SS-30 オーガ兄は家族を案じる
「おい、今何が起こった?」
『ただの地震だろう』
「……いや、どうにも嫌な感じがしやがる」
『つまりは、【竜眼】で原因を探れと言うわけか』
「頼んだぜ」
『まったく……便利使いしおってからに……』
ウガァ───ッ!
またしても、師匠と仲良さげに話をしてやがる!
止む無く聞き耳を立ててた感じじゃあ、さっきの揺れのことを師匠が気にしてるみたいだが。
地震はまぁ、珍しいっちゃ珍しい。
が、そんなに気に病むことかねぇ。
案外、師匠も地震が怖かったりするんだろうか。
そいつはつまり、ギャップ萌えってヤツかよ⁉
さ、流石は師匠!
オレの好みをひたすらに押さえてきやがるぜ!
相も変わらず、クソ暑い溶岩に囲まれた中で修行を続けているわけだが。
せめて、溶岩じゃなく水に囲まれてさえいれば……ッ。
一緒に水浴びするというシチュが可能だったものを!
いやいや、それだけじゃない。
単純に水を汲みに行く手間が省ける。
こんな溶岩に囲まれた場所じゃ、すぐさま水なんて蒸発しちまう。
だから態々、水を飲むだけで、そこそこの距離を移動しないとならない。
溜めておくにしろ、結構離れた場所でないと、お湯どころか熱湯に早変わりする始末。
寝床も離れた場所でないと、焼き肉になっちまうし。
立地が不便極まりねぇんだよなぁ。
地震云々で、場所を移したりしないもんかねぇ。
「テメェ、随分と手抜きな動きをしてやがるじゃねぇか、えぇ?」
「し、師匠⁉」
「修行中に他事を考えてるほどに、余裕があるらしいなぁ?」
「そんなことはないッス!」
「なら、それが精一杯の動きってわけか?」
「うぐっ…………ち、違うッス」
「だったらキリキリ動けやコラァ! サボってんじゃねぇぞ!」
「うッス! すんませんッス!」
うへへへへへへへ。
師匠から話し掛けられちまったぜ。
そうなんだよなぁ。
いっつも何だかんだ言いつつも、ちゃんとオレのこと見ていてくれてるんだぜ。
これだから師匠の弟子は辞められねぇ……ッ!
「注意したそばから、やらかしてんじゃねぇ!」
「ぐぼあッ⁉」
腹部に強烈な衝撃が加えられ、身体が吹っ飛ばされる。
──って不味い!
周囲は溶岩。
落ちれば焼けるどころか溶けるのみ。
踏ん張りが間に合わず、足が浮いた状態。
──あ、これ、死んだわ。
『落ちたら跡形も残らぬぞ。努々気を付けよ』
と、硬いものに背を押された。
背に生じた抵抗を利用して、体勢を立て直す。
再びの地面を踏みしめる。
寸でのところで、溶岩に落ちずに済んだ。
確かめるまでもなく、助けてくれたのは、忌々しい邪魔モノ。
もとい、クリムゾンドラゴンだった。
尻尾で背を受け止めてくれたらしい。
溶岩まみれじゃなくて、助かった。
「あざッス!」
憎い相手といえども、礼儀は怠るべからず。
両腕をそれぞれ斜め下へ振り下ろし、頭を下げる。
『よい。しかし、常に助けが齎されるとは思わぬことだ』
「うッス!」
「だらしのねぇヤツだ」
『キサマは加減を覚えよ』
「呆けるコイツが悪い。んで、何か分かったか?」
『デヴィルが何やら動きを見せておるようだ』
「ふーん。他には?」
『恐らくは、こちらが原因だろう。世界樹の一本が倒壊したようだ』
「………………はあぁ? んだと⁉ マジか⁉」
『倒壊の理由までは定かではないがな』
「……魔力が妙に多い気がしたが、世界樹のが漏れてやがるのか」
『それでいつもより、些か乱暴だったのではあるまいな?』
「知らねぇよ。オレサマはオレサマだ。何が起ころうが、オレサマの行動の責は、すべからくオレサマにある」
『……潔い覚悟だが、振る舞いにはもう少し気を配るべきだろう』
「うっせぇ。しっかしこれで、忌々しい境界が消えたわけか」
『仮初の平和も終いか。何者の仕業であれ、業の深い所業よな』
「あの馬鹿デカい世界樹を、どうやって倒しやがったんだ? よっぽどの威力の何かってことだよな」
『未だ境界の向こう側は見通せぬ』
「倒したのは、こっち側じゃねぇんだな?」
『……それらしきモノは見当たらぬ』
「場所は? 近いのか?」
『南東だな。此処からは、かなり遠い』
「チッ、遠いのかよ。戦闘でもおっぱじめやがったら、乗り込むつもりだったが」
『……連れては行かぬぞ』
「いいのか? オレサマが介入して戦闘が終われば、平和とやらがまだ少しは長引くかもだぜ?」
『………………状況次第だ』
「そうかいそうかい。精々、監視に励んでくれや」
師匠が上機嫌でなにより。
だが、世界樹が倒されたって言ってたか?
家族は大丈夫だろうか……。
流石に少し心配になってきた。
「すんませんッス。倒壊したのって、一番遠い南東の世界樹ッスか?」
『いや、倒れたのは別の世界樹だ。が、距離は近い。何かしらの影響は出ている可能性はある』
「そうッスか。どうもッス」
取り敢えずは無事っぽいか。
そうそう世界樹から出たりはしないだろうし、まぁ大丈夫だろう。
もし、もしも、家族のいる世界樹が倒されるようなことがあれば、仕出かした連中を皆殺しにしてやる。
やったヤツも、命じたヤツも。
どいつもこいつも、赦しはしねぇ。
……そうか、ダチもこんな気持ちを抱えていたのかもしれねぇな。
両親を人族に殺されたって聞いたが。
そりゃあ、赦せねぇわなぁ。
想像しただけでこれだ。
実際に目の当たりにしたダチの感情なんざ、もっとひでぇもんだろう。
ダチも大人しくしてればいいが。
エルフの姐さんも元気してっかなぁ。
あー、あの豊満過ぎる肢体、思い出すだけで堪んねぇぜ!
「またぞろ呆けてんじゃねぇ!」
「ぶべらッ⁉」
『そうポンポン、殴り飛ばすでない』
本日はあとSSを2話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 




