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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-31 女騎士への命令

 壁は大混乱の渦中にあった。


 世界樹の倒壊。


 それに伴う地震で、殆どの家屋が倒潰とうかいしてしまったのだ。


 溢れ返る被災者。


 加えて、此処に避難してきた者たちもいるのだ。


 世界樹の下敷きになってしまった壁の住民たち。


 幸いなことに、避難自体はどうにか間に合ったが、住める場所など、すぐには用立てできるはすもない。


 移動する体力のある者は、騎士を護衛に付け、他の壁や町を目指して移動してもらっている。


 移動が困難な者に関しては、馬車が用意でき次第、順次送り出しているところ。


 後は、使える物でどうにか、仮設住居を急ぎ敷設している状態だ。


 食料や飲料とて心許ない。


 不安の声は止まず。


 嘆きの声はそれ以上か。


 世界樹が巻き上げた砂煙は、1日が経過した今なお大量に停滞し、地上を砂で覆ってくる。


 治まるのは数日後か、はたまた数十日後になるか。


 気掛かりは他にもある。


 団長の安否について。


 合流を果たすどころか、無事かどうかも未だ不明。


 捜索するには人手も時間も足りない。


 如何に団長の刻印武装が防御特化と言えども、巨大な世界樹の倒壊現場に居合わせたのだ。


 到底、楽観などできようはずもない。


 壁での会話が最後となってしまったのではないかと、縁起でもないことを思ってもしまう。


 皆の範たらねばならぬ。


 騎士は元より、住民たちにこれ以上不安を覚えさせては駄目。


 気落ちしている場合ではない。


 不安を押し殺し、次々と舞い込む作業に没頭してゆく。






 王都から早馬が来た。


 救援にしては数が少な過ぎるし、タイミングもおかしい。


 仮設の天幕へと案内された騎士と対面を果たす。



「用向きは何だ? 見てのとおり忙しい。手短に済ませろ」


「ハッ。副団長殿充てに、教皇猊下より書状を預かっております」


「……内容は?」


「存じ上げません」


「早急に返事が必要か?」


「特にそのようなご指示は伺っておりません」


「……ちなみに、いつの話だ?」


「と、仰いますと?」


「いつ王都を出立した? そもそも、どうやってワタシの場所を把握した?」


「出立したのは7日ほど前になります。場所については、書状を受け取った際、指示されておりました」



 7日も前……?


 いや、王都からの距離を考えれば、急いで駆け付けたほうだろうが。


 しかしどうやって、そんな前から場所を特定して見せたのか。


 もしかしたら、現在地に関しては、刻印武装から判別できるのかもしれない。


 血の刻印による繋がり。


 召喚や送還ができるのだから、所持者の場所も分かるのか?


 けれども、未来の位置までは補足できようはずはあるまい。


 聖騎士ではなく、猊下の御力によるものなのだろうか。



「……あの、何か問題がありましたでしょうか?」


「いや。迅速な行動、ご苦労。持て成すことは叶わぬが、戻る前に休憩を取ってゆくといい」


「ハッ。ありがとうございます。それでは、失礼させていただきます」


「ああ。重ねてご苦労だった。下がってよい」



 天幕内に、ワタシ以外居なくなった。


 手元には書状。


 魔族の調査に関して、進捗報告を催促されたのかとも考えたが、返事を持ち帰るよう言付かっていないというなら、そうではあるまい。


 吉報……では無い気がする。


 とはいえ、読まないという選択肢はない。


 意を決して封を切る。


 ……この筆跡、先輩のモノか。


 懐かしさが浮かぶのも一瞬、すぐさま内容に押し流されてしまう。


 侵攻⁉


 この状況で⁉


 文末にこちらを気遣う文言が見受けられたが、それどころではない。


 即時部隊を編制し、魔族領へと侵攻を開始せよ、との命令が記されていた。






 どうしたものか。


 人も物も圧倒的に不足している。


 そこからさらに、捻出せねばならないのか。


 こんな状況で、騎士が大勢離れてしまっては、人心をいたずらに不安にさせるであろうことは自明の理。


 他の町や壁には、昨日の時点で救援要請の早馬を送っている。


 が、即時対応は望めまい。


 せめて、救援の第一陣を出迎えてからでないと、動くに動けない。


 部隊の編制にしろ、騎士の総数次第で増減する。


 馬は物資運搬用に最小限とし、基本徒歩となるだろう。


 そもそも、馬で世界樹を越えられるかも不明なのだ。


 足場を組んだりする必要もあるかもしれない。


 そうなると工兵も必要になるわけで。


 復興にも欠かせぬ貴重な人員。


 持っていく物資とて貴重には違いない。


 こんな状況なのだ。


 当然、余っているわけがない。


 実に頭の痛い問題だった。





 早馬での知らせから3日。


 王都からの救援が到着した。


 このタイミングの良さ。


 こちらに早馬を出した段階で、用意していたのだろう。


 騎士の数も多い。


 その中に、副団長代理の姿は無かった。


 変わらず、王都の警護に就いているのだろう。


 これで遅くとも、明日には出立せねばなるまい。


 向かう先は敵地。


 200年ほども前に隔絶された土地。


 精霊か、魔族か、魔物か。


 いずれかとは戦いになる公算が高い。


 状況を見誤れば、全滅すらあり得る。


 交戦は極力避け、情報収集を第一として動こう。


 そして、危険と判断次第、即撤退してしまおう。


 こんな無茶な命令で、誰の命も落とさせたくはないのだから。






本日はあとSSを1話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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