとも、争うのは止めておかねぇか?」


「人族の言葉なんぞ、信用できるかよ」


「話してるのは同じ言葉のはずだがな」


「くだらねぇ揚げ足取ってんじゃねぇ!」



 闘気を解放する。


 馬たちが一斉にビビり散らかした。



「戦うのが望みかい? 目的を間違えてやしねぇか?」



 コイツ、全く動じてやがらねぇ。


 胆力も相当ってわけかよ。



「止めなさい」


「ッ⁉ け、けどよぉ……」


「条件は一つ。世界樹を破壊しないこと。もし違えれば、アタシが人族を滅ぼしてやるわ」


「おっかねぇな。けどその条件、呑むぜ。どの道、そんな手段は持ち合わせてねぇがな」


「……いいんスか?」


「優先順位を間違えないこと。世界樹は一刻も早く止めないと不味いわ」


「父ちゃん母ちゃん……」


「クソッ」



 仕方なく、闘気を抑える。



「おいおい、納得してる風じゃねぇな」


「人族が世界樹を破壊したのは事実。いずれ報いは受けてもらうわよ」


「……ああ、覚悟はしてるぜ」


「? それで、そっちは何ができるのかしら?」


「悪いが足止めが精々ってとこだ。避難の時間稼ぎに出張って来ただけだしな」


「世界樹を足止めだぁ? 吹かすんじゃねぇよ」


「とっておきがあるのさ。ま、部下は使えねぇんだがな」


「なら、最終防衛線が妥当なところかしら」


「否やはねぇぜ」



 目の前でウロチョロされるよかぁマシか。


 ダチも親父とお袋も、助けなきゃだしな。


 日和見してるってわけにゃ、いかなそうだぜ。






本日は本編90話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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