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3話 訪問者は隣国の王子殿下

「で? お前の要望通り国境に来たけど?」

「ありがと。ここに拠点を起きたくて」


 場所ははげ山、イディッソスコ山。眼下にはラレスニサト湖と樹海。

 八合目ぐらいからは何もないはげ山になるここが目的地だ。

 私の国パノキカトは南に位置し東西横にのびている。

 私の国から見た北東にエクセロスレヴォ、北西にシコフォーナクセーという国が位置している。

 この三つの国の国境が交わる大きな山脈の始まり。ここが当面の私の拠点。


「険しい山の上だし、魔物も多いから人寄せつけないかなって」

「ふーん」

「あと国境なら国からの干渉を少しだけ時間稼げるかなって」

「まあもって一ヶ月だろ」


 それでもだ。

 精霊王と対話するのに一番手っ取り早いのが自国パノキカトの神殿。他だと繋がる為の場所作りが必要になる。あの意識の場所は死んだ時にしかいけなさそうだし、精霊王が出てくるタイミングを見計らって神殿に忍び込むしかない。

 この後のことを考えれば、パンセリノス・ピラズモス男爵令嬢が新聖女として祝福を受ける時が最大のチャンス。精霊王は自ら出て啓示するはず。ここを狙うしかない。


「精霊王と話が出来れば、ここを去るし」

「聖女の力をなくしてもらうってやつか」


 全部見たアステリも話が早い。説明省ける。

 

「よし、建てよ」

「待て、俺にやらせろ」

「え?」


 簡易な家を建てるぐらいなら今の私にもできるけど、閃いたのかアステリがやると主張した。

 せっかくなので、任せる。


「大掛かりなのは久しぶりだ」

「よろしくでーす」


 アステリの足元で光る魔法陣。

 そして大地が揺れる。

 目の前のはげ山から上り立つ土。

 それが形を成してそびえ立つ。

 大きな城が目の前に……え、城?


「よし、イメージ通り! いい具合じゃねえか?」

「ま、まった、城? なんで?」

「イリニの記憶じゃ、こういう山には城って相場が決まってるだろ?」

「いや、確かにファンタジーゲームとか洋画なんかで見たことあるけど! 第一これだとラスボスいる系だし。私ラスボスじゃないんだけど!」

「細けえことは気にすんな」

「ひどい!」


 変えてと言っても変えてくれなかった。

 むしろ意気揚々としていて困る。反逆の罪を被ってまで、ここまでしてくれるのは嬉しいけど、城はだめでしょ。


「ラスボス、ねえ」


 満足そうにアステリが笑う。

 否定はしたけど単語を発したのが良くなかった。

 城ができて僅か三日で私はラスボスぽい魔王の称号を得てしまう。

 悪いことするつもりはないってば。



* * *



 城の中でぼんやり過ごしていたら、城に住み着いた魔物の一人、ケセランパサランが意気揚々と報告してくれた。


「ニンゲンがきたよ」

「え?」


 来る人間全拒みをしていた城内。

 まさかの訪問者を告げられた。

 しかも訪問者はアステリに魔法で見張ってもらっていて、出禁条件該当は強制送還しているのに。


「アステリ?!」

「いやー、あいつら俺のダチでさ」

「身内贔屓しないでよ!」


 城には人間はあまりいない。今では賑やかだけど、その九割は魔物だったりする。


「ま、あいつも立場があるから、顔だけ合わせてやってくれよ」

「入城オッケーなの、きちんとリストにしてるでしょ。てかドラゴンは? フェンリルは? 何してたの?」

「俺がスルーするよう伝えた。まあ一個師団の兵は随分離れた所に待機で、あいつらだけしか来なかっただけ良心的じゃね?」

「もう……で、友達って?」

「シコフォーナクセー第三王子殿下と、その側近」

「ふうん」


 興味は湧かないけど仕方ない。

 アステリに言って私の元まで通してあげた。


「失礼する」


 アステリの友人ってことは年は近いのかな?

 男性二人、騎士だ。エンブレムから団長と副団長なのがわかる。前にいるのがシコフォーナクセーの第三王子殿下兼騎士団長で、半歩後ろにいるのが側近兼副団長。


「イリニ・ナフェリス・アギオス侯爵令嬢、この度は城内入場を許可頂き誠に感謝の」

「堅苦しいのはいいよ」


 その言葉で、身体を固くする王子殿下。

 もう何度も見てきた。

 聖女でない私を見て驚きに固まる人々。

 言葉遣いも振舞も聖女だった頃の私じゃないからな。

 今ではノリで衣装も聖女から掛け離れたパンツスタイル、色は黒基調。

 しかも私は玉座に座り足を組んで踏ん反り返っている。


「なら、その言葉に甘え失礼する」


 顔をあげた王太子殿下の表情はかたい無表情。


「はあ……」


 聖女を期待して裏切られ固まり声を失う人間の反応には溜息しかでてこない。


「貴方も"聖女様"がお望みなわけ?」

「え?」


 いい加減、目を覚ませばいいのに。


「もう、貴方の知ってるいい子ちゃんはいないわよ?」

「何、を」

「一週間とはいえ、知ってるでしょ? 私がなんて呼ばれてるか」


 息をのむ目の前の男。

 逡巡を見せた騎士団長兼第三王子殿下は小さく返した。


「……魔王」


 まあ後々語るとして、割と早い段階でやってきたお客様にパワーアップした力を見せつけたら、それが新聞やらで広まって、魔王として取り扱われてしまった。

 聖女をやめたい私にはちょうど良かったし、この際だと乗ってしまったのが最後。

 けど、こうして聖女の私が好ましい人間には、魔王にジョブチェンジが苦痛らしい。

 王太子殿下から苦々しく囁かれる言葉。予想通りの反応に、にんまり唇が弧を描く。

 知ってるなら、さっさと幻滅して帰ってもらおうっと。

 見下ろした王太子は苦しそうに眉根を寄せた。


「で? なに用?」

「……」

「ちょっと?」

「……は、すまない。その、いや、」


 我に返り、ぐっと力を入れて私を見上げた。

 あ、この人しっかりしてるな。王太子の顔になった。


「私の名はエフティフィア・アグノス・パネモルフィ。シコフォーナクセー第三王子兼、王都直轄の騎士団の長をしている。今日は国の代表として、貴殿を、保護したく、伺った」

「保護?」


 なにそれ、意味わかんない。


「貴殿の城はシコフォーナクセー領土内に建っている。こちらに管理権限があるかと」

「は?」

「え?」

「三国の国境真上にあるはずなんだけど」

「いや、それはない。こちらで調べ済みだが」


 キッと側に立つアステリに鋭い視線を向ければ肩を上げてシニカルに笑う世界最強の魔法使い。

 こんにゃろ。

本日より1日1回夜更新に戻ります。ヒーロー登場、ラッキースケベは5話からです。



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