84 無職の少年、挑む前にすべきこと
これからどうするべきか。
避難もできず、他の精霊の助力も求められない。
門は凄く便利な力だけど、使えなくなると途端に手詰まりだ。
他の移動手段が無くなってしまう。
せめて空でも飛べたら、集落のみんなを助けられるのかもしれないのに。
……でも、追い付けるとは限らないのかな。
世界樹が巨大過ぎて実感が湧かないけど、一度に移動している距離がとんでもないのかも。
「ひっく、えっぐ」
「ほら、落ち着いて。みんなを見捨てたりなんかしないから、ね?」
「でも、でもぉ」
「世界樹の結界は復活していたはず。少なくとも、落ちたりはしないわ」
「うえぇーーーん‼」
「ちょっと! 泣かしてどうするのよ!」
姉さんが妹ちゃんを慰めてるけど、あんまり効果はないみたい。
いつまでも此処に居たって、どうしようもない。
どれだけ泣いたって、助かったりはしないんだ。
当たり前だ。
助けなきゃ、助からない。
何か方法はないのだろうか。
さっき聞いていた限りでは、遠くじゃないなら門で移動もできるみたいだけど。
ただ、コロポックル無しじゃ、世界樹への移動はできないんだよね。
世界樹のそばには移動できるんだろう。
けど、その後どうするか。
山ほども大きさがある世界樹相手だ。
当然、力で敵うはずもない。
世界樹が動くなんて、考えもしなかった。
普通はそんなこと考えない。
植物は、普通動かない。
……ん?
じゃあ、どうやって世界樹は動いてるんだろう?
「あの、世界樹って、何を動力源としてるんでしょうか?」
「ボウヤ、今はそれどころじゃ──」
「待って。そうか、そうよね」
「何がよ?」
「魔力よ! 世界樹を動かしてるのは魔力!」
そっか、やっぱり魔力で動いてるのか。
けど、それなら。
魔装化が解けちゃうのと同じことが起きるんじゃないかな。
「そりゃあそうでしょうね。それがどうかしたの?」
「ドリアードでも、そう長くは世界樹を動かし続けられないはず。どう考えたって、魔力消費が激し過ぎるもの」
「……考えてみればそうよね。きっと怒りに任せてのことでしょうし、いつかは魔力切れで止まるってわけね」
「なら、妨害にも意味は出てくるわ」
「より魔力消費を促すってことね」
「それに、時間を稼げば、他の精霊が異常に気が付いて、手を貸してくれるかもしれないし」
「……それはどうかしら」
「ちょっと、何でよ?」
「考えてもみなさい。門がまともに使えないから、困ってるんでしょうが」
「それは分かってるっての。それが何?」
「こっちから移動できないのと同様に、向こうからだって移動は無理なんでしょ」
「あ! そっかぁ……はあぁ~、いい考えだと思ったんだけど……」
少しは光明が見えたような流れだったのに。
そう上手くはいかないみたいだ。
「……けど、やるしかないわ」
「アルラウネ?」
「人族のことは、正直どうでもいいけど」
「なら何で」
「平和を維持し続けてきたドリアードに、自らの手で台無しにさせたくないもの」
「そう……そうかもね」
「ウチだって! 父ちゃん母ちゃんを助けたい!」
ドクンドクン。
胸が疼く。
「弟君も、それで構わない?」
「はい、もちろんです」
「ブラックドッグは付いて来てもらうとして、スライムが心配ではあるんだけど」
『イッショ』
『ナカマ』
「置いていくわけにもいかないわよね」
みんなで世界樹を止めに行こう。
「けどまだ、肝心な問題が残ってるわ」
「……今、確実に出発する流れだったでしょ」
アルラウネさんの言葉に、姉さんが突っ込んだ。
僕も出発すると思った。
「無策で突撃したって、碌に動けないわ。どうやって妨害するか、考えてから行くべきでしょ」
「現場じゃないと分からないことだってあると思うけど」
「アンタとボウヤは魔装化があるけど、アタシたちは素手なのよ」
「う、うん。ウチ、弓矢持ってきてないし」
「例え持ってきても、役には立たないでしょ。魔法はどう? 封印は解けたって聞いたけど」
「アタシはともかく、オーガにはまだ無理よ」
「あぅ……」
「怪力で押し返す、ってわけにもいかないでしょうしね」
「無理だよぉ」
「身体能力はアルラウネより妹ちゃんの方が上なんだし、アルラウネの護衛ってことでどう?」
「ウチだって戦いたい!」
「それが目的ってわけじゃないでしょ?」
「けど!」
「世界樹は移動してる。なら、こっちも動いて妨害するしかないわ。アルラウネを助けてあげて」
「うぅーーー」
「アタシは魔法、オーガは護衛として、アンタたちは?」
「魔装化しかないわ。結構効果的だと思うしね」
「どういうこと?」
「魔力の吸収よ。接触する必要があるけど、魔力を消費させるって点では、申し分ないでしょ」
「なら、移動の妨害は? アタシの魔法なんかじゃ、どうにもならないわよ?」
「それは……えっと、そうね。アタシが並行してやるしかないかしら」
「できるの?」
「魔力は吸収してれば足りると思うけど、こればっかりは相手の動き次第ね」
「ボウヤを守りながらでも?」
「……正直、絶対の自信はないわね。ただ、弟君の安全を優先して行動するつもりではいるわ」
「姉さん⁉」
姉さんに頼ってもらえたと、そう思ったのに。
戦うのは苦手だけど、それでもまだ守られる存在なのが悔しい。
「どんな覚悟を決めようと、きっと身体が勝手に動いちゃうと思うし」
「……ならこうしましょう。アタシはボウヤたちの支援に徹するわ」
「妨害はどうするつもりよ?」
「どうせ効果なんて見込めないもの。なら、より有益な行動をすべきでしょ」
「けど、注意してよ? そっちは魔力の回復なんかできないんだから」
「いつもの薬は持ってきてないのね」
「ご覧のとおりよ。装備だってないわ」
「ここぞってタイミングでだけ、魔法を使うよう心掛けるわ」
「作戦はこんなところかしら? そうそう、位置取りは正面よりも側面のほうがいいわよね」
「でしょうね。一瞬で踏み潰される未来しか想像できないし」
「スライムたちは任せるわね」
「ええ。アタシが抱いておくわ」
『トモダチ、マモル』
「駄目よ。一緒のほうが、かえって危険だわ。今回は大人しくしてなさい」
『シンパイ』
「大丈夫だよ。姉さんも一緒だし」
『マタ、アソボ』
「そうだね」
『クダモノ、ホシイ』
「アハハ、全部終わったら、果樹園で探してみよう」
『ガンバル』
今まで、戦いの前は緊張と不安ばっかりだったのに。
不思議と、今は落ち着いてる。
戦う相手は、今までのどんなモノよりも巨大で強力過ぎるけど。
あの場所には家があって、知り合いだって多くはないけど居る。
失いたくはない。
それになにより、アイツを先に倒されるわけにはいかないんだから。
本編85話まで投稿します。
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