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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
127/230

83 無職の少年、世界樹暴走

 突然、ドリアードさんが叫んだ。


 様子の急変に、理解が追い付かない。


 こちらに構わず、事態は進行した。


 激震。


 世界が揺れる。


 あまりの勢いに、椅子から吹き飛ばされた。


 来たる衝撃に備える。


 ポスッ。


 が、予想に反して、痛みは訪れなかった。


 代わりに、柔らかい感触が迎える。


 視線が要因を捉える。


 までもなく、理解はしていた。


 姉さんが抱き留めてくれたのだ。


 立っていられる状況でもなく、地面に倒れ込むようにして互いに抱き合う。



「──────」



 姉さんが何かを言っているが、揺れに伴う轟音で聞き取れない。


 多分内容は、怪我がないかとか、心配しないでとかだと思う。


 未だ、激しい揺れは継続している。


 下手に喋ることもままならない。


 返事の代わりに少し抱きしめる力を強める。


 応じるように姉さんも強く抱きしめ返してくれた。


 揺れる視界の中、みんなの姿を探す。


 まず捉えたのは、いつの間にか巨大化したブラックドッグの姿。


 前足で2体のスライムを踏み潰し──いや、揺れから守っている。


 アルラウネさんと妹ちゃんは、同じく地面に倒れていた。


 ハッキリとは分からないけど、緑に覆われているっぽいから、アルラウネさんがつたで庇ってるのかも。


 ドリアードさんの姿だけは、何処にも見当たらなかった。






 揺れの所為で気持ちが悪い。


 情けないけどグッタリして、地面に体重を預ける。


 と、いきなり揺れが激減した。


 風景も様変わりする。


 壁が消え、平野が広がる、どこか見覚えのある光景。



「弟君、大丈夫⁉」



 声も普通に聞こえた。


 気持ち悪さを抑え、どうにか返事をする。



「えぇ、何とか……けど、ここは……?」


「ケンタウロスの集落よ。今はもぬけの殻のはずだけどね」



 なるほど。


 どおりで見覚えがあったわけだ。


 きっと、ゲートで移動してくれたのだろう。



「あ! 他のみんなは⁉」


「大丈夫。置き去りになんてしてないわ」



 慌てて見回すと、確かにみんなの姿もあった。


 不思議なのは、アルラウネさんから伸びたつたが全員に絡みついていること。



「何とか身振り手振りで伝わって良かったわ」


「全くよ。あのまま揺れに晒され続けたら、堪ったものじゃないもの」



 シュルシュル。


 つたがアルラウネさんの元へと戻ってゆく。



「何だったの、アレ⁉ 訳分かんないよぉー」


「ドリアードが何かしたみたいだったけど」


「いえ、その前に人族が動いたのよ。また世界樹が倒されたんだと思うわ」



 アルラウネさんの言葉に、姉さんがそんな返事をした。


 また世界樹が?


 なら、さっきの揺れもそれが原因?



「ドリアードが何をするつもりなのかは、アレを見れば一目瞭然なんじゃない?」



 姉さんが指さす方向。


 みんなと同じように、そちらを注目する。



「世界樹が……動いてる……?」



 無数の根が地面から這い出て、蠢いている。


 巨大過ぎて分かり辛いけど、向かっているのは人族側?



「あの世界樹って、さっきまでウチたちが居た所なんじゃ……」


「よっぽど頭に血が上ってるみたいね。母そのものを動かすほどに」


「父ちゃん母ちゃんを助けないと!」



 ドクンドクン。


 胸が疼く。


 妹ちゃんの悲鳴のような叫びが、辺りに響き渡る。



「確かに、世界樹の集落は、今なお揺れに晒され続けているはずよ」


「けど、コロポックル無しじゃ、アタシのゲートでは向こうに戻れないわ」


「そんなぁ⁉」


「こうして出てきた以上は、もう自力では戻れない。どうにかして、外から止めるしかないわ」


「止めるって、相手は世界樹なのよ⁉ あんな巨大な物をどうやって止めるって言うの⁉ 無理に決まってるでしょ!」


「止められなければ、被害は集落の皆だけに留まらない。進路上にある全てが、抵抗する間も与えられず踏み潰されるでしょうね」


「それは……だけど、どうやって」


「こっち側から追い駆けたんじゃ間に合わないわ。先回りして待ち構えましょう」


「待ちなさいよ! 勝手に動こうとしないで!」


「何よ? 反対するつもりなの?」


「いくらアンタでも、ドリアードの力には敵いっこないでしょ! もうアタシたちには、どうしようもないわよ」


「じゃ、じゃあ、父ちゃん母ちゃんは……?」



 ドクンドクン。


 胸が疼く。



「……残念だけど」


「そんなの嫌ぁー‼ うわあぁーーーん‼」



 一気に場が騒然となってしまった。


 誰がどう見ても、無理だ。


 世界樹が動き出すなんて、誰が想像できただろうか。


 空を飛ぶか、よっぽど速く移動できない限り、逃げられやしない。


 そう、人族はもう助からない。


 …………いや、それじゃあ困る。


 アイツを倒せなくなる。


 倒すために助けなきゃならないなんて、訳が分からないけど。


 例えドリアードさんだろうと、それだけは許せない。



「僕も行きます」


「何言ってるの⁉ ボウヤも行っちゃ駄目よ!」


「止めないと、目的が無くなってしまうんです」


「駄目! とにかく、アタシたちの力じゃどうしようもないの。せめて、他の上位精霊を頼らないと」


「……それもそうね。気が動転してたみたい。当てにできそうなのは、母とサラマンダーぐらいかしら」



 ドクン。


 胸が疼く。



「2体居てくれれば、何とかなるかしら……?」


「そう願うわ。他は住処に移動もできないし」


「この場所からも、早く移動したほうがいいでしょうね。またいつ人族が襲ってこないとも限らないのだし」


「はいはい、取り敢えず賢者の所にでも避難していて頂戴」



ゲート



「……あら? おかしいわね」


「何よ、どうかしたの?」


「繋がらないわ」


「はぁ?」


「昨日はできたのに……どうして……?」


「あの、世界樹が倒されたからじゃないですか? 前もそれで移動できなかったんですよね?」


「うーん、ここまでの移動ができてるのは何故かしら」


「できないことを考えるより、できることを考えるべきじゃなくて? 精霊の住処への移動はどうなの?」


「試してみるわ」



ゲート



「……やっぱり駄目ね。一定以上の距離で繋がらなくなってるのかも」


「じゃあ、助けも呼べないってわけね」



 希望の後の絶望。


 妹ちゃんの泣き声だけが、辺りに響き渡った。






二章の山場へと突入してゆきます。



本編85話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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