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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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80 無職の少年、情報共有

 家に着くなり、お風呂にも入らず、姉さんは二階へ上がり寝てしまった。


 よっぽど眠かったみたい。


 吹き抜けの空は明るい。


 日が沈むのは、まだまだ先のことらしい。


 まずは溜まっている洗濯を済ませてしまおう。


 なるべく音を立てないよう、気を付けながら消化してゆく。


 世界樹の利点は、雲の上だってこと。


 雨に降られる心配がないし、日中ならよく乾く。


 掃除もしたいところだけど、姉さんの安眠の邪魔はしなくない。


 グッと堪えて、外に出る。


 日が沈むまでは、家の外で筋力トレーニングをしよう。


 すぐそばでブラックドッグが身を伏せる。


 2体のスライムは、僕の真似をしているのか、体を曲げたり、伸び縮みしたりしてる。



『シュギョー』


『キタエル!』



 スライムに効果があるようには思えないんだけど。


 真似されてるのは、少し気恥ずかしい。


 集中を乱されつつも、ヘトヘトになるまで続けた。






 日が沈み始めたので、家の中へと戻る。


 と、いつの間にか姉さんが起きていた。


 しかも珍しいことに、掃除してる。


 予想外の連続で、少しの間、玄関で棒立ちしてしまう。



「ん? どうしたの、弟君?」


「…………あ、いえ、何でもないです」



 正直には言い辛い。


 余計な言葉は呑み込んでおく。



「あ、洗濯物も取り込んでおいたからね」


「有難うございます」


「じゃあ、少しお話しましょうか」


「え? はい、構いませんけど」



 そう言うと、姉さんが居間の席に着いた。


 倣うように、近くに座る。



「明日、ドリアードの住処でも話すと思うけど、一応、何があったのか伝えておくわね」


「分かりました」



 聞かされる内容は、想像の範疇を超えていた。


 人族の襲撃、石像の重傷、集落の被害、人馬の避難。


 まさか待っている間に、そんなことが起きてたなんて。


 集落の被害に関しては、世界樹が破壊された影響らしいけど、それだって人族が原因には違いあるまい。


 石像は賢姉けんしさんが修復中らしい。


 核っていう部分が損傷しているかが問題なんだとか。


 詳しくは聞いても、よく分からなかった。


 ただ、妹ちゃんの様子がおかしかったのは、石像が倒されたことが関係していたみたい。


 考えている以上に仲良くなっていたのかな。


 スライムが倒されて取り乱したみたいに、妹ちゃんもそうなっちゃったのかも。


 なら、分からなくもない。


 集落は家が全部壊れちゃったらしい。


 立派な果樹園だけは、ある程度は無事だったみたいだけど。


 一緒に聞いてたスライムが、しきりに果樹園を心配していた。


 建物を修復しつつ、襲撃に備えるっていうのは難しいみたいで、人馬たちは協会に身を寄せることにしたみたい。


 そんなことがあったから、帰りが遅かったんだ。


 眠そうだったのも、移動で魔力を使い過ぎたのかも。






 話を聞き終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。



「今夜も見回りに出るんですか?」


「ドリアードが守りに力を回したみたいだし、今日は様子見しようかしら。まだ眠気が取れてないしね」



 なら、久しぶりに姉さんと一緒に寝れるんだ。


 いつもだと、ちょっと面倒臭いけど、久しぶりだと妙に嬉しい気がする。



「あら? 何だか嬉しそうね」


「そ、そんなことはありません。全然ありません」


「そう? 明日は食料調達に行かないといけないわね。人族や魔族への対応もしたいところだけど」



 世界樹の外に行けるようになったら、やることが一気に増えちゃう。


 僕にもやりたいことはあるし。



「グノーシスさんの住処へは、いつ行けますかね」


「そっか、訓練の続きもあったわね。あそこなら安全かもだけど、一人で預けておくのは心配なのよね」



 一人でも大丈夫、と言いたいところではあるけど。


 姉さんが止めに入ってくれないと、酷い目に遭うのは身に染みてる。


 そもそも、ブラックドッグと一緒なんだし、独りきりじゃないけどね。



「当分は一緒に行くのは無理そうかしら……特に、人族をどうにかして止めないと、世界樹も地上も危険だわ」


「そう、ですよね。済みません、無理を言ってしまって」


「状況が落ち着いてからにしましょう。弟君の目的も、分かってはいるつもりよ」



 訓練は目標ではあっても、目的ではない。


 アイツを倒すこと。


 それだけを目的に、今まで生きてきたのだから。


 けど、まだ技を習ってすらいないし、どうにももどかしい。



「それに今は、ドリアードのことも気掛かりだしね。あまり離れたくはないわね」


「ドリアードさんが、どうかしたんですか?」


「力が安定すれば、きっと人族に報復すると思うのよ」


「世界樹が壊されたからですよね?」


「ええ。ドリアードにとって、世界樹は特別な存在。母親そのものだもの」



 ドクン。


 胸が疼く。



「今の世界で、上位精霊に勝てる存在なんて居ないわ。何とか気を静めてあげないと、取り返しのつかないことにもなりかねないもの」



 みんなを優しく見守ってくれている。


 そんな印象しか抱いてない。


 けど、人族への報復にアイツが巻き込まれる可能性も無くはない。


 それは困る。



「さてっと、話しておきたいことは粗方話し終えたし、久しぶりに一緒にお風呂に入って寝ましょうか」


「はい、そうですね」



 全部、まだ想像でしかない。


 何事もなく、元通りになるのかもしれなくて。


 モヤモヤとした不安も、いつかは消えてくれるのかな。


 みんなと一緒にお風呂へと向かう。


 これ以上、当たり前が失われるなんて、嫌だな。






本日の投稿は以上となります。

次回更新は来週土曜日。

お楽しみに。


【次回予告】

世界樹倒壊の影響が治まらぬなか、さらに何かが起きてしまう……?


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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