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太古の昔、名もなき世界の始まりに、二つの極星だけがあった。
昼を司る黄金の星、即ちアステラ・クリューソス。
夜を司る白銀の星、即ちアステラ・アルギュロス。
この極星、この名もなき世界に六頭の聖なる獣を生み出す。
これ即ち火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフ、土のノーム、闇のプリマギア、光のルーメン。
また、これを従える六人の操り人もあり。
これ即ち火のガイナス、水のミューズ、風のフィオーネ、土のジランド、闇のオルディナ、光のアルバトレ。
聖なる獣は与えられし元素の力を以て、世界に色と形を持たせた。
操り人は幾多もの〝始まりの種子〟を蒔き、世界に命の営みを齎した。
種子は蒔かれればその地に結び付き、発芽するとそこへ番いの生命を生んだ。
生命は喰らい合い、交わり合い、新たな生命を生み育て、やがて朽ちては地に還った。
これを繰り返し、いつしか世界は生と死の豊かなる循環によって満たされた。
創世は滞りなく、運命に導かれるまま成ったかに見えた。
然し、これも運命の導きか、これら天地の創造を、世界の裏側より黒き凶星が見つめていた。
無を司る黒鉄の星、即ちアステラ・マヴロス。
凶星は厄災を生み、厄災は開かれた門より世界そのものを飲み込まんとした。
聖なる獣と操り人、極星と共に力を結集し、この厄災を封じ込めるも滅することは叶わず。
平穏は永く続いたが、幾星霜を経て再び、世界は厄災の門に晒される。
聖なる獣と操り人、そして極星には協約があった。
再び門が開くことあらば、一度目と等しく力を結集し、等しく門を封ずるべしと。
然し協約は守られなかった。凶星に魅入られし裏切者がいたのだ。
狼狽えの間に門は広がりて、最早何人も封ずるに足らず。
如何にかと導き出された苦肉の策は、始まりの種子の駆使であった。
本来の用途とは異なれど、ほかに為す術もなしと皆これを受け入れる。
操り人は種子を放ち、門は種子によって封じられた。
然しこの時、想定とは異を為す事態が起こった。
種子は門へと結び付くと、厄災の力に蝕まれながらも、これを超克し、受容し、新たなる生命として地に堕ちたのだ。
人を恨み、人を憎しみ、人を喰らいしこの新たなる生命、人々はこれを悪しき獣――即ち魔獣と呼んだ。
魔獣は瞬く間に勢力を広げ、やがて世界を覆い尽くした。
進化と共に様相を変え、いつしか絶大の力と巨躯を持つ、魔獣の長なるものも出現す。
数えるに六頭、これら魔獣の長は各地にて人の里村を蹂躙した。
六人の操り人、これら魔獣の長と戦い、果たして打ち破ったとも敗れたとも聞く。
時の流れと共に風化し、細々なれど語り継がれ、やがて彼らは伝説となった。
どれだけの時が流れたか、いつしか彼らをこう呼ぶ者やあり。
運命を司る朱鐡の星、――即ちアステラ・エリュトロス、と。