87 無職の少年、根を断つ
考えるよりも、行動あるのみ。
幸い、魔力だけは有り余っている。
思い付く片っ端から試せばいい。
身体を幹に固定した状態だと、武器では根に届かない。
普通であれば。
魔装化なら、大きさだって自在。
その上、重さは無い。
イメージするのは、姉さんの大剣。
短剣ほどは上手くいかない。
不格好ながらも続ける。
長く大きく。
根元の太さは尋常ではない。
何メートルあるのかすら、定かじゃない。
大剣を伸ばす。
身長の2倍、3倍、5倍、10倍辺りで止める。
取り敢えずは、このぐらいで試してみよう。
身体の拘束を緩め、身体を反転させて剣を振りかぶる。
最後に、できるだけ鋭さをイメージしてやる。
何でもスパッと切断できる感じ。
──斬る!
狙いを定めるまでもない。
根は無数に存在しているのだ。
振れば当たる。
根に当たり、刃が食い込む。
が、切断には至らず、剣のほうが折られてしまった。
剣速が圧倒的に不足してるんだ。
根は常に動いているから、一瞬で切断できないと、食い込んだ剣が根の動きに耐え切れず、今みたいに折られちゃうのか。
もっと細い先端部分なら、何とかなっただろうけど。
根元では僕の腕前ぐらいじゃ、通用しないらしい。
重さがあれば剣速は増すだろうけど、今度は重過ぎて振れないだろうし。
そもそも、実体剣じゃないから、重さは備わらない。
この方法では駄目だ。
斬るのが無理なら、突くのはどうだろうか。
よく使っている棘を試してみよう。
全身から……だと幹への攻撃は楽だけど、根に対しては使い辛い。
両腕を根に向け、指先から棘を伸ばす。
長く鋭いイメージ。
突き刺さりはするものの、剣のときと同じく、容易く折られてしまう。
それに、攻撃箇所も少な過ぎて、根への効果は見込めない。
相当数繰り返せば、効果はあるのかもしれないけど。
せめてもっと広範囲に攻撃できないものか。
数は増やせる。
棘を枝分かれするみたいに、増やしてやればいい。
元々の本数にしても、腕からも生やしてやれるし。
だけど、切断には至らないだろうな。
刺さっても折られるのが分かり切っている。
一度に貫通させられないなら、何度も刺すしかないか。
ならいっそのこと、何度も伸縮させてやればいいのかも。
折られる前に縮めて、また伸ばして突き刺す。
後は、1本1本を互いに邪魔にならない程度に、なるべく太くしたりとか。
ひとまず、これで試してみよう。
再び両腕を向けて、打ち出す。
連打連打連打連打連打。
効果は劇的だった。
見る間に根元が抉れてゆく。
流石に一気にとはいかないけど。
何も完全に切断できなくても構わない。
これだけ大きいんだ。
ある程度削れば、自重で折れるだろう。
懸念があるとすれば、復元しないかってことだけど。
例え復元されても、その分魔力を消費してるのかな。
そうだといいんだけど。
ようやく1本の破壊が叶った。
自重に耐え切れず、その身を砕いて落下してゆく。
攻撃している間も、こうして破壊した後も、復元する様子はない。
勝手に復元するわけじゃないなら、ドリアードさんの注意が姉さんに向いているってことか。
もう視界内に姉さんらしき姿は見当たらない。
きっと場所を移したんだと思う。
もしかしたら、僕から注意を逸らすために。
僕も頑張らないと。
魔力はある。
けど、体力というか、疲労が蓄積してる。
魔装化を解除して休みたい。
足場は最悪。
ずっと酷い揺れに晒されて、気持ちが悪いし。
耳は轟音の所為で、耳鳴りが続いてる状態。
どれぐらい経ったのか。
そして、後どれぐらい続ければ世界樹を止められるのか。
妹ちゃんやアルラウネさんは大丈夫かな。
世界樹上の集落のみんなは無事なんだろうか。
家の中は、またぐちゃぐちゃに違いない。
思考が逸れる。
疲れてる。
身体もそうだし、精神的にも堪えてる。
あーもう、面倒臭い。
ずっと続けてられやしない。
一気に終わらせてしまいたい。
早く楽になりたい。
こんな馬鹿デカいものを相手に、人の姿でいる必要もない。
化け物には化け物で。
巨木を食らい尽くしてやればいい。
魔力は吸収し続けないといけない。
だから、此処からは移動できない。
手も足も胴体も不要。
噛み砕く牙と、届かせる首だけあれば十分。
巨大な顎。
イメージするのは、見たこともないドラゴン。
いや、胴体が無いから、精々が蛇かも。
幹から生える首長の竜。
視覚を同調させ、限界まで顎を開く。
獲物は間近にある根。
全力で噛みつく。
噛み砕く、食い千切る。
──さっさと折れろ!
苛立ちをぶつけるように、何倍もの太さのある根を砕いてゆく。
もっと大きく、もっと強く。
魔力を注ぐ。
ベキベキ、バキバキ。
ボキボキ、メキメキ。
何度も何度も噛みついて。
鬱陶しい根を破壊する。
効率的な方法ではないのかも。
けど、多少の鬱憤は解消される気がする。
ただただ貪り尽くす。
これで2本目か、それとも3本目か。
手当たり次第に噛みついてやる。
噛み砕いてやる。
と、不意に根から引き剥がされる。
いや、それどころか、幹からさえも。
慌てて周囲の確認に努める。
木製の巨大な腕。
それに捕まれているのだ。
『──何とも醜い姿じゃな。ともあれ、母の玉体を傷付ける蛮行、見過ごすはずがなかろう』
凄まじい力が加わえられる。
抵抗すらできず、無理矢理に幹から剥がされ、何処かへと投げ飛ばされた。
本日は本編90話までと、SSを3話投稿します。
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