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勇者に挑むは無職の少年  作者: nauji
第二章
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SS-26 アルラウネは守りたい①

 ドリアードの住処を離れて幾日が経過しただろう。


 ケンタウロスの集落。


 一番大きい建物となっている、集会場を間借りしていた。


 こうして、他の魔族と共に暮らすことになるなんて。


 少し前までなら、想像もしなかった。


 ずっとずっと昔なら、同じようなことがあったけれども。


 そばでは、まだオーガの娘が眠りこけている。


 目覚めは早い方なので、起きる順番はいつものこと。


 実年齢の割に、幼く振舞うのはどうしてなのか。


 そう言えば、この子の両親はどうだったろう。


 デヴィルと人との間にオーガが産まれ。


 そのオーガ同士の子供が、この兄妹になる。


 精霊と人との間に子供が産まれたのも驚いたものだけれど。


 魔族と人との間にも子供が産まれるなんて。


 他種族との共存の可能性。


 かつて、共に過ごしたモノたちが目指したカタチがこれなのか。


 いまだ、人と魔族と精霊の溝は存在している。


 世界樹により強制された、仮初の平和。


 いつまで続けられるのか。


 植物の魔族だからか、長過ぎる寿命が恨めしくもある。


 見送る側は、いつだってアタシのほう。


 あと幾度、繰り返せばよいのだろう。


 出会いの数より、別れの数ばかり考えてしまう。


 独りで居れば、たちまち過去を振り返る。


 盛り上がるのは、昔馴染みとの昔話のみ。


 今経験している全てが、すぐに過去の出来事になる。


 この集落での生活もまた、そのひとつに過ぎないのかもしれない。






 空の色が白から青へ変じる。


 そうしてしばらく経ってから、ようやくオーガが目を覚ます。



「ふわあぁ~」


「おはよう。毎日毎日、よくもまぁこれだけ寝てられるものね」


「むにゃむにゃ…………ほぇ?」


「まずは水場で顔を洗ってらっしゃい」


「うぃ~~~」



 まだ眠たげな声を漏らしつつ、よろよろと屋外へ出て行く。


 相も変わらず、すこぶる寝起きが悪い。


 寝付きはいい癖に。


 常に身体を動かしているようなものだから、疲れ果てて寝ているのか。


 もっとも、朝から活動的だと、こちらも参ってしまうのだけど。


 集落の中とは言え、以前に魔物の襲撃に見舞われてもいる。


 用心のため、後を付いて行く。



「う~~~あ~~~」



 寝起きのこの子は、アンデッドよりも元気が無い。


 いや、この例えもどうかと思うけども。



「あらあら、オーガちゃんたら、今日も寝坊助さんみたいね」


「うぁ?」



 ケンタウロスの男性が女声で話し掛けてきた。


 人見知りをしない子だからか、集落の皆ともすぐに打ち解けたようだ。



「顔を洗いに出て来たんでしょう? 食事を用意してあげるから、サッパリしてきなさいな」


「しょくじ……」


「昨日の狩りの分、下拵したごしらえの終わった物を出してあげるから」


「お肉⁉」


「そうよ。ほら、目が覚めたかしら?」


「おっにく! おっにく!」



 いきなり元気になったわね。


 妙なリズムを刻んで、跳ねながら水場へ向かって行く。



「ポー! ポー!」


「何でアナタまで、はしゃいでいるのかしら」



 腕の中のコロポックルが、調子を合わせるように声を上げる。


 魔力を糧とする精霊は、物を食べない。


 後で、世界樹の根元まで行って、補充させてあげなければならない。


 あの周辺ならば、そばに居るだけで魔力を補える。


 問題はアタシの分かしらね。


 食事に野菜か果物が用意されているといいのだけれど。






 食事を終えれば、これまた恒例となったゴーレムを的にした射撃練習が始まる。



「今日こそは射抜くよー」


「それは困るデス。ちゃんとキャッチするデス」



 似たような遣り取り。


 よくもまぁ飽きないものだと、感心さえしてしまう。


 矢をつがえて、弦が引き絞られる。


 弛緩した空気が一変し、音が遠くなるような錯覚さえある。






 最初に気が付いたのは誰だったか。


 遠くから、地響きが聞こえてきた。


 地面も微かに揺れている。



「ほえ? 何か揺れてない?」


「揺れてるデス。治まるまで、待ったほうが──」



 バキバキバキバキ。


 ゴーレムの声を遮るように、まるで何かが裂けるような怪音が響き渡る。


 視線が無作為に周囲を彷徨う。


 一体、何が起きているというのか。


 そうして、異変を視認した。


 世界樹群の一本。


 砂煙を纏い、徐々に傾き始めているのだ。



「世界樹が……」


「え?」


「緊急事態デス! すぐに避難を──いえ、そばから離れないでくださいデス!」



 言うが早いか、ゴーレムが瞬時に移動し、オーガとアタシを抱き留めると、集落へ向かい移動し始めた。


 バキバキバキバキ。


 異音は止まない。



「何々⁉ どゆこと⁉」


「世界樹が倒れてるデス! もうすぐ強烈な揺れが来ると予想されるデス!」


「世界樹が⁉ と、父ちゃんと母ちゃんが──」


「チラッと見た限りだけど、違う木みたいだったわ。ご両親は大丈夫よ」


「ホントにホント⁉」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 異音を掻き消すかのように、地響きが強さを増し始めた。



「怖いよー!」


「大丈夫デス。ごーれむちゃんが守るデス」



 触れる布地の下は、ゴツゴツとして硬い。


 随分と古い付き合いになるが、今日ほど頼もしく思えたことは無かった。


 集落が近づいてくる。



「キャァ─ーーッ⁉」


「何が起きてるのよーーー⁉」


「うわぁーん!」



 同時に、悲鳴が聞こえてきた。



「皆さん、すぐに建物から出るデス! なるべく開けた場所へ移動するデス!」


「え⁉ な、なんで守護神様が此処に⁉」



 ゴーレムが発した声に、戸惑いの声が上がる。



「建物から離れるデス! 開けた場所へ移動するデス!」



 警告をひたすらに繰り返す。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 そうしている間にも、地響きは酷くなってきている。


 屋内からは、何かが割れる音や、倒れる音も聞こえ始めていた。


 皆が、集落の広場に集まって来る。


 ようやく地面に下ろされると、ゴーレムが世界樹に対峙するように位置取ってみせた。



「なるべく一箇所に固まってくださいデス!」



 恐らくは、身を挺して庇うつもりなのだろう。


 それに比べて、アタシは何をしているのか。


 同行したのは、守るためのはず。


 ならば、アタシもできることをしなければ。


 つたを周囲へと伸ばす。


 地中にも展開させ、地面を縫い付ける。


 形成するのは半球状の檻。


 ゴーレムを除いた、全員を囲いきる。


 網目を密に、時間の許す限り強度を増してゆく。



「ご、ごーれむちゃんはどうするの⁉」


「どれだけの衝撃が来るか見当も付かないわ。ゴーレムとアタシで、どうにか衝撃を軽減してみせるから」


「け、けど! 外に居たら──」


「ごーれむちゃんの心配は無用デス。みんなを守るためにって、ずっと昔のマスターに創られたデス」


「そんな……ッ!」


「来るデス! みんな、伏せてくださいデス!」



 暴れるオーガを片腕で抱き留め、もう片腕でコロポックルを抱える。


 次の瞬間、今までの比ではない激震が襲う。


 強烈過ぎる揺れは、いとも容易く己の位置を見失わさせた。






本日は本編70話まで投稿します。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者は転職して魔王になりました』 完結しました!

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