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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
126/230

SS-37 オーガ兄の闘い①

 大地が罅割れていた。


 原因はもちろんのこと、倒れた世界樹によってに違いあるまい。


 幹は大地へと沈み込み、姿を半ば埋めている。


 そして周囲の大地もまた、谷のように陥没していた。


 異様な地形。


 そんな場所を、赤い影が物凄い速さで移動してゆく。


 引き離されぬよう、必死に追い駆ける。


 師匠の目指す先には、複数の人影が見えてきている。


 あんな連中が、世界樹の倒壊を成し得たのか?


 人族。


 どいつもさして強そうには見えない。


 …………いや。


 1人だけ、妙な気配のヤツが混じってるな。


 他にも鎧姿のヤツは居るが、そいつだけ違う装備をしてもいる。


 アレは師匠の獲物になるだろう。


 なら、他の連中はオレが片付けておかないとな。






 谷を抜け、対岸に辿り着く。


 少し前から、こちらに気が付いていたのだろう。


 鎧を着てないヤツが馬で逃げてゆく。


 一方で、鎧姿の連中は、全員残って対峙する腹積もりのようだ。


 まぁ、なんつぅか。


 力量差も推し量れない程度の連中らしい。



「よう、オマエらの仕業だよな?」



 色々と省かれた問い掛けが、師匠から発せられた。



「フゥ……これほど早く、魔族に接敵するとは。いやはや、ツイてないですね」



 真っ先に応じたのは、妙な気配を発してるヤツだった。


 他の連中は銀色の鎧なのに対し、頭の天辺から爪先まで、真っ白い鎧を着込んでいる。



「オレサマの相手は、オマエがしてくれるってわけか」


「見逃してくれるならば、このまま退散させていただきますがね」


「抜かせ。闘気が漏れてるぜ?」


「おっと、気が逸ってしまいましたか。どうにも魔族って存在が苦手なようで」


「さっきから魔族呼ばわりしてやがるが、オレサマは別口だ」


「……と、仰いますと?」


「知りたきゃ拳で語らせてみせな!」



 師匠が一気に距離を詰め、もう殴り掛かっていた。


 が、寸でのところで剣で受け止められている。



「グッ⁉ 随分と好戦的な手合いのようですね」


「これぐらいの速度には付いて来れるってわけか。なら次はどうだ?」



 乱打乱打乱打。


 師匠の拳が複数に見えるほどの速度。


 相手の剣など、追い付けるはずもない。


 容易く剣を破壊し、相手を一瞬でボコボコにした。



「……どうやら、速度では敵わないようですね」


「ほう? 今のを耐えたってか。頑丈さが取り柄ってわけか?」



 んな馬鹿な。


 まだ本気じゃないとはいえ、岩ぐらい容易く砕いてみせる拳なんだ。


 あれだけモロに食らっておいて、鎧が凹みすらしてないなんて……。



「副団長代理! 代わりの剣を!」


「おっと。どうも、助かります」


「馬鹿弟子! ぼさっと突っ立ってんじゃねぇ! 雑魚は片しとけ!」


「う、うッス!」



 いかんいかん。


 悠長に観戦してる場合じゃなかった。


 銀色の連中は倒しておかないと。


 師匠たちの横を駆け抜ける。



「────おっと、部下に手出しはさせませんよ」



 ヒュン。


 下から斜め上へと、剣閃が放たれていた。


 遅い遅い。


 速度を落とさず、サイドステップで躱して奥へと駆ける。



「余所見してる暇なんかねぇと思うぜ」


「クッ⁉」



 そんな声を背に聞きつつ、まずは1人目!


 剣を正面に構えたまま、動けずにいるヤツを殴り飛ばす。



「ガハッ⁉」



 残り6。


 足は止めない。


 軸足を支えとして回転。


 次へと突撃する。



「こ、こいつ!」



 遅いっての。


 口より先に身体を動かせよな。


 相手は得物あり。


 剣、槍、弓。


 ハッ、それがどうした!


 距離を詰めれば、全部こっちの間合いだ。



「ギャッ⁉」



 残り5。


 1対1は不利と見たか、密集しだした。


 構わず真正面へ突撃。



「やれ!」



 斬り、突き、射る。


 タイミングは悪くねぇ。


 だが、そいつは速度が変わらなかったらの話だ。


 足を踏み込む。


 一際強く。


 狙うは剣持ち。


 他は点だが、あれだけ線の動き。


 より速く駆けてやれば、先に攻撃が届くのはオレのほうだ。


 身体を正面へと撃ち出す。


 剣より拳のほうが速いんだよ!



「んな、ば──グボォ⁉」



 残り4。


 それも至近に。


 集まってくれて大助かりだぜ!


