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アシュッツベルク公爵家は幽霊屋敷

あれから、オルトは魔法が使えなくなった。

一時的な物であるとは思うが…自分が邪神だったという事がショックだったのかもしれない。


シャルディアから、聖剣を借りて、今日もエリオットとジオルドと共に、闇竜が目撃されたと言う山の中を捜索していた。この山は森になっており、それ程、高い山という訳でもなく、

少し行けば街に出てしまう。闇竜が街へ出ってしまったらどうなるのか。ほってはおけなかった。


ハリス王国から援助を受ける代わりに闇竜退治に協力する約束である。

オルトは魔法は使えない状態だけれども、聖剣があれば、どうにかなると、

エリオット達に今日も協力する事になったのだ。


いきなり雨が降って来た。


酷い雨である。


エリオットが叫ぶ。


「街へ出て、雨が止むのを待とう。」


ジオルドも頷いて。


「昼を食い損ねてしまったしな。そろそろ夕方だ。もう、今日は終わりにした方がよいのではないのか。」


オルトも頷いて。


「そうですね。ともかく、街へ出ましょう。」



3人は街へ向かったのだが、途中で森の中、迷ってしまった。

だから、まさか、隣国へ入り込んでしまうとは思いもしなかったのだ。


「屋敷が見えるっ。屋敷だっ。」


エリオットが指させば、いかにも貴族が住んでいるだろう大きな屋敷が見えて来た。

森の中、散々道に迷って、やっと開けた所に出て来たのだ。

雨も止まず、びしょ濡れである。

あそこの屋敷で、雨宿りをさせて貰おう。3人はそう考えたのだが。


見知らぬ3人をそう簡単に入れてくれるだろうか?

