79 無職の少年、家路
既にドリアードさんと話し始めていた。
邪魔しないよう、終わるのを待つ。
「──随分と時間が掛かったのう。ともあれ、皆連れ帰って来れたようじゃな」
「そうね。色々とあったけど、ね」
『大変だったポー! でも、頑張ったポー!』
「──ふむ? しがみついておるオーガの娘のことも含め、詳しく話を聞きたいところじゃが。確か其方、寝ておらんのじゃったな」
「まぁ、そうなんだけどね」
「──ならば、子細はアルラウネから聞くとしよう。其方はゆるりと休むがよい」
「何よ、アナタ無理して迎えに来てたの?」
「タイミングが悪かっただけよ。じゃあ、一度家に帰らせてもらうわね」
「──うむ。此度は世話を掛けたな。世界樹の守りに関しても、今後は力を割けよう。しっかりと眠るがよかろう」
「なら、久々にゆっくりさせてもらうわ」
既に僕を見付けていたのか、姉さんがドリアードさんたちから離れて、迷いなくこちらに歩いて来る。
腰に妹ちゃんがしがみついたままの状態で。
いつだかの僕みたいだ。
「お帰りなさい」
「ただいま。取り敢えず、帰りましょうか」
「はい。それであの、妹ちゃんはどうかしたんですか?」
「ちょっとあってねぇ……ひと息ついたら、いえ、ひと眠りしてから話すわ」
「……分かりました」
『オカエリ』
『オミヤゲ、アル?』
「ちょっと、そんな余裕は無かったのよね」
『『ザンネン』』
体を崩してゆくスライムたち。
姉さんの腰から、妹ちゃんが不思議そうに眺めている。
「増えてる……?」
「そうなのよねー。説明は全部後回しで。まずは寝かせて頂戴」
「う、うん。ゴメンね」
「謝んなくてもいいわよ。先に家まで送り届けてあげるわ」
姉さんが優しく、妹ちゃんの頭を撫でている。
妹ちゃんが姉さんにベッタリなんて、いつ以来だろう。
それこそ、最初に会った頃とかかもしれない。
何だか、懐かしい感じがする。
姉さんたちと一緒に、ドリアードさんの住処を後にした。
妹ちゃんの家を訪ねた。
出てきたご両親が最初は訝し気に。
けどすぐに妹ちゃんに気が付いて、駆け出してきて抱きしめた。
ドクン。
胸が痛む。
感極まったのか、泣き始めてしまった。
姉さんに促されるまま、そっとその場を後にする。
「フゥ。無事に再会させられて良かったわ」
「そうですね」
1人減った集団。
姉さんと手を繋ぎ、ブラックドッグとスライム2体で家路を急ぐ。
姉さんが頻繁に欠伸を噛み殺している。
凄く眠たそう。
でも、これでようやく、普段どおりの生活に戻れるのかな。
見回りをしなくて済むようになればいいんだけど。
「待っている間に、何もなかった?」
「だと思います。ずっと住処の中に居たので、外のことまでは分かりませんけど」
「ドリアードの様子はどう?」
「えっと……普通だったと思いますけど」
「妙に疲れてるとか、怒りっぽいとかはなかった?」
どうだっただろうか。
いつもと変わりなく見えた気がするけど。
いやでも、人族に対して悪感情を抱いてはいたかも。
「人族をあまり快く思ってない感じでした」
「それはまぁ、世界樹を壊されたんだし、仕方がないでしょうね」
実際に目にしてないから、どうにも実感が湧かない。
地上から見た世界樹は、山よりも大きい。
雲の上にまで届いているのだ。
そんな巨大なものを、人族が壊すなんてこと、本当に可能なんだろうか。
俄かには信じられない。
どれだけの人数が、どれだけの力で以てすれば可能なのか。
そこまで考えて、ふと疑問が浮かんできた。
人族は地上を行くしかないとしても、空を飛べる魔物や魔族は、どうして今まで、この集落や人族の側へ侵攻しなかったんだろう。
「姉さん、質問してもいいですか?」
「ん? なあに、弟君?」
「どうして今まで、魔物や魔族たちは、空を飛んでこの集落や人族の住処を襲わなかったんですか?」
「あら、教えてなかったかしら? それはね、世界樹が世界を隔てる壁になっていたからよ。境界とも呼んでたわね」
「きょうかい、ですか? 人族の町にあったものや、賢姉さんの住んでる場所みたいな?」
「それらとは字も意味も違うわ。世界の境で境界よ。人族と魔族たちを争わせないために、世界樹自体に近づけなくなっていたの」
「えっと、それなら、どうやって人族は世界樹を破壊したんでしょうか?」
「アタシも、そこが気に掛かってはいるのよね。力が弱まった状態ならいざ知らず、万全の状態を破ってみせるなんて、考えられないんだけど」
空を飛んで移動できなかったらしいことは、何となく分かったけど。
どうして世界樹を壊せたのかまでは、姉さんにも分からないみたい。
何となくだけど、この間戦ったデヴィルのほうが、人族なんかよりもよっぽど強いと思う。
なのに、人族が世界樹を壊してみせたと云う。
人族がとても危険な存在に思えてくる。
アイツと同じように。
危険なのはアイツだけじゃない?
人族自体が、危険なんだろうか。
じゃあ、僕もそうなのかな……。
分からない。
分からないからこそ怖い。
もし、他の世界樹も破壊して回るなら。
この世界樹をも標的にされるなら、人族をどうにかしないといけない。
そこで再び、アイツと戦うことになるのだろうか。
本日は本編80話まで投稿します。
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