SS-33 魔王様のお説教
「釈明する機会を与えて差し上げますわ。慈悲深い余に感謝なさいませ」
ダンジョン特有の緑の淡い光が照らす、縦長の空間。
叱責される姿を部下に見られるのも不都合だろうと、他のモノは下がらせた。
椅子から相手を睥睨する。
「全ては魔王様の御身の守護と、魔族・魔物の繁栄を願っての所業なれば。忠誠に一片たりとも曇りはございません」
段差の下、赤絨毯にて跪き、首を垂れる側近。
邪魔をしたとは、露程も思ってはいないようですわね。
まさかとは思うのですけれども、叱責ではなく、褒められるなどと勘違いしているのではなくて?
「アナタは! 余の! 邪魔をなさったんですのよ⁉ お分かりになりまして⁉」
「………………………………………………………………皆目見当も付きません」
ず、随分と長考した挙句、お分かりにならないんですの⁉
おフ○○クですわ!
「精霊に先制攻撃を仕掛けに行かれたのでは?」
「全ッ然違いますわよ! お話し合いに赴いたんですわ!」
「つまりは、布告と脅迫というわけですね」
「だから違いますわよ! どうしてそう、出てくる発想の悉くが、乱暴なモノばっかりなんですの⁉」
「魔王様の深淵の如きお考えを汲み取ること能わず、不徳の致すところを悔いるばかりです」
「そこは是非とも悔いてくださいましね」
「ハッ! では、今すぐ精霊どもを殲滅しに――」
「ちっとも、全く、これっぽっちも理解しておりませんわねーーーッ‼」
お馬鹿なんですの⁉
フゥ、叫び過ぎて、少しクラッと来ましたわ。
昔っから、お話が通じませんわね。
とっても強いのは頼もしくもありますが、お頭が足りていなくては、下手な武器よりよっぽど危険ですわよ。
「許しを与えるまで、謹慎を命じますわ」
「魔王様をお守りするのが我が指名なれば、火急の折にはご容赦賜りたく存じ上げます」
「アナタの所為で、状況は悪化するばかりでしてよ? 居ないはうが上手く事が運ぶぐらいですわ」
「失礼ながら、魔王様ご自身に、自衛できる程の力はございません。万難を排するが我が役目なれば。どうか」
「だ・め・で・す・わ!」
「…………」
「言うことを聞かぬのでは、お話になりませんわ。世界樹の件にしましても、予想外に住まうモノとの邂逅となりましたが、アナタの凶行により反感を買いまくりでしてよ」
「申し訳ございません」
「アナタは当分の間、ここで謹慎ですわ! 護衛に関しても、もっと適当なのを連れて行きますから、ご心配には及びませんことよ」
「いえ、心配です」
「アナタねぇ……」
「彼の地は敵地とお心得くださいませ。人族の子供は妙な力を使っておりましたし、種族の不明な女に至っては、相当の手練れと見ました。他のモノでは後れを取りましょう」
確かに、子供は変身みたいな真似をしておりましたし、女性の方の動きは、目で追えない程でしたわ。
次に赴いた際、気付かぬ内に倒されている、なんてこともあり得るのかしら。
人族への備えとして、精霊を頼るつもりでしたのに。
最悪ですわ。
「……しばらくは様子見といたしましょう。期間を設ければ、多少は悪印象も薄まるでしょうし」
それに、気掛かりなことを仰ってましたわよね。
まるでこちらの居場所を知り得ているかのような物言い。
相手は精霊そのものか、少なくとも精霊に与するモノ。
ドラゴンの【竜眼】のように、遠方を見通す力などがおありなのかしら。
「謹慎の間に防備を整えさせなさいませ。人族よりも先に、精霊による報復がないとも限りませんわ」
「畏まりました。既にデヴィルは招集しております。しかしながら、魔界からの増援は、都の防備が薄まりますので、困難かと存じ上げます」
「魔界に関しては現状維持で構いませんわ。むしろ、手薄にして都が陥落するほうが大問題でしてよ」
「そのように対応いたします」
「いいですこと? くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も! 勝手な行動はお慎みになってくださいましね」
「もちろんでございます」
「……本当にお分かりになっておりまして? どうにも信用できませんわ」
「侵入した輩を、殲滅すればよろしいのですよね」
「……随分と好きに解釈なさってますわね。せめて交渉の余地を残すべく、生きたまま捕えてくださいましね」
「善処します」
そこは確約して欲しいのですけれども。
「そうでしたわ。世界樹の監視も怠らぬようになさいましね。何か変化があれば、勝手に判断は下さず、すぐに報告なさい。よろしくて?」
「そちらも対応させます」
「ではお下がりなさい」
「ハッ。失礼致します」
去り行く背を見送る。
自由裁量を与えてしまうと、好き勝手しそうですわね。
監視していないと、また暴走しそうですわ。
言っても聞かない気もしますけど。
何だか、いきなり忙しくなって参りましたわね。
退屈も困りものですけれど、忙しいのはもっと困りますわ。
どうにか穏便に事を治めてしまいたいのですけれども。
人族に加えて、精霊とも仲を拗らせてしまったのは、かなりの痛手ですわね。
しかしまさか、世界樹の上に人族や魔族が暮らしていただなんて、思いもしませんでしたわ。
もしかしたらもしかするのかしら。
精霊の下で、多種族が共存できているのならば、精霊は争乱を望んでいないのではなくて?
どうにかして、話し合いの場を設けたいところですわ。
余計な邪魔モノは排除したうえで、ですけれども。
本日の投稿は以上となります。
次回更新は来週土曜日。
お楽しみに。
【次回予告】
ようやく外への移動が可能になり、妹ちゃんたちを迎えにゆくのだが……。
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