盗賊とか、間違えられて退治されてしまう可能性もある。


ともかく、3人は屋敷へと向かった。

硬く締まっている門を開けて、どしゃぶりの雨の中、玄関へだどりつく。

呼び鈴がついており、そのボタンを押すと、鐘の音が鳴り響いた。


扉の向こうから声がする。


「どなたでしょう。」


ジオルドが答える。


「私の名は、ジオルド・キルディアス。ハリス王国の騎士団長だ。道に迷ってここへたどり着いてしまった。雨宿りをさせて頂きたいのだが。」


「貴方様が本物だという証拠はありますか?」


「確かに、その前に聞きたい。ここはどなたの屋敷なのか。」


「ここは、アシュッツベルク公爵屋敷でございます。」


エリオットがジオルドに、


「隣国へ来ちまったようだな。」


「イルギルト帝国か…アシュッツベルク公爵と言えば、顔見知りだ。」


「俺も同じく顔見知りだ。レオンフィード皇太子に付き添ってアシュッツベルク公爵が、ハリス王国に来た時に挨拶したな。」


「凄い美形な若い公爵だ。」


二人はごちゃごちゃと話している。


オルト自身はアシュッツベルク公爵の事を良く知らないが、

ともかく、寒くて寒くて仕方がない。


扉の向こうの人物に向かって、


「俺はミルデルト王国、勇者オルト。ハリス王国で、闇竜退治に協力していたんだが、

道に迷ってここへたどり着いてしまった。どうか…雨宿りをお願いしたい。」


すると、扉が開いて、扉の向こうには10人程の騎士達が剣を構えて、こちらを睨みつけている。

当然の対応である。

盗賊が勇者の名を騙っているかもしれないのだ。


奥から銀髪を背まで流した凄い美男がこちらへ歩いて来て、


「私がテリアス・アシュッツベルク公爵だ。これは確かに…イーストベルグ公爵と、ジオルド騎士団長でしたかな。」


エリオットが右手を差し出して、


「久しぶりです。アシュッツベルク公爵。道に迷ってしまいましてな。雨宿りをお願いしたい。」


アシュッツベルク公爵が手を差し出そうとしたその時、傍にいた赤毛の小柄な夫人が、

オルトの方を見て真っ青な顔をして、


「こ、怖いっ…凄い怖いっ…」


そう言って、その場に倒れ込んでしまった。


「コリーヌっ。どうした?しっかりしろ。」


アシュッツベルク公爵であるテリアスが、コリーヌと呼んだ女性を抱きかかえる。


メイドのアリーと言う女性が、


「奥様をお部屋へ…。」


「解った。」


コリーヌと呼ばれた女性を抱きかかえて、テリアスは奥の部屋へ行ってしまった。


すると品の良い中年の紳士と夫人がやって来て。


「私は前公爵のジュフテーム。こちらは妻のエステーヌです。すみませんな。

嫁の公爵夫人が倒れてしまって。私が代わりに案内致しましょう。」


エステーヌは3人に向かって、


「ともかく、客間へ。タオルと温かい飲み物をお持ちしますわ。

今日は日も暮れて参りました。泊まっていって下さいませ。」


エリオットが嬉しそうに、


「それは有難い。世話になります。」


ジオルドも頷いて。


「有難うございます。」


オルトも頭を下げて。


「助かります。有難うございます。」



3人は客間でタオルで濡れた髪や身体を拭いて、温かい紅茶で喉を潤す。


メイドのアリーがやって来て、


「お部屋の準備が出来ました。それぞれ一部屋ずつ用意してございます。

ご案内いたしますので、まずはお風呂に入って、ご夕食の準備が出来ましたらお呼びします。」


「有難う。」


3人は礼を言い、それぞれの部屋で、風呂に入ったり、夕食の時間まで身体を休める事にしたのだが。


まさか、あのような目に合うとは思いもしなかったのだ。



オルトが風呂に入ってから、用意されていた服に着替えて、ふと窓の外を見たら、

見てしまったのだ。


青白い火の玉がフワリフワリと闇夜に浮かんで飛んでいるのを。

雨が降っている中で、ここは2階だ。


「うわっーーーーーーーーーーーー」


勇者で邪神であるオルトだが、得体のしれないお化けとか、怖いものは怖い。


思いっきり悲鳴をあげて、隣の部屋のジオルドの元へ飛び込んだ。

ジオルドも青い顔をしながら。


「聞いてくれっ。風呂場で石鹸がないって呟いたら石鹸が飛んできたんだ。

他にもほら…」


宙を本やら枕やら、フワフワと浮かんでいるではないか。


二人は思いっきり悲鳴をあげた。


これでも勇者か騎士団長かと言われてみても、怖いものは怖い。


エリオットの部屋へ飛び込めば、エリオットがテーブルの上に載っている冊子を見てニマニマしている。


二人を見て、


「どうしたんだ?二人とも。なぁ。聞いてくれよ。アシュッツベルク公爵ってスケベだぜ。

俺の部屋にこんな冊子をだな。公爵領の風俗情報誌。お勧めはミランダちゃん。20歳。胸ボン尻ボン、魅力的な金髪美人。たまらねぇーー。妻がいなけりゃ、速攻、走っていって楽しんでいる所だ。」


ジオルドがその風俗情報誌をエリオットから奪い取り、丸めてスポーンとエリオットの頭を殴りつけた。


「それどころじぁないって言うのに、お前はどうしてこう呑気なんだ???」


「だってよ。ミランダちゃんだぜ。ミランダちゃん。」


「俺達3人が、世界一強い嫁を持つ、恐妻家って事を忘れたのか?」


オルトが口を挟む。


「俺はまだ結婚していないですし、シャルディア様はとても優しくて…」


エリオットが、


「シャルディア様も俺の妻と似たタイプだと思うぞーー。浮気したら、ちょん切られるんじゃないのか?」


「ちょん切られるっ?何をですかっ?エリオット殿っ??」


「ちょん切るって言ったら…」


ジオルドが頷いて。


「エリオットも、ちょん切って貰えばよかったのでは?何がミランダちゃんだ。何がっーー。」



その時、ふわりと紙がテーブルに落ちて来て、ペンがさらさらと何か言葉を紙に書いた。

ペンがである。誰もペンを握っていない。


- ミランダちゃんはええぞーー。公爵領一の風俗嬢じゃ。あ、わしの名前はソルジュ。

わしの奥さんもそりゃもう怖くてのう。浮気をした度に、よく殴られたものじゃ。 ―


オルトはジオルドと共に悲鳴をあげる。

ペンが誰もいないのに、ペンだけが字を書いている。


エリオットは楽し気に。


「ソルジュ。お前の嫁さんも怖いのか。」


ペンがサラサラと文字を書いていく。


- おおっ。怖い怖い。結婚なんぞするもんじゃないのう。お陰で、わしは…

人生悔いだらけじゃ。もっといろいろな女性とイチャイチャしたかったの。-


「解る解る。その気持ちよく解るぞ。まだまだ遊び足りない年頃だよな。俺達は。」


ジオルドが突っ込む。


「何が遊び足りない年頃だ?エリオットはいい歳をした子持ちだろうが。いい加減に諦めろ。そこのペンっ。お前もだ。」


- わしはペンではなく。ソルジュじゃ。 ―


怪しげなペンが反論してきた。


その時、扉がばーーーんと開いて、さっきぶっ倒れた公爵夫人コリーヌが仁王立ちしていた。


「ソルジュっ。ダメでしょ。お客様を怖がらせちゃ。」


ペンがぱたんと倒れて、そこにいた何かはいなくなったようだ。


コリーヌは3人に謝って。


「うちの幽霊が飛んでもない失礼を。」


エリオットがニンマリ笑って。


「ソルジュは幽霊さんなのか。楽しかった。面白い奴だな。」


オルトは心配になる。この公爵夫人、さっき倒れなかったか?


