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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
109/230

71 無職の少年、強敵

▼10秒で分かる前回までのあらすじ

 世界樹倒壊の影響は、様々な所へ及んでいた

 人族の新たな動きを、主人公たちは知る由も無い

 そして世界樹では、来訪者が訪れていた……

 聞こえてきた声。


 外に居た集落の皆にも聞こえたのか、キョロキョロと辺りを見回している。


 同じようにして、声の主を探す。


 女の子っぽい感じ。


 けど、集落にそれらしい子は思い当たらない。



「あらあら皆様方、どちらをお探しになられているのかしら? こちらでしてよ」



 再びの声。


 吸い寄せられるように、視線が集まる。


 頭上。


 中空に浮遊している存在。


 薄紫の長い髪、金の二本角、褐色の肌、広がる黒い翼。


 角、肌、翼の特徴から言って、デヴィルに相違ない。


 外見年齢は、妹ちゃんや賢姉けんしさんぐらいか。


 整った顔立ちは、しかし見覚えの無い顔。


 つまりは、世界樹の外から来たデヴィル……ってこと?



「て、敵襲だぁー‼ 魔族が攻めて来たぞぉー‼」


「え、ちょっと⁉ お待ちになって⁉ そのようなつもりは──」


「世界樹を、集落を守れー‼ 魔族を追い返せぇー‼」


「話を聞いてくださいましー!」


「このぉ、さっさと出ていけ‼」



 騒ぎは見る間に広がって行き、声だけでなく矢も飛び始めた。



「キャッ⁉ あ、危ないじゃございませんこと⁉ 当たったらどうなさるおつもりですの⁉」


「くそっ、上手く当たりゃしない。空を飛べるヤツはいないのか⁉」


「まだ無理だ! エルフさんは何処だ⁉ 肝心な時に何してるんだよ⁉」



 姉さんはさっき寝たばかりのはず。


 昼も夜も、ずっとずっと頑張ってたんだから。


 ゆっくりと寝かせてあげたい。


 ここは、僕が何とかしなくっちゃ。


 空に届く攻撃なんてできるはずもない。


 僕だけなら無理だ。


 けど、魔装化まそうかなら可能。


 不思議と攻撃しては来ない相手ではあるが、いつ気が変わるか分からない。


 早く追い払わないと。






 何の前触れもなく、突風が吹き荒れた。


 集落の皆が吹き飛ばされてゆく。


 背を支えられて何とか耐える。


 咄嗟にブラックドッグが背後に回ってくれたらしい。


 風から腕で顔を庇いつつ、状況を確かめる。


 風が吹いて来る方向に、何か居る。


 先程のデヴィルの隣に、もう1体デヴィルが増えていた。


 大人の男性。


 隣りの女の子とは、明らかに雰囲気が違い過ぎる。


 この息苦しい感じ……まるで戦ってる時のグノーシスさんみたい。


 風が止み始め、向こうの会話が届き始めた。



「勝手に出歩かれては困ります。せめて一言お声掛けいただきたい」


「ど、どうやって付いて来たんですの⁉」


「【竜眼】で位置を特定させ、最寄りのダンジョンへと転移魔法陣を使用し、後は飛行して辿り着いた次第です」


「怖ッ! 手際が良過ぎますわよ!」


「此処は敵地。なれば魔王様が単身で参るのは如何なものかと。御身に代えは効きませぬ。どうかご自重くださいませ」



 …………今、何て言った?


 魔王とか、言わなかったか?



『マオウサマ?』



 背後、ブラックドッグの背に乗るスライムにも、聞こえていたらしい。


 背から跳び下り、足元まで来る。



『マオウサマ、ドコ?』


「下がってないと危ないよ!」



 更に進もうとするのを、掴み上げて阻止する。



『マオウサマ?』


「駄目だってば!」



 スライムが抜け出そうと体を歪める。


 逃さぬよう、どうにか掴み続ける。



「……世界樹の上に魔族や魔物が住み着いていようとは。魔王様ではなく、精霊の側に付いたわけか。不快な連中だ」


「もう! アナタの所為で台無しですわ! お帰りになってくださいまし!」


「仕置きに少々時間をいただきたく」


「何を言い出すんですの⁉ 思いは違えど同胞には変わりありませんわ。危害を加えることは許しませんわよ」


「……ならば、目障りな人族だけでも始末しておきましょう」



 不穏過ぎる言葉の意味を理解する前に、状況は悪化する。


 眼前、死の影が至近まで迫っていた。


 伸ばされた腕が振り下ろされてくる。


 濃密な死の気配。


 向けられる殺意。


 身体がすくみ上がり、動かない。


 眼球だけが、腕の動きを追い続ける。


 相手は武器を持っていない。


 けれども分かる。


 数瞬後、真っ二つにされているであろう、自分の身体を幻視する。


 動け動け動け動け動け。


 動かないと!


