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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-28 賢者は備える

 結構揺れた。


 地震なんて珍しいことだ。


 さして興味を惹かれるほどではないが。


 意識はすぐに机の上の書物に戻る。


 幾度読み返したところで、内容が変わるはずもない。


 未だ届かぬ叡智の数々。


 いずれも、魔法全盛の頃が際立っている。


 実に興味深い。


 と同時に、残念にも思う。


 これらの品々を、実現することが不可能なのだから。


 魔法。


 精霊により封じられた力。


 魔力で起動する魔法陣自体は構築可能。


 とは言え、魔法を再現するのと、魔法そのものを創造するのとでは、難易度の桁が違う。


 魔法陣に関する書物の幾つかが失われたことが悔やまれてならない。


 それさえあれば、まだ応用が利いた研究も捗ったことだろう。


 ごーれむちゃんに関してもそうだ。


 核と呼ばれる部位により、形成された土人形。


 いや、今は石人形か。


 これにもやはり、魔法陣が応用されている。


 魔力を定期的に注ぎ込むことで、魔法陣が起動し続ける仕組み。


 構想では、魔法の四属性に対応させるつもりらしかった。


 現状実現している地属性以外に、水・火・風も作ろうとしていたようだ。


 もしくは、作り終えたか。


 書物から一旦視線を離し、背後へと振り返る。


 物、モノ、もの。


 少し表現を変えてみたところで、現実までは変化し得ない。


 要するに、発明品とガラクタの山だ。


 先程の揺れで、また混沌度合いが増した。


 何世代にも亘る成果。


 ……なのだろうが、如何せん整理整頓がまるでされていない。


 果たして、どれが失敗作でどれが成功しているのか、起動してみないと判別も不可能な有様。


 ごーれむちゃん改良のためにも、新たな核を見付けたいところなのだが。


 下手に起動させて大爆発、という事態も想定され得る。


 なので、核と思しき物を発掘しようとも、先んじて魔法陣の解読をしなければならず、作業は遅々として進まない。


 ああ、魔法が使えたなら。


 こうパパッと上手いことできないものか。






 グウゥー。


 お腹が空いた。


 思考が妙に逸れるのはそのためか。


 私室を出て、食堂を目指す。


 ……ふむ?


 気の所為かもしれないが、塔内がやけに騒がしような。


 魔法協会。


 精霊により魔法が封印される前から存在しているらしい、研究者たちの集まり。


 各々が好き勝手に改築を行っていった結果、歪極まりない塔と化した建物。


 人族の領域ではなく、魔族の領域に位置する此処には、人族と魔族が共に暮らしている。


 見た目の差異も種族の別も、したる問題に非ず。


 叡智の前には、全てが些末事。


 この場に集ったのは、天才非才凡才問わず。


 すべからくが探究者。


 まだこの世には存在せぬナニカを作り出さんと欲するモノ。


 常人には理解が及ばぬ境地。


 そのため、奇行奇声など日常茶飯事。


 ……なのだが。


 この騒ぎ、普段とは質が異なるような。


 父か母が居れば、尋ねたのだが。


 今、塔のどの辺に居を構えているのか、定かではない。


 他のモノに尋ねようにも、生憎と人見知りなので無理筋。


 聞き耳を立てるに留めおく。






 どうやら、デヴィルに招集が掛かったとか。


 住処は確か、この塔よりも北に位置する、切り立った山脈だったはず。


 今代の魔王は穏健派と聞き及んでいたのだが、何か大掛かりな行動でも起こすつもりなのか。


 もしそれが、世界樹への攻勢であれば事だ。


 世界樹自体に影響は与えられずとも、周囲にも余波は及ぶ。


 最近は少年たちが地上に移動したりしている。


 念の為、警告に向かったほうが賢明か。


 思考とは別に身体は慣れたもので、料理を手早く仕上げてみせる。


 寄せ集めの材料にしてはまともだろう。


 この塔に於いて、待っていても食事なと提供されはしない。


 いや、より正確な表現をするならば、他の誰かが作った料理に、何が混入されているか分かったものではないのだ。


 つまりは実験の産物の可能性が大ありなわけで。


 安全に食事を済ませるには、自炊が望ましい。


 ……少年の腕前は上達しただろうか。


 あの自称姉は料理なぞできない。


 料理を教えたのはワタシだったりする。


 食べ終わったら、精霊のピクシーに頼んで世界樹に移動するとしよう。






 ……どういうこと?


 ゲートが使用できない。


 ピクシーも困惑している様子。


 明らかな異常。


 地震、デヴィルの招集、ゲートの不能。


 こうも同時期に連続するならば、何か関係性があるのかもしれない。


 まず思い当たるのは、世界樹に何かが起こった可能性。


 現在進行形で、デヴィルが世界樹を攻撃している?


 魔法が使えずとも、魔法陣は使用可能。


 ダンジョンの転移魔法陣を制御できれば、即座の移動も可能だろう。


 ……推測の域を出ない、か。


 さて、どうしたものか。


 移動ができないなら、他にできることは何だろう。


 役に立てるもの。


 薬、とか?


 悪くない考えかも。


 ポーションやエーテルをできるだけ量産しておこう。


 塔内に残存するデヴィルの妨害もしたほうがいいだろうか?


 いや、慣れないことはしないに限る。


 せめてごーれむちゃんが居ないと、接近戦に対応できない。


 それに、塔内は危険物も多い。


 父や母も居るし、巻き添えは御免だ。


 あとできそうなのは、使えそうな道具の発掘ぐらい。


 何か、よくないことが起きている。


 そんな気がしてならない。






本日はあとSSを4話投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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