「あの…大丈夫ですか?俺の顔を見て、倒れられたようですが。」


「あ…先程はごめんなさい。私、不思議な物が見えるんです。勇者様ですね。

勇者様は綺麗な魂と共に、恐ろしい邪悪な気も持っていらっしゃる。

だから、驚いたんです。こんな凄い気を持った人?人かどうか…ともかく、

私…」


オルトは首を振って。


「俺は邪神らしいです。他の邪神が俺の事を狙っていて、必ず仲間に引き込むと…でも、俺は勇者でありたい。好きな女性もいますし…故郷で殺された両親が俺の本当の両親であるって…例え血が繋がっていなくても、俺にとっては本当の…」


涙がこぼれる。


そうだ…死にたかったんだ…


でも、自分を死から引き止めてくれているのは、シャルディア様の明るさ…そして彼女が好きだと言う自分の心…


コリーヌはにっこり笑って。


「私でよければ力になりますっ。だから、そんなに泣かないで。勇者様。

皆、勇者様には笑って欲しいと思っていますよ。勇者様が大好きなその女性も、勇者様の笑顔が大好きなはずです。」


「有難う。アシュッツベルク公爵夫人。」


「いえいえ。」




その後、公爵一家と夕食をご一緒した。


テリアス・アシュッツベルク公爵は、凄い美男で、まだ若い公爵だ。


その妻、コリーヌ・アシュッツベルク公爵夫人は、赤毛で、背の低い可愛らしい人で、


前公爵夫妻も、その可愛い嫁である公爵夫人を可愛がっているようだった。


まるで春のお日様のような、公爵夫人。


オルトは、そのお日様のような人柄に心が温かくなった。


勿論、愛しているのはシャルディア様だが…


アシュッツベルク公爵であるテリアスも、コリーヌに夢中のようで、


「コリーヌの具合が良くなってよかった。心配したよ。」


前公爵のジュフテームも。


「コリーヌは可愛い我が娘だからな。」


前公爵夫人エステーヌも頷いて。


「コリーヌが嫁に来てくれて、我が家は花が咲いたようですのよ。」


「まぁ、お義母様ったら、はずかしいっ。」


コリーヌが赤くなる。


エリオットが、優雅にナイフとフォークで肉を切り分けながら、


「嫁さんは可愛いに限りますな。うちの妻は強くて強くて。」


テリアス・アシュッツベルク公爵が、優雅にワインを飲んでから、


「サリア殿だったな…サリア殿は貴族女性達の憧れの的だぞ。我が国でも人気がある女性だ。剣技も優れている上、ダンスを躍らせたら一級品、さすが元王女様だけの事はあると…」


「そうなのか…」


ジオルドが頷いて。


「サリア殿はエリオットには非常にもったいない位の嫁だと全世界がそう言っておりますぞ。」


エリオットが不機嫌に、


「解っている。サリアは俺なんかが娶ったらいけない女性だったって事…」


オルトがエリオットに、


「そんな事はない。エリオット殿は貴族として、マナーも、ダンスも、剣技も見かけだって何もかも優れていて、俺は嫉妬した位です。ですから…そんな事、言うなんて意外です。

もっと自信にあふれていると思っていました。」


「え???勇者殿は俺の事、そういう目で見ていたのか?」


ジオルドが皆に説明する。


「エリオットみたいな男を、スパダリって言うらしいですぞ。まぁ何でも出来る男ですから。

サリア殿も、よくエリオットがクズだったらとっくに別れているのに、何でも出来て、魅力的だから別れられないって言っていますからねぇ。こいつが女にだらしがない部分を除けば、完璧なんですが。」


エリオットが不機嫌に、


「今は真面目だ。」


「ミランダ…」


コリーヌがボソッと呟く。


「ミランダちゃんは?って背後からソルジュが言っていますが…」


エリオットが慌てて、


「あれ、置いたのソルジュだろうっ???そりゃ、ミランダちゃんは魅力的だが…」


テリアスが眉を潜めて、


「何だ?ミランダって言う女性は。」


ジュフテームがうんうんと頷いて、


「ミランダ…確かにいい女だったな。」


「貴方――――。そこの所、よーーーーく、聞かせて貰いましょうか。」


妻のエステーヌが凄い形相で睨みつけて…




絶対零度の世界が展開している。


前公爵夫人のエステーヌは、ジュフテームの襟首をひっつかんで、

部屋を出て行った。



微妙な雰囲気で、夕食が終わり、


オルトは皆と別れて、客室へ戻り、眠る事にした。



色々とあって楽しかったが疲れたな。

早くシャルディア様に会いたい…


今日もシャルディアの事を思い、眠りにつくオルトであった。


エリオットはボケでジオルドは突っ込みです(笑)

コリーヌとテリアス始め、アシュッツベルク公爵家の愉快な人々は、「赤毛のモブ令嬢と、白竜の公爵様の恋」の人達です。

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