 避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ。


 避けないと、死ぬ!


 念じる。


 強く念じる。


 その時間を食らうように、腕が迫りくる。


 このまま死んじゃう……?


 未だスライムを掴んだまま。


 巻き添えにしてしまう。


 手を、放さないと。


 上手く身体が動いてはくれない。


 ほんの僅か、指を動かすぐらいが精々。


 何とか抜け出してくれるといいけど。


 振り下ろされる腕。


 もう、できることは無かった。






 胸を押される。


 動けなかった身体が仰向けに倒れてゆく。


 相手と距離が開く。


 そのあいだに、スライムの姿があった。


 あ。


 あああ。


 あああああ。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああ。


 腕がスライムを両断した。






「何? 今、どうやって避けた?」



 ベチャリ。


 分かたれたスライムの体が落ちた。


 僕の所為だ。


 僕の所為だ僕の所為で僕の所為だ僕の所為で僕の所為だ僕の所為で僕の所為だ。


 僕が弱いから。


 僕が動けないから。


 また、死なせてしまった。


 ■い記憶。


 蘇る。


 グルグルと。


 グルングルンと。


 頭の中を、心の中を、身体中を。


 怒りが駆け巡る。


 赦さない。


 恐怖?


 馬鹿馬鹿しい。


 何を怖がる必要があるんだ。


 全部全部全部全部全部、壊してやる!


 威圧感を撥ね除ける。



「スライムが邪魔に入ったのか? 余計な真似を」


「何をしているんですの⁉ もうお止めなさい!」


「……命拾いをしたな、人族のわらべ。そのスライムに感謝することだ」


「………………ない」


「何か言ったか?」


「…………さない」


「その闘気、いや殺気か。冗談では済まんぞ」


「赦さない!」



魔装化まそうか



 変化は一瞬。


 身体から前方へ棘を伸ばし、相手を串刺しにする。



「──妙なワザを使うようだが、随分とのろい」



 相手の姿が無い。


 声は至近から。


 ──背後ッ!


 振り返りもせず、再び棘を見舞う。



「同じ手を二度も繰り出すとは……愚かしい」



 言葉を最後まで聞かず、背後へと飛び退く。


 すると眼前を横薙ぎにしてゆく脚が見えた。


 相手は攻撃を避けてみせた。


 ならば、攻撃した方向にこそ相手はおらず、逃げ場が生まれるのは道理。



「今のを避けるか……いや、そうでもないか」


「ッ⁉」



 胸に生じる痛み。


 視線だけで確認してみれば、いつの間にか切り裂かれていた。


 この間にも相手は動く。


 方向は不明。


 全方位に向け、棘を伸ばす。



「まさか、それしか能が無いのか? 興覚めだな。元より、期待などしていなかったが」



 相手は正面から移動していなかった。


 こちらの攻撃圏内に居続けていた。


 にも拘わらず、相手は無傷。


 1本たりとも、刺さりはしていない。


 むしろ、棘の方が曲げられている始末。



「防御は妙に小狡いが、攻撃はお粗末だな」


「ガッ⁉」



 顔面に強い衝撃。


 頭から後方へと吹き飛ばされる。



「ギッ⁉」



 今度は背中に強い衝撃。


 身体は上に。



「殺すのは容易いが、どうせなら役立てるか。対人族用の教材として、連れて帰るとしよう」



 視界が暗くなる。


 同時に頭部が割れるような痛みが生じる。


 顔面を鷲掴みにされたらしい。


 頭だけ固定され、宙吊りにされる。


 強い。


 強過ぎる。


 まるで敵いやしない。


 身体が酷く痛む。


 けど、心ほどの痛みじゃない。


 闘志も、怒りも、殺意も。


 まだまだ絶えてやしない。


 赦さない。


 絶対に。


 このまま終わらせはない。


 力を一点に集中させる。


 思い描くのは、最近ずっと手にしていた物。


 短剣だ。


 頭を拘束している腕へと、躊躇なく突き立てる。



「ほう? 血を流したのは久方ぶりだ。攻撃するすべも、一応は持ち合わせていたらしいな」



 痛がってる風な声ではない。


 頭を掴む力は緩まず。


 短剣も、先端が僅かに食い込んだだけで、その奥へと進む気配がまるでない。



「存分に抵抗してみせろ。全て避けずにくらってやる」


「いい加減にさない! このお馬鹿ぁ‼」


「弟君を放しなさい! このド変態ぃ‼」


「グハァッ⁉」



 拘束が唐突に緩む。


 浮遊感は一瞬。


 すぐさま重力に引かれてゆく。


 と、力強く抱きしめられた。



「逃げてって言ったのに。弟君も男の子なのね」



 悲しそうな、それでいて嬉しそうな顔。


 姉さんだった。






本日は本編75話までと、SSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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