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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
129/230

85 無職の少年、対世界樹戦開始

 眼前の光景を、形容すべき言葉が見つからない。


 想像でも夢の中でも、こんなモノを見るのは初めてだ。


 自走する木という異様。


 太さだけで身の丈の数倍はあろう根が無数に、蠢いて移動してゆく。


 大地を抉り、砂煙を巻き上げながら、人族を滅ぼさんと横切る。



「……想像するのと実際に目の当たりにするのとじゃ、迫力が段違いね」


「もっと先行しないと、今みたいに一瞬で置き去りにされちゃうわね」



 アルラウネさんと姉さんが、それぞれ感想を漏らす。


 いや、姉さんのは感想ではないのか。



「ウチが全力で走っても、あんなのに追いつけないよぉー⁉」


「下手に接近するよりかは、離れてたほうがいいわ。正直、アタシたちじゃ力不足過ぎるわ」


「一応、岩で進路を妨害してみるつもりよ」


「こっちの援護は、あまり期待しないでね」


「ええ。無理はしなくていいわ」



 今度は僕に向き直って、姉さんが告げる。



「いい? 弟君、よく聞いて。魔装化まそうかは防御重視で。武器か手で世界樹に触れて、魔力を吸収するのよ」


「……やってみます」


「もし振り落とされた場合、勝手に動かず、お姉ちゃんが迎えに来るのを待つこと。分かった?」


「分かりました」


「お姉ちゃんって呼んでくれれば、すぐに駆け付けてあげるからね」



 冗談なのか本気なのか、判別し辛い。



「えっと……はい」


「移動と同時に魔装化まそうかするわよ。じゃあ、行きましょう」



ゲート



 姉さんに腰を抱かれて跳び込む。


 移動した先は、世界樹正面。


 新種の化け物のように、巨大な根がこちらを呑み込まんと迫る。



魔装化まそうか



 イメージするのは頑強な鎧姿。


 すぐさま魔装化まそうかを行い、世界樹へと一気に迫る。






 速い。


 それも、物凄く。


 人馬の集落で抱えられて移動した時とは、段違いの速さ。


 風景が流れるなんてモノじゃない。


 一瞬で切り替わるような感覚。


 気が付けば、無数の根の只中にあった。


 大地を砕く轟音。


 もう音というよりかは衝撃だ。


 まるで捕食されかけているようにも感じる。


 そんな根の群れからも脱し、世界樹の根元へと辿り着いた。



「聞こえる、弟君!」


「はい!」



 轟音に掻き消されぬよう、互いに耳元で大声を出す。



「幹に手を突いて、魔力を吸収するのよ!」


「やってみます!」



 当然、移動中の世界樹は安定などとは縁遠い。


 今なお、激しく上下に揺れ続けている。


 姉さんに覆い被さられるようにして、幹へとしがみ付く。


 手と言わず、身体ごと幹に接触している状態だ。


 魔力を吸収……えぇっと、どうイメージすればいいだろうか。


 吸収……回復……エーテルを飲むような感覚かな。


 緑色の液体を取り込むイメージ。


 ジワジワと、身体に何か熱いモノが流れ込んでくる感覚。


 多分、これでできてると思うけど。



「いいわ、その調子よ!」



 状態が伝わったのか、そう声が掛けられる。



「もし魔力が溢れそうなら、魔装化まそうかで移動の妨害を試してみて!」


「分かりました!」


「でも、世界樹への攻撃は厳禁よ! 反撃される恐れがあるからね!」


「はい!」



 言われたとおり、力が消耗するどころか、溢れてくるような感覚がある。


 攻撃しないように妨害って、結構難しいと思うんだけど。


 どうしようか迷っていると、姉さんが動いた。


 幹から片手を離し、根のほうへ向けて腕を横に振るう。


 呼応するように、地面が隆起した。


 根の先に見えていた風景を遮る。


 岩壁。


 根の高さを優に越えて、世界樹の進行を遮る。


 当然、止まることなど叶わず、速度が乗ったまま激突した。






 宙に浮く身体。


 幹からも姉さんからも離れてしまう。


 根の群れが岩壁へと殺到し、粉砕している。


 巻き込まれれば耐えきれるか分からない。


 あそこに落ちるのはマズい。


 イメージするのは、アルラウネさんのつた


 幹へ移動したいが、太さがあり過ぎて巻き付けない。


 突き刺せば容易いのだろうけど、攻撃しないよう言われている。


 仕方なく手近なものへと巻き付けてゆく。


 周囲で蠢く無数の根だ。


 1本1本が僕の身体より何倍も太いけど、幹に比べれば十分細い。


 左右に複数本伸ばし、ひとまず落下を免れる。


 どうにかして幹へ戻らないと。


 いや、何も幹じゃなくたって、世界樹の一部に触れてさえいれば、魔力は吸収できるのか。


 ならばと、つたを更に増やして伸ばす。


 片っ端から根に巻き付け、魔力を吸収してやる。


 根の動きを鈍らせれば、妨害になるだろう。


 つたで動きを止めるには、こちらの力が絶望的に足りない。


 けど、根同士なら、力は互角なはず。


 つたで根同士を括りつけてやる。


 幾ら魔力が余ってても、全部を拘束するのは無理そうだ。


 姉さんは何処だろうか。


 無事だとは思うけど。






 遂に岩壁を突破したのか、再び元の風景が戻ってきた。


 かと思いきや、待ち構えているのはまたしても岩壁。


 姉さんの仕業に違いない。


 吹き飛ばされないよう、つたの拘束を強める。


 激突。


 轟音、衝撃、揺れ。


 既に気持ちが悪い。


 これで、どれぐらいの足止めになっているのだろうか。


 魔力切れまで、後どれぐらいかかるんだろう。



『──わらわの邪魔をするつもりか』



 突然、全ての音を遮り、ドリアードさんの声だけが響き渡った。


 ブルッ。


 全身に震えが走る。


 慌てて周囲を見回すが、何処にも姿は無い。


 声だけ聞こえたのか。


 けど、妨害には気が付かれたみたい。


 あんな岩壁が突然現れれば、そう考えるのも無理はないだろうけど。



『──ね。其方そなたたちを巻き込みとうはない』



 まるでこちらが見えているような物言い。


 声に怒りは無い気がする。


 それでも、めるつもりはないんだね。



『──わらわがより住み易い世界へと変えてやろう。事が済むまで、大人しゅう待っておれ』



 駄目だよ。


 それじゃあ、駄目なんだ。


 世界樹が滅ぼす中に、アイツが含まれているなら。


 見過ごすことなんて、できないよ。


 僕のすべきことなんだ。


 誰にも邪魔はさせない。


 邪魔するなら、容赦はしない。


 もうこちらの存在は露見している。


 なら、攻撃を控える必要もないだろう。


 つたに力を加える。


 強く強く。


 拘束を強め、締め付け、捻じ切る。


 根を断つ。


 断つ、断つ、断つ。


 次々と。


 捕らえたものはすべからく。



『──無駄じゃ』



 断たれた根が、生え代わる。


 次々に。


 そうして全ては元どおり。


 戦いは終わらない。






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

巨大な世界樹を相手取る少年と姉。

そこに現れるのは果たして……?


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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