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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
124/230

82 無職の少年、再びの異変

 食事を終えて、着替えを済ませたら、ドリアードさんの住処へと向かう。


 道中で妹ちゃんにバッタリと会った。


 足を止めて応じる。



「どう? 久々の団欒は堪能できた?」


「うん! あの、昨日はゴメンね」


「気にすること無いわ。それだけショックだったんでしょうし」


「ウチ、あんなに頭に来たの初めて。ワーってなって、ガァーってなって、グチャグチャになっちゃった」



 凄い表現だけど、何となく分かる気がする。


 どこから生じるのか。


 感情の奔流。


 すぐに呑み込まれて、我を失ってしまう。



「気持ちは落ち着いた?」


「……多分」


「家族とゆっくり過ごすといいわ」



 ドクン。


 胸が疼く。



「オネーチャンたちは、何処に行くの?」


「ドリアードの住処よ。昨日はアルラウネに投げっぱなしにしちゃったけど、アタシからも説明しとかないとね」


「付いて行ってもいい?」


「それは別に構わないけど、家に居なくていいの?」


「妙に世話を焼かれるから、居心地が悪いんだよぉ」


「それだけ心配してたのよ」


「かもだけどぉ。ずっとそばに居られるのはちょっとねぇ……」



 それは……。


 それは何て贅沢な悩みなんだろう。


 もうどれだけ望んでも得られないモノ。


 ズキン。


 胸が強い痛みを発した。


 掴むように胸を押さえる。



『トモダチ、ダイジョブ?』


『ドコカ、イタイ?』



 素早く反応したのはスライムたちだった。


 慌てて平静を装う。



「ううん、何でもないよ」


『シンパイ』


「本当に大丈夫だよ」



 ブラックドッグの背に乗るスライムたちを撫でてやる。



『ナデナデ、スキ』


「あ! あのさあのさ、何でスライム増えてるの?」



 こちらを見て、今度は妹ちゃんがスライムに反応した。



「その説明がまだだったわね。けど、アルラウネにも同じ質問されそうだし、住処に着いてからにしましょう」



 ドリアードさんには、もう僕が説明したも同然なんだけど。


 何だか、会話に割り込めない。



「えぇーッ⁉ 今教えてよぉー」


「嫌よ。絶対、二度手間になるもの」


「オネーチャンの都合じゃんかぁー」


「知りたいのは妹ちゃんの都合でしょ」


「ブーブー」


「もう、弟君よりも子供なんだから」


「うえぇーッ⁉ ウチの方が年上だよぉ!」


「知ってるわよ。精神年齢がってこと。さ、行きましょう」



 姉さんに促され、歩みを再開する。


 まだ賑やかに話している二人の後を、少し離れて付いて行く。


 胸がモヤモヤする。


 妹ちゃんが悪いわけじゃないんだけど。


 やっぱり思い出すのは辛い。






 ドリアードさんの住処に到着する。


 既に植物で編まれた椅子に腰かけ、アルラウネさんと何かを話している真っ最中だった。



「おはよ」


「もう昼間近だけどね」



 姉さんの挨拶に、すさかずアルラウネさんが応じた。



「そこは挨拶を返すのが普通でしょ」


「はいはい。おはよう」


「おはようございます」


「おっはよぉー」


『『オハヨウ』』


「――おはよう。ふむ、こう賑やかなのは久方ぶりじゃが、良いものじゃな」



 みんな、一斉に挨拶を交わす。


 ブラックドッグはしなかったけど。



「もう粗方話し終わった感じかしら?」


「――凡そはな。其方そなたの報告も聞こうか」



 植物の椅子が更に3つ増えた。


 姉さんから順に座る。


 足下にブラックドッグが伏せた。



「どこから話したらいいかしらね」


「はいはい! スライムが増えたところ!」


「そればっかりね。まぁいいわ。じゃあ、世界樹が破壊された日から話していこうかしら」



 グノーシスさんの住処から戻ってきたあの日。


 凄まじい揺れに見舞われて、日常が変わった。


 外との断絶。


 集落のみんなの不安と不満。


 姉さんとすれ違うような生活。


 デヴィルの襲撃。


 庇ってくれたスライムが、死んじゃったかと思ったら2体に増えたりして。


 あれから数日。


 昨日、やっと外への移動が可能になった。


 姉さんがアルラウネさんたちを迎えに行ったけど。


 人族の襲撃後に到着し、石像の治療や人馬の避難をしたらしい。



「――人族が単独でゴーレムに敵うものかのう」


「ウチ、見たもん! 青髪の女が逃げてった!」


「他に覚えてる特徴はある?」


「えっとえっと……鎧姿で……変な形の槍を持ってた、かな」


「……聖都で戦った騎士っぽいわね」



 青髪……以前見た、空色の髪を思い出す。


 一緒に姉さんを探してくれた女性。


 もしかして、あの人なのかな。


 だとしたら、嫌な偶然過ぎる。



「オネーチャン、知ってるの⁉」


魔装化まそうかっぽい力を使って槍を出現させたのよ。ごーれむちゃんが負けたのも、その力の所為かもしれないわ」


「――オーガの娘よ。敵の力については、何か見ておらぬのか?」


「えっとねぇ……変な槍が光ってたと思う。すっごく速く動いてて、矢も当たんなかった」


「――何か思い当たらぬか?」


「槍が光るっていうのは、見てないわね。それが奥の手だったのかも」


「それほどの力を持っていながら、何で攻め切らなかったのかしら」



 アルラウネさんの一言に、場が静まる。


 少し間を置いてから、姉さんが口を開いた。



「敵は間違いなく単独だったの? 他には居なかった?」


「遠くから沢山の火矢が飛んできたから、他にも居たはずよ」


「――ふむ、特殊な力を有しておるのは、ごく一部なのかもしれんな」


「普通の騎士たちは、妙な力は使えないってこと?」


「――かもしれぬ、という話じゃて」



 何とも手持ち無沙汰だな。


 こうして一緒に座ってるけど、話すことも特にないし。


 訓練でもしてたほうがいいかもしれない。


 席を立とうとする。


 と、ドリアードさんの様子が一変した。



「――おのれ……おのれぇッ! 一度ならず二度までもッ!」


「ドリアード⁉」


「ちょっと、いきなりどうしたのよ⁉」



 怒りを滾らせている。


 誰から見ても分かるほどに。


 姉さんやアルラウネさんが声を掛けるが、反応を示さない。


 どこか別の場所を見ているような感じだ。



「――それが人族の選択というわけか。ならば、諸共滅びるがよいわ!」



 ドリアードさんが叫ぶ。


 まるで呼応するように、世界が激震した。






本編85話までと、SSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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