SS-27 魔王様の苦悩
▼10秒で分かる前回のあらすじ
世界樹倒壊の影響が冷めやらぬ中、世界樹の集落に誰かが訪れる
淡い緑色の光が照らす、縦長の空間。
壁際に居並ぶ配下たち。
日がな一日。
特にすることもなく、背もたれがやたらと長い椅子に背を預ける。
──ハッキリ言って、退屈で死にそうですわ。
「魔王様」
──ちょッ、びっくりしましてよ!
いつの間に来ていたのか。
椅子よりも数段低い位置、正面の赤絨毯で跪く側近の姿があった。
外面には動揺を表さぬよう、努めて冷静を装う。
続きを促すように、無言で顎をしゃくってやる。
「世界樹群にて異変が生じたようです」
すると、首を垂れている姿勢で、こちらが見えているかのように応じてみせた。
相変わらず、不気味ですわ。
それにしても今、異変と仰いまして?
非情に面倒臭そうですけれども、捨て置くには剣呑過ぎますわね。
「子細をお聞かせくださいまし」
「ハッ。ドラゴンの【竜眼】で観測したところ、世界樹の一本が倒壊したとの報告を受けた次第であります」
──ハァ⁉ 世界樹の倒壊ですって⁉
先代ですら、破壊は敵わなかったと聞き及んでおりますのよ?
一体全体、誰がどのように事を成したんですの?
配下たちがざわめき出す。
ギロッ!
鋭い一瞥で以て黙らせておく。
「原因については、お分かりになりまして?」
「残念ながら。事の起こった後での発見と聞き及んでおります。少なくとも、境界より手前側では無いようです」
「つまり、人族側で何かしらがあったという意味かしら?」
「恐らくは。しかしながら、世界樹の影響は未だ健在らしく、境界より先は見通せず仕舞いとのことですが」
遥か遠方までをも見通せる【竜眼】。
なればこそ、世界樹の倒壊との知らせは、極めて真に近しいのでしょう。
「では、考えられる原因はございまして?」
「私見ながら、人族に因る事象かと」
人族ですって?
魔族に劣る人族に、そんな真似が可能なのかしら。
現状、どちらも魔法は使えませんわ。
もしも本当に、魔族に先んじて人族が事を成したと言うならば、諦観してはいられませんわね。
魔法を用いず、如何にして成し遂げてみせたのでしょう。
いいえ、問題はその術を、いつこちらに向けてくるとも限らないことですわね。
「対応策は検討しておりまして?」
「ハッ。ダンジョンの転移魔法陣を用いて、境界の向こう側への侵攻は、ご裁可頂ければ、すぐにも実行可能です」
「まぁ⁉ 相手の手札も知らずにですの? まさか、無為に犠牲を増やせとでも仰るおつもりかしら?」
「恐れながら、時間は敵に利するばかりかと存じ上げます。世界樹の破壊が一本だけというのも、それだけ準備に時間を要するが故かと」
「希望的観測に過ぎないですわよね。相手が準備万端整えていたらどうなさるお積もりでして?」
「……その可能性もございます」
「情報収集を徹底なさいまし。こちらは数歩も出遅れておりましてよ」
「今こそが好機との可能性もございます。何卒、精鋭による強襲のご許可を賜れれば必ずや──」
「くどいですわよ! 1体の犠牲も許容するつもりはございませんわ。事を起こすならば、完勝してみせなさい」
「……御意に」
「全員お下がりなさい。呼ぶまで誰も立ち入らぬように、よろしいですわね?」
「「「ハハァッ」」」
ようやく静けさで満たされる。
「はぁ~~~~~~~~~~」
長い長い溜息を吐き出す。
死ぬほどの退屈の方が、実際に死ぬよりも遥かにマシ。
何故、今代で事が起こってしまったのかしら。
魔王としての重責が、否応にも圧し掛かってきますわ。
人界の制圧は魔族の悲願。
いえ、魔界に住まう全ての弱き生物にとっての悲願かしら。
地上に出られるのは、ほんの僅か。
限られた強きモノだけが有する権利。
殆どのモノは、地下で一生を終える。
それが常。
何百年過ぎようが、変わることの無い摂理。
例え魔王であろうとも、違えることは容易ならざること。
居城がある魔都を拡げることもまた、容易には成し得ませんわ。
外敵に対抗するだけで手一杯。
少なくない犠牲も出ておりますし。
ゆえの人界侵攻なのですけれども。
元より乗り気ではないのですが、成さねばなりませんわ。
世界を隔てる世界樹が、もっと強固であったならばと、思わずにはいられませんけれども。
今のままでも良かったですのに。
干渉し合わなければ、争いなど生じませんもの。
「はぁ~~~~~~~~~~」
吐けども吐けども、陰鬱な空気は取り除けない。
いつまでも、衝突は回避できないでしょうね。
いずれ必ず、大きな争いが生じてしまいますわ。
敵も味方も、双方犠牲など出ずに、事が収まれば良いですのに。
人族の用いた何か。
まかり間違えば、こちらが危ういですし。
どうしましょう……どうすればいいのかしら……。
初代様。
ご先祖様は、どうお考えになられていたのでしょう。
初めて人界に侵攻を果たし、その後、何故だか中断なされましたのよね。
何を思われていたのでしょう。
どのようなお考えの末に、侵攻の手を止められたのかしら。
長く生きるドラゴンに尋ねてもみたのですけれど、知らぬと返されるばかり。
一方、先代は好戦的な方だったとか。
人族への侵攻を試みたが、その際に、世界樹群が現れたそうな。
精霊とやらの仕業と実しやかに噂されておりますが。
…………待ってくださいまし。
つまり、精霊は争いを良しとはせず、介入してみせたのだとしたら?
精霊と協力できたなら、今回の争いも回避できるかもしれませんわ!
試してみる価値はある……気がいたします。
今までは、世界樹への干渉すらも叶いませんでした。
けれども、今ならばどうでしょう。
一本とは言え、欠けた状態は万全とは行かぬはず。
【転移】ならば、口煩いお供を連れずとも行動できるでしょうし。
側近が居ると、余計な真似を仕出かすに決まっていますわ。
行動を起こすなら、今。
空から見下ろせば、確かに世界樹の一本が倒れていた。
これを人族が成したんですの⁉
しかし、倒れた先は人族の領域ですわよね……。
まさかとは思いますが、犠牲を厭わぬ野蛮な方々なのかしら。
だとすれば、脅威度は更に増しますわ。
見た限り、未だ境界を越えてはいない様子。
時間が経てば、精霊が世界樹を復元してみせるかもしれません。
そうそう、目的は精霊にお会いすることでしたわね。
こうして、今までは不可能だった接近も叶いましたし。
どうにか見付けて、話をしたいところですわ。
ヨロヨロと中空を移動する。
魔法の封印も解けているようですけれども。
お蔭で飛べますが、久々過ぎてどうにも不安定ですわ。
と、樹上に幾つか動く存在を見付けた。
アレが精霊でして?
十分に接近してから、大声で呼びかけた。
某VTuberさんの動画を見続け、お嬢様口調を学びました。
100点満点のあの方です。
慣れない所為か、普段の文章の2倍は時間掛かってます(;''∀'')
本日はあとSSを5話投稿します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 




