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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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77 無職の少年、戻らぬ姉

 ドリアードさんの住処で、姉さんの帰りを待つ。


 もう随分と長いこと、妹ちゃんやアルラウネさんに会ってない気がする。


 最後に会ったのはいつだったかな。


 確か……そう、狩りに同行した時だったような。



「──人族めが。決して許さぬ」



 ドリアードさんから、そんな声が聞こえてきた。


 声量こそ小さかったけれど、強い念が込められていた気がした。


 思わず身を固くする。



『ドリアード様、子供が怖がってるポー』


「──む? おお、済まぬな。世界樹はわらわの母たる存在。例え本体でなかろうとも、到底許せぬものではないのじゃよ」



 ドクン。


 言葉に反応して、胸が疼く。


 許せないって気持ちは、僕と同じなんだろうか。


 けれど、明確に違うのは、その数。


 対象としているのは、特定の誰かなんかじゃなくて。


 人族っていう、大きな括りなんだと思う。


 そう、もしかしたら、僕すらも……。



「──無論のこと、其方そなたを含んでなどおらぬ。安心せい」


『ドリアード様、お疲れポー』


『少しは休んで欲しいポー』


「──他に担えるモノもおらぬ。今は時間をこそ惜しむべきじゃろうて。事を成した後で、ゆるりと休む」


『心配ポー』



 山程のコロポックルに囲まれている、ドリアードさん。


 みんな、心配して集まってるのかな。



『イッパイ、イル』


『ウジャウジャ』



 スライムの声に、コロポックルの何体かが反応を示す。


 何故だか、こちらを不思議そうに眺め始めた。


 どうしたんだろう?



『何で増えてるコロ?』


『フエタ?』


『ナニガ、フエタ?』


『スライムに決まってるポー!』


『ホントだポー!』



 今度はブラックドッグの背に乗った、スライムの周囲に集まってくる。


 そういえば、この状態になってから、会ってなかったかもしれない。


 すっかり、周りを囲まれてしまった。



「──何ぞあったのかのう?」


「えっと、あの、この前、襲撃を受けたときに……」


「──世界樹の守りが弱まった時じゃな。魔族共めが、襲撃の機を窺っておったのやもしれぬ」



 どうなんだろう。


 思い返してみれば、襲撃と呼ぶにはおかしい気もしてくる。


 もっと大勢で来そうなものだけど。


 疑問はともかくとして、何が起こったのか説明してゆく。


 そして、とある単語に強く反応を示した。



「──厄介なことじゃわい。よもや魔王までが来ておったとはのう」


『マオウサマ?』


『ドコカナ?』



 スライムまで反応してたけど。


 よっぽど好きなんだね。



「いえ、その女の子は特に何かしたわけじゃなくてですね──」



 そうして続きを話し始めた。






「──つまり、男のデヴィルめが狼藉を働いたわけじゃな」


「そうなりますね」



 あの時。


 戦わずに逃げていたら、どうなっていたのだろうか。


 スライムがあんな目に遭わされて。


 逃げるなんてこと、できるわけないんだけど。



『ヤラレ、チャッタ』


『マオウサマ、アエナイ?』


「──の魔王とは別モノじゃ。会ったところで、懐かしむことも叶わぬぞ?」


『アウ、ダメ?』


「──友好的かは疑問が残るしのう。また危ない目には遭いとうないじゃろう」


『トモダチ、マモッタ』


『アブナイ、サセナイ』


「──その結果、戦いになったわけじゃがな。守るにしろ、己を犠牲とするやり方は褒められたものではないぞ」


『マチガエタ?』


「──逆の立場じゃったらどう思う? 自らを守ったがため、命を落とすなどという真似、許容できるかのう」


『カナシイ』


『ヨクナイ』


「──じゃろう? 命を粗末に扱ってはならん。別れは等しく、悲しく寂しいものじゃて」



 スライムが庇ってくれなかったら、今この場には居ない。


 倒すべき相手を倒せぬままに。


 終わってしまっていたことになる。


 動けなかった。


 威圧感か恐怖か。


 いきなり襲ってきた。


 速くて堅くて強くて。


 グノーシスさんの住処での特訓も、成果なんて出やしなかった。


 魔装化まそうかだけじゃ通用しなくて。


 肝心の技も、まだ習ってすらいない。


 準備そのものが不十分。


 けど、そんな不条理こそが現実。


 敵わず、叶わず。


 唐突に、理不尽に、大切なモノが失われてしまう。


 何度目になるのか。


 独力で脱したことなんて、ありはしない。


 その都度、助けられてばかりいる。


 僕の所為で、他の誰かまで危険な目に遭ってしまう。


 重たくて嫌な気持ち。


 ずっとずっと残り続けている。






 しばらく経っても、姉さんたちが帰ってこない。


 嫌な予感が募ってくる。


 不幸や不運なんて、いつ遭遇するかは分からない。


 姉さんたちにも、何か遭ったんじゃないかって。


 もしも、姉さんたちに、姉さんに、何か遭ったのだとしたら。


 僕は……僕は……。



『マダカナ?』


『クダモノ、アル?』


「──世界樹の倒壊の影響が、少なからずあったのやも知れぬ。地続きの地上の集落ならば、当然とも言えるじゃろうがな」



 この場所からでは、何も分からない。


 心配で堪らなくなる。


 無理を言ってでも、付いて行くべきだったんじゃないか。


 そんな後悔も浮かんでくる。


 何が最善かなんて、分かりようがない。


 選ばなかった選択肢の結果なんて、知りようがない。


 どうかお願いです。


 お願いします。


 無事に、帰ってきてください。






本日は本編80話までと、SSを2話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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