 滑るように移動する。


 そして殴る。


 都合4度。


 それで終いだった。





 さてっと。


 倒しはしたが、まだどいつも息はある。


 油断大敵。


 きっちりトドメを刺しておくべきだわな。


 得物に頼るのは主義に反する。


 頭を踏み砕けば済む話か。



「────馬鹿弟子! 跳べ!」



 疑問など抱かない。


 思考を介さず、その場から全力で跳び退く。


 すると、先程まで居た地面から、光の剣が無数に生えてきた。


 見たこともない攻撃だ。


 空中から周囲を見渡す。


 円形に展開された光の剣の群れ。


 その中心に居たのは、例の白い鎧だった。


 地面に手を突いた姿勢。


 アイツの仕業らしいが、何をしやがったんだ?


 師匠の声がなけりゃ、オレも今頃は串刺しかよ。


 ご丁寧に、味方の身体は避けてやがる。


 野郎……マジで何者だ?


 範囲外へと着地。


 が、油断せずに更に距離を取る。


 攻撃は地面からだけなのか?


 空中にも出せるなら厄介だが。


 と、地面を覆っていた剣群が消え失せた。


 敵が地面から跳び退いている。


 地面から手を離すと、アレは使えないのか。



「面白れぇ! だが、不意打ちするには速度が足りねぇな」


「部下を死なせるわけにはゆきませんからね」



 さっきの攻撃。


 あれはオレへの牽制だったってわけか。


 師匠と戦いながら、こっちの様子まで窺ってやがったのかよ。



「弱いヤツの面倒を見てやるたぁ、群れの長としては上等だ」


「それはどうも」


「だがな、力を無駄に使ってる余裕はねぇと思うぜ?」


「無駄ではありませんとも。現に彼らは救えた。彼らが生涯に於いて何を成すかなど、神ならぬ身には分からぬでしょう」


「いいや、分かるぜ。オレサマを倒せなきゃ、揃ってお終いだってことがなぁ!」



光縛ロック



「グッ……さっきといい、今といい。魔法が使えるってわけか」



 突如、光の鎖が現われ、師匠を拘束した。



「これも、世界樹を破壊した影響でしょうかね。何が幸いするか分かりません」



 まほう……魔法?


 精霊様が封印したんじゃなかったのか?


 いや、世界樹を壊して回ってるのは、封印解除のためだったのか?



「こんなもんじゃ、オレサマは止められねぇぜ!」



 師匠が鎖を引きちぎる。


 鎖だったものが粒子となり霧散してゆく。



「……でしょうね。もっと強力なのが必要そうですか」


「あるなら出し惜しみせず使いやがれ」


「まだ慣れていませんもので。時間をいただければ、それも叶うでしょうがね」


「見逃してやる気はねぇな」


「それは残念。では、もう少しだけ頑張るとしましょうかね」


「少しだと? 足りねぇよ、全然足りねぇ」


「どうでしょうか。何かが起きる。そんな予感がずっとしているんですよ」


「気持ちの悪いヤツだな。真面目に喧嘩しやがれってんだ!」



 世界が揺れる。



「あん?」


「おっと、これは……」



 長い揺れ。


 止まらない。



『厄介なことになったぞ』


「まさか、オマエの仕業か?」


『違うわい。世界樹に異変だ。止めねば大変なことになる』


「また世界樹かよ」



 頭上から影が差す。


 巨大な赤いドラゴンが飛んできていた。



『あちらのほうが、余程に手強い相手だろう。どうする?』


「何だと⁉ あー、うー、うがぁーーー!」



 白い鎧へと師匠が向き直る。



「いいか! 今回は見逃してやらぁ! 次こそは全力で相手しやがれ!」


「次回が訪れないことを願っておきます」


「連れてけ!」


『分かった』



 ヤバッ!


 このままだと置いて行かれそうだ。


 慌ててドラゴンへと駆け寄る。



『……今代の勇者か。因果なものだな』


「おや、ご存じでしたか。ドラゴンとの因縁があったりするんですかね?」


『仇だ』


「……それはまた。厄介な天職もあったものですねぇ」


「おいおい、先約はオレサマだぞ! オマエは次だ」


『遠い昔の話だ。今代の勇者に責を問う気はない』


「それは何より」


『だが、世界樹の破壊は見過ごせぬ。いずれ戦うことになろう』


「……成程。そう言われては仕方がありませんね。またの機会にでも」


『是非もない。勇者が平和を乱すというなら、倒すに些かの躊躇もない』


「だ・か・ら、オレサマが先だっつってんだろうが!」



 人族たちをその場に残し、ドラゴンが高度を上げてゆく。


 アレが勇者……。


 ダチの家族を皆殺しにしたヤツだったのか。


 なら、オレにとっても無関係とは言えねぇ。


 次は命を貰う。






本編